口裏合わせ
学長室には何事もなくたどり着き三人は他の教師を待つ形をとることが出来た。
「あと何人ほどおるかの」
「確か……十二人程でしたかな?ペトラ、あってるかの」
「ええ、所長。丁度一人居なくて代行の方が居るのであってます」
「全員でなくともさほど問題は無い、あと二人来たら始めようかの」
ぼちぼち人も集まってきている。
とりあえず八割入れば十分じゃろ。
授業がある彼らを待たせるのも悪いしの。
とここで丁度駆け足ほどのテンポのものと引っ張られるような足音が聞こえてくる。
「なんでお前はそれを先に言ってくれないんだ!」
「ちょっと!ら、ライカさん、僕は自分の足を使いますから!そもそも生徒に教えてる最中に邪魔出来るわけ……す、ストップ、痛い!痛っ!」
……丁度二人きおったな。
その二人は片方の首根っこをもう片方が引きずる形で勢いよく現れた。
「ごめんなさい、遅れました!」
既に部屋にいた者の視線はライカではなくダンの方に哀れみを込めて向けられている。
しかし当人は遅れた事に関しての視線としか思ってないようだった。
「……ライカ、もう1人の方が伸びかけておるぞ」
「え?……あ」
ダンは解放されたがその場にふらつきどれだけ凄まじい連れられ方だったかがそれとなく分かる。
咳き込んだあと肩で息をしながらダンも声を発した。
「ゲホッ……ゲホッ……本当に飛びかけましたよ……全く……ゲホッ」
全く大丈夫そうに見えない。
「別にあれは補習じゃないんだから先に教えてくれれば良かったんだ、なのにこいつ律儀に部屋で待ってるもんだから……」
「生徒と話してたら普通待つじゃないですか……」
ライカの釈明によると生徒の興味的質問に答えてたらしいのだが部屋にダンが来たと思えばずっと入口の外で待っていたらしい。
……まぁ話してる内容がわからない以上ダンがそうする理由も分からんでもない。
ん?どちらにせよダンは何も悪くないのでは……?
「……まぁそこの話は後で二人でやっとくれ。それより必要な人数が揃ったからの、話を始めたいんじゃが……」
「え?あっ、あぁ。そうね」
学長室はユラの研究室が一部侵略しているので全員が座るほどのスペースは生憎存在しない。
どこかにそういうスペースはないのかと思ったが奇妙にもこれも使用中との事だった。
ユラが周囲を確認してから始めてもいいのかと目で合図を送ってくるのを二つ返事で始めてくれと返す。
「コホン、では始めよう。諸君はここにいるのがアウラ……先生であることは知っているじゃろう。突然戻ってきたことについては後で本人から語ってもらう故今は省く。
さて、皆の者はこの学園の地下にある物について覚えておるな?今回アウラ先生にはそれの処理に当たってもらう。これだけならこのような場を設ける必要はないが生徒を足止めする必要があっての、教師諸君には口裏を合わせた上で午後から生徒が錬成教室に近寄らないようにしてもらいたい」
ユラの依頼に各々様々に反応している。
すると内一人の教師が挙手しつつ疑念を示した。
「……幾らアウラ先生とはいえ我々全員ですら入れなかった場所に行けるんですか?【錬成】のアウラ先生なら我々個々よりは遥かに高みにいらっしゃるでしょう、しかし全員でもとなると……」
それに合わせるようにほかの教師も無言で頷く。
少なくとも人に教えられる程には彼らも高みにいる自負があるのだ。
世界に広がっているそこらの魔法使いが並ぶのとは訳が違うぞ、と。
アウラもこれに対しては予想済みで元より用意してきた答えをつらつらと並べる。
「それについては私から答えよう。既にその言葉の意味も現状も理解した上でこうして来ておる。半年程籍を外していたのはそのためじゃ。今回私はあの壁を突破する術を手に入れて戻ってきた、なので心配は不要じゃ」
用意した答えに相手はまさにその計画通りの反応を示してくれる。
当の本人は既に疑惑を強めておるが大丈夫じゃ。
「……新たに魔法を開発した。と?」
案外魔法を開発するというのは例外はあれどそう珍しいことでもない。
根幹からの開発は【錬成】や【鑑定】などのことで理に関わるため大いに驚かれるものだが、普通の魔法の場合新たに使い方を見つけたと言うのが正しく、発想次第でいくらでも見つけられる以上それなりの頻度で開発されているのだ。
現に今見える教師の中にも何人かその経験があるものもおる。
「うぬ、何ならその証明も込めて障壁の突破だけお主たちの授業の都合さえつけば生徒らにも見せてやろうと思っておるんじゃが……なにより噂からの騒ぎにさせたくないからの、あえて最初の所だけ見せてしまおうとな?」
ふむ、と皆自分の考えを巡らせたり、自らの日程を確認したりし始めた。
またほかの教師が確認のように聞いてくる。
「……つまり我々は授業の始めの方は錬成教室周囲に生徒を連れて来ておいてアウラ先生が地下に消えた後授業を始めてくれ、と?」
「そうじゃな、ただ音と煙が凄くてな、怪しまれないためにも賛同してくれると助かるのじゃが……」
生徒が爆発などで騒がないように出来れば見せに来る必要はない。
しかし土や火や水を操ることで起きる音には慣れていても爆発、となると流石に気になるというものだ。
そもそも生徒同士の訓練において爆発など起こせるほどのものはいないのだから。
「……私は参加させる。彼女が何か開発したってのが気になるからね、そんな障壁破りなんてもんで大掛かりなものは見たくて見れるもんじゃない、アウラ先生や、生徒のために簡単に解説も付けてもらえるか?」
ようやく腕組みをして黙って聞いていたライカが口を開いた。
「……ま、まぁよいぞ」
……さて困った。創造主の権能に誤魔化しのエフェクトのつもりだったのだがどうしてくれようかの……