私と私
「……なるほど?つまり次は既に居て、あそこに居着いている、と言うんじゃな?」
ふよふよと高度を下げ半身の目の前へと降りていった。
『そう、ただ次の奴じゃない可能性が高いだから違和感があるし貴方も気が付かなかった』
声のトーンはやけに平坦でまるで問い詰めるかのようだ。
此奴の感情、というか表情は分からぬがそれとなく怒っている顔ではないかという気がする。
「ん?……そんなことはあったかの。少なくともそんな経験はないぞ?」
「まだ可能性の話。でもここまで処理した物が既に例外を重ねている以上否めない……ここでは経験を信用しきるのは危険」
まぁ、例外は相手だけでないのが事実だ。
ルルイエ率いる【魔族】なんて本来ありえない戦力だ。
「なるほどのう……ところで私よ、改変をどうにかしてくれと言われてな?魔術の構成と転移門周りも弄ったじゃろ?お主がいじったせいでなかなか大変なことになってての、戻すか何とかしてくれんか」
すると半身が急に慌ただしく動き始めた。
手を広げくり抜かれた八面体の空間に青白い光がめぐり始め次第に壁一面に今の世界の状況が書き込まれ始めた。
なるほどこの空間はそういうことじゃったか……
アウラたちが男の研究室で使っている光球と表示の仕方は違えどたしかに表示している内容は全く同じものであった。
『……私がやったのはあくまで追加。改変はした覚えがない、確認する』
「というか追加も戻してくれんか、私がどうにかされてしまうんじゃが……」
良くこんなことをして我々に気が付かれなかったな、と感心しつつ本来の目的を振る。
半身もこちらを向くことなくデータと顔のない頭で壁面をみつめながら答える。
『……それは私の責任の範疇ではない。というか貴方の過去のしでかした事のせいですよね?』
「うっ……そ、そうでなくてもこれはお主を呼んだ私のせいにされるんじゃよ!」
アウラの声が響く。
流石に煩かったか、半身が私を見つめている。
『やはり変わりましたね、仕事を終えて自由に文化を吸い上げ感情豊かになりましたか』
そしてぽつりと一言そう呟いた。
データを漁る手を止め正面で浮遊するアウラの方へと手を伸ばす。
「な、なんじゃ」
『いえ、私の半身はここまで変わったのかと……あと半分私に押し付けた恨みでしょうか、役立ってもらいます』
半身が頬に触れながら光を帯びる。
急激な脱力感がアウラを襲った。
「なっ、なにを……」
『私自身の同期ですよ、別視点からの照らし合わしに我々は最適でしょう?』
アウラの視覚から取られた情報が壁面に並んでいく。
アウラが自力で浮遊できなくなるとそのまま半身に吊られるような形になってしまう。
「か、身体の首が伸びてしまうんじゃが、どうにか……ならんのか?力が入らん……」
『……持つ所が悪かったですね、はいこれでいいですか?』
ひょいっと顔を持ったままアウラを軽々と上に投げ、今度はアウラの脇の下で支える。
「く、首長になってしまう所じゃった……」
アウラは生物ではない、故に今のでも死ぬことも痛むこともないが皮膚は伸びてしまうし跡も付いてしまう。
首を擦りながら感覚を戻す。
『直せるでしょう?』
さも当然のように聞いてくる。
力を抜かれている今どう直せというんじゃ……
「……お主に色々と力を持ってかれとるんじゃが」
『そうでした、でももう返しますよ……欲しい情報は頂きました』
そう言って半身の手から光が消えると先程の喪失感が消え、中に水が流れてくるように力が舞い戻ってくる。
そのまま手を離されても浮遊したままでいられた。
「……でなにを照らし合わせるんじゃ」
『改変の確認です、恐らく私ごと改変された可能性があったので外部との照らし合わせで修復します』
そう言うや否や半身の身体が足元から瞬間消え、再び構築されていく。
これが我々自身の修復、浄化作業だ、一度に行わず下から順に再構築を行い欲しい情報だけのこしつつもリセットをすることができる。
しかしながら逆を言えばそれが必要だったということはつまるところ修正が必要だったと言っていることになるのだ。
半身は執拗に再構築を繰り返していた。
それほどまでに消さねばならぬものがあったのだろう。
「……そんなに変わっておったのか」
『ええ、全く。私から意図的に情報を消してましたね……修正箇所を提示しました、確認を』
壁面にアウラから吸い出された情報と半身の持っていた情報が並べられる。
実に数百、数千と言ったところだろうか。
ここから分かるのはただ半身も改変を知らず知らずの間に食らっていたことではなかった。
「ほう……都合よく隠しておるな」