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一般人だけど世界滅ぼしたので世界作ります  作者: 超蔟
第十節 竜ノ娘編
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彩られる世界

「……でバックアップをしたいんだけど……」


 空いたカップに再び紅茶が注ぎ込まれる。

 しかしそれでもポットの中身は減ることはなく、常に満たされつづけた。


「それこそ創造主様やアウラ様に聞けばいいではありませんか……そうしたのはあの方々なんですから」


 あの侵略者騒ぎの後、男が【厄災】に何を吹き込んだかはわからないが世界から消えた魔物は日に日に目に見える勢いで補充され続けている。


 それもかつてと同じ種ではないのだ。

 彼等は異様なまでの順応性と多様性を表し始めている。

 

 多様性では海洋を舞う者、雪原を駆ける者、森に潜む者……中にはもはや生物とすら思えない魔物すら現れ始めた――所謂生きた構造物達である。


 特に面白いのはそれらの順応性の方である。

 元々は同じ魔物として放たれたはずであったのに放たれた先に合わせて彼らはいともたやすく生態を変えるのだ。

 それこそ元は海に放たれた魔物が陸で放たれたのに地表を這って泳ぎ始めるほどには異常だ。体格や細部の変異という表現では済まされない。


 そんなものが大量に多種にわたって増えてしまった結果マキナが世界を保存する最中に次の種が出来上がってしまい保存のし直し……ということが続いているのである。


「マキナ様、いっそのこと増え続けるのはわかっているのですから多少の新種が保存されていないことはあきらめるべきではないでしょうか?」


「そんなことして大丈夫かしら……でも生命の状態まで保管しろとは言われてないし……」


 物憂げな表情をしつつもなるほどと一定の理解はしているようだ。


 創造主様が【厄災】頼んだことは魔族の補充であってここまでの拡充は求めていない。

 もし消えたら消えたで我々の責任ではないと伝えてはいるのだがどうもマキナ様は飲み込めないようだ。


「創造主様直々に増やしているわけではないのですから気にする必要はありません、世界の理さえ保てば良いのです」


 私も失礼致します、とトール自身もカップを呼び出して飲み始める。


「……マキナ様、私は……世界は意図的に変え続けるものでは無いと思っております。手を抜けと言うことではなく、時の流れと数多の生物の意思の介入に任せるのも必要だと思うのです……それが創造主様の意思に反しても」


「……おとーさんに反しても……」


 カップを抱えたまま暫し、佇む。


 淡々と語るトールを見つつマキナは考えている。

 果たして創造主の意思以外で世界が形作られることに賛同していいのか、と。


しばらくしてマキナの出した答えはトールとは異なるものであった。


「……私は好きに世界を育てていくのはその住人の役目だと思う。私達はあくまで種をまくだけ」


 それはマキナの意思であり、創造主の受け売りではない、ぐらついていてもそれはマキナの答えであった。

 そんなマキナの答えを嫌な顔一つせずトールはにこやかに受け入れた。


「なるほど……ではリストを出しましょう、魔物だけでよろしいですね?」


 意見の相違など無かったかのように光球から魔物に関してのデータだけを山のように引き出していく。


「……というかトールは何も思わないんですか?」


「何も思いませんよ。我々も個々で意志があるのですから考えぐらい違ってもおかしくはないでしょう?」


 次第に部屋のマキナとトールのいる位置を残して魔物のデータで埋め尽くされていく。

 トールもデータを引き出しつつ流し見してその量に苦笑を呈していた。


「ほー……ここまで増えましたか、何かを吹き込んだとは聞きましたがこれはまた……マキナ様、これが今現在のデータでございます。これを起点に百年ほど次の更新待たれてはどうでしょう」


 百年というこれまでの間隔から大きく開けた数字にマキナは困惑した。


「百年?!……そんなに放っておいて大丈夫なのかしら?」


「もう今の住人の力ならば世代を考えても百年は一瞬でございます……そうで御座いましょう?アウラ様」


 視線を外したと思えば入口の方を見ていた。

 そこには間が悪そうにアウラがこちらを見ていたのであった。


「お主……意外と喋るんじゃのう」


「必要な時は喋りますよ。ささ、アウラ様もこちらに」


 部屋のデータの山を左右に割り道を作って促す。

 渋々アウラもマキナの隣へ腰掛けた。


「……用事があって戻ったんじゃが懐かしい匂いをさせておるな、トール。私にも一つ貰えんか」


 マキナのカップを覗き込んですぐに気がついたらしい。


「もちろんでございます、お気に召されるかは分かりませんが……どうぞ」


 すぐさまアウラの目の前にもこれまでと同じものが用意される。


「……懐かしいのう」


 アウラとて世界を見ていた時に愛飲していた訳では無いが世界の内にある知識として所有している。

 そのため、マキナの時以上にトールは反応を気にしていた。


「そんな気にせんでも作り方もなにも間違っておらんよ。安心せい」


 アウラのその答えに肩をなでおろす。

 そのままアウラはアドバイスを付け加えた。


「……こういうのはな、何かと合わせて出すもんじゃよ。トール、後で私の世界のを見せてやろう、今後の参考と楽しみにでもするがよい」


「有難いお話で」


 そしてアウラは一口だけ口をつけて皿へカップを戻した。


「で、世界を我々は育てて良いのか、じゃったな。マキナの参考程度に私の考えも添えておこう」


――アウラの設計思想は男とは異なる一つの答えであった。

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