もう1人の私のしたこと
昼前、家を出るとやはりまだごく一部で修繕が進んでいない家屋が見える。
「まぁ、半年じゃからな……そういうもんじゃろ」
しかしながらそれでも町並みというのは変わるもので、顔ぶれもまた以前と少々異なっていた。
「む。やはり外では服装を変えるべきだったかの」
時間が時間故に街ゆく人がチラチラとこちらを見ていく。
昼前に学園の制服を着た人間が町中を彷徨いているのは確かに気になるだろう。
私は残念じゃが生徒じゃなくて教師なんじゃが。
そのまま街を進み学園へと足を踏み入れてみると平和な世界が残っていた。
あの時一気に【錬成】で直した箇所はそのままになっており、手は加えられていなかった。
「直せばよかろうに……」
先ずはユラじゃな……あやつは授業はしておらんしの。
ついでに学園の状態確認と称してのんびりと回りながら向かうことにした。
まずは門を抜け学園の玄関を潜る。
内部は当然ながら離脱した当初と比べればかなり修繕、改築がかけられており、あの災害の空気は感じさせなかった。
ここは以前の中央部、避難に使った場所じゃな、かつてはこのまま奥へ抜けると中庭、書庫が、左右へ抜ければ各教室や寮棟が並んでいた。
当然ながらこの時間にこんな所に生徒はいない。
……静かなものじゃな。
玄関を奥に抜け中庭が望める通路に差し掛かると生徒が対面式に何やらやっている、恐らく実践形式の試合だ。
「……以前はこんな物騒だったかの」
歩を止めて生徒の戦う様子を見てみれば、以前より実戦寄りの魔法になったかに思われる。生活に使うようなちゃちなものではなく、少なくとも用意なく当てれば怪我をする様なものだ。
少なくとも記憶ではあくまで対魔物向けの低威力高効率の魔法を中心に教えていたはずでこんな対人向けの高威力低効率型、いわゆる軍用の魔法ではなかったはずだ。
しかしてアウラは教育方針には昔から口を出せるつもりは無いのでとりあえず丁度始まる一組の行く末を見てみる。
チーム分けのためか色違いの襷が巻かれているようだ、黄色と紫か。
暫し向かい合ったあと紫の方が先手を打った。
「我理に問う、万物を司る四素、その一つ、風よ……」
一対一において魔法を放つには幾らかの手段がある。
詠唱の簡略化や高速化、無詠唱行使、なかには詠唱中は身体能力に物を言わせて避け続けるか、そもそも短い物を使うか……残念なことに紫の彼はどれも持ち合わせていないようだが。
「遅いっ!『土・波塊破撃』!」
黄色の方がそう唱えた瞬間、大地がうねり、迫り上がって衝撃波のように紫の彼へ飛んでいきそのまま後方へ弾き飛ばしていた。
……ん?あんな短縮詠唱、私は用意した覚えはないんじゃが。
そもそもあの創造主が用意した魔法は魔力を操りそれが四つの素に影響することで様々に作用する。
理に問いかけるのは一種のアクセス権限であり、手段を問わずこれが無ければ四素のコントロールは出来ない、いやさせていないはずだった。
しかし彼は私や男が設定していない魔法を行使した。
あれは魔力を操ったのではない、土そのものを操ったのだ。
「しかし、飛ばされた方は大丈夫かの……」
のんびりと魔法を解析しているところではなかった、紫の彼は思いっきり飛ばされていたが大丈夫じゃろうか?……と、心配していたが吹き飛ばされた紫の方は汚れはしたものの魔法具か何かで軽減されているらしく、怪我をしていないのを遠目で確認した。
「間違いない、あれは半身の改変じゃ……」
耳をすませば、他にも明らかに用意した覚えのない魔法詠唱が飛び交っている。
もはや感傷に浸りながらゆるりと観察ではない、急ぎ半身がいるであろう場所へと走ったのだが……
◇
――旧錬成教室跡
「ん?……ここにあった目印がなくなっておる」
懐かしきアウラの持っていた教室兼研究室の前まできた。
確かここに入口があったはずなのだが……その壁の向こう側の地下へ向かう術が見当たらない。
視覚的には地下への入り口の判別要素が度重なった改築、修築でなくなってしまっていたのだがそういう意味で入れなくなったのではない。
アウラを含めたすべての存在侵入を意図的に遮断している壁があるのだ、おそらく半身が作り上げたに違いない。
そして確かに目の前に見える物理的な壁もあるのだが向こう側に部屋が残っているのは建物の形からわかる。
つまりこれは半身だけでなく学園も意図的に壁を作って遮断しているのだ。
……今は最悪権能に制限がないため地下に穴をあけることも出来ないわけではないが、生徒、教師以外にも職員はいるためだれが見ているかわからないため使うのは避けたい。
「……となるとユラのところで聞いてみるしかないかの」
開かずの間となった自らの教室にほんの少しだけ力を以て強引に抜けたほうがいいのではなかろうかと後ろ髪を引かれる思いも抱えつつ、アウラは着た道を戻りユラのいる学長室へと向かう。
――そろそろ学園に時刻を知らせる鐘が鳴り響く頃だ。