文化英雄と最初の【魔法使い】①
アウラは世界樹の世界の中でも一番人の多そうな地区に降り立った。
前回から大体数千年分だろうか、見渡せばかなりの人口になっていることがわかる。
石畳で舗装された道、道を行く人々の服装、レンガや漆喰なども時代の進みようを感じさせる。
「……やはり同じ大体同じように進化しているようじゃのう……」
彼女の作ってきた世界との特徴的な違いは種族が複数いることだろう、周辺を軽く見渡しても【デミ・ヒューマン】、【ヒューマン】のほかにも【ドワーフ】など様々な種族が見える。
「前回は【ワーウルフ】みたいな感じだったはずだが【獣人】になっている……混血も進んだのう」
男の世界が現状ではうまくいってることに関心を示しつつ今回の仕事を思い出す。
アウラの種族は本来ならここでは【オリジン】だが今回の目的は城を世界に認知させて人々を駆り立てることである、そのために【ヒューマン】として降り立ったのだ。
「今回は観光ではないからのう……研究者はここではどんなかんじかの」
今回のアウラの計画は魔力を大量に扱う方法の発明と称して魔力飽和を意図的に起こし、城を出現させるというものだ。
世界をすでに作ってきた神様として作られた世界の理にのっとってこの様なことを行うのは今回が初めてではない。
人の多い方へと行くと大きな建物が見えてきた、それなりに豪華な建物で常に様々な種族が出たり入ったりしている。
「まずは情報収集からかの」
そう言って建物の中へと踏み入れていった。
◇
「研究者はどの世界でも好き者よのう……まぁそのおかげで手が入れやすいがの」
人に聞いていくうちにわかったことはまだこの世界では研究者はなにかの資格が必要なわけではないらしい、本人がそういえばその人は研究者なのだという、非常にアウラにとっては便利だ。
ただ彼らはその知識共有のために同じところで生活し研究を続けているという。
広場を抜けて通りに入り人々の暮らしぶりを確認しながら目的の建物へ向かう、人々の状態は男にもっていけばいい土産話にもなるだろう――人々の生活には魔法が根付いているとか色々だ。
例えば、料理しているときに自力で魔法を起こしたり、水を出して掃除に使ったり……簡単なものであればいたるところで使われているのが感じられる。
……しいて言えば余りにも生活に根付いて魔法専門の仕事はないのだろうか、先ほど人に聞いたときには【冒険者】はいたが【魔法使い】はいなかった。
「そういえば【魔法使い】はいるかときいたら研究者はいると言っておったのう……と、ここかの」
『魔法研』
いかにもそれらしい名前が書かれた門の前に着いた。警備がいるわけではないが周囲の建物と違って少々閉鎖的な空気が漂っている、扉に鍵はかかっていないらしい、扉を開けて入ってみる。
「ようこそ魔法研へ、なんの御用でしょうか」
カウンターがあり受付がいる、中には何人か人もいるが受付が少々変だと思ってみるとある人が【魔製人形】と言う類だと教えてくれた。
要するに人と同じように動く作り物だそうだ。
「ここで魔法を研究している人がいるときいてのう、話がしたい」
「事前に申し込みはされましたか?されていなければ申し込みをいれてからお越しになってください」
……まぁ当然であった。仕方ない、手順を踏んでからもう一度来よう。
と建物を出ようとしていると
「ん?客とは珍しい、いったいこの爺になんの用かね」
何たる幸運、どうやら彼らしい。
「魔法について聞きたいことがありましたが、手順を踏んで再び来るようにと言われましたので日を改めようかと思いまして」
丁寧に話さないと取り合ってくれなくなるかもしれないのでそれなりの返事をするが
「……あぁそこの受付の返答か、まぁ大丈夫だ、そもそも客人どころか魔法研究者以外ほぼ来ないからのう、そのままこっちで話をしよう。楽にしてもらって構わない」
物腰の柔らかい老人のようだ、種族はどうやら【ハイ・エルフ】らしい、町中では見なかったような気もするがここで気にすることではないだろう。
彼に部屋に案内される、それなりに綺麗な部屋…ではなく研究室のようだ。
所狭しと様々な道具や薬品が並ぶ。
「……名前も知らない客人よ。せめて名前を聞いてから話をしよう、私はユラ、ここ魔法研の主で魔法の研究をしている。」
「私はアウル・オーラと言います、アウルで結構です。このたびはあることを発見したのでそれをあなたに発表していただきたくてきました。」
「なっ……?!おまえさん正気か?!魔法を研究するものとしての名誉もなにもいらないと……?!」
どうやらこの世界では魔法でなにか発見することは相当な名誉だったらしい、アウラには関係ないので話を続ける。
「えぇ、その名誉は私には必要ありませんので……内容を話しても?」
「あ、あぁ、ただ代わりにあとでお礼をさせてくれ、そんな名誉をただで、しかも初対面のどこの誰ともわからない人間にもらうのはさすがにこの老人には辛すぎる」
アウラは魔法がどれぐらい発展しているのかを教えてもらうのを好感としてユラに話していく、ユラはアウラの話を手元の紙に記していく、時折「なんということか……」とつぶやいていたが気にしない。
◇
「どこの人間かもわからないのに話をきいていただいてすみませんね」
「本当なら出鱈目だというところなんだが違和感があったから聞いてみたんだがの……途中で色々魔法を使っていたのをみて嘘ではないと思っただけじゃい」
ユラは余りにも突拍子なことを言う青年を追い出そうとも考えた、しかし話をする中で青年は嘘を一度もついていなかったのだ。
魔力には確かに流れがあるしいわれた通り操れば自在に流れを作ることができた。
長年研究していた自分ができるのだからおそらく事実で間違いない、加えてこの大量の魔力を操る方法は非常に興味深いのだ。
「……本当にこれをわしの名前で発表していいんじゃな?後悔しても発表してしまえばどうしようもないぞ?」
「いえ、お気遣いなく。」
青年としての話はここで終わりだ、ユラに今必要な世界の魔法技術の引き上げをしてもらう。
ここからはアウラとしての仕事だ。
「……のう、ユラと申したか。今からこの世界に少しの驚きと大きな期待を授ける。しかと導いてくれ、これが【魔法使い】じゃ」
アウラの姿が少女に変わる、この世界では見ないような服装、髪型、明らかにこの世の人間ではないことを感じさせる姿に。
「ッ?!君はアウラではないのかっ?!」
「おぬしに授けたものは今後の未来に確実に必要になる。私はアウラ、今はただあなたたちに未来と技術をもたらすきっかけの【英雄】」
そういうと両手を広げ空間に魔力を集め練り上げていく、事前に城の位置は聞いた、あとはそこに練り上げた魔力を流して飽和させれば雲がなくなり一時的に城を世界に表せる。
「魔力を練り、雲を隠す範囲に魔力を流し飽和させて雲を一時的に払うのだ。そうすれば道は開けよう。これが魔力というものだ。」
「……なんだこれは……美しい……」
息を呑む、深く蒼い空、雲が吹き飛び本来の姿をあらわした、 黒い城が宙に浮かび上がり、空に存在を見せつける――
この黒い城が世界のどこから見ても見れるという混乱は計画通り多くの人間を空へ、城はなんだと人々を駆り立てようとしている。