空中での他愛無いひと時
「……随分と遅かったじゃない?」
「ははは……部屋から出すのに手間取りまして……なぁ?」
「え、ええ……」
示し合わせたかのように笑っていて怪しさまで出ている。しかしベットはちゃんと運んできてくれたようだ。
「で、どちらに入れれば?」
「あぁ、部屋の中に場所は作ったからそのまま運んできてもらえる?」
「「わっかりましたー」」
……やはり気味が悪い。まぁ目的の部屋には何も置いていないので適当にベットを置いてもらう。最悪サクヤだけでも魔法で動かせる程度のものだ。
そのまま艦橋で待っていると先ほどよりなぜかつねったような跡が増えた男共が部屋から出てきた。
「お、おいてきました」
「……何もしてないわよね?」
「はい。命に代えましても……触ってないと誓います……」
さすがに命までは賭けないでほしい。確認で部屋を覗いてみたがベットが置かれた以外に変化は全くなかった。
「……お疲れ様。助かったわ」
「ありがとうございました!」
「おふっ……い、いいってことよ」
男共は各々持ち場に帰っていく。何人か魂が抜けていたような気がするが疲れているのだろう。
起こす際に一通り事情は伝えているのでティナはサクヤが【竜人】であることも把握済みだ。
「へぇ……この娘が【竜人】の……可愛い」
「はい!【竜人】のサクヤです。しばらくの間よろしくおねがいします!」
やはりティナが見ても可愛いかったらしく、部屋に女子のみになった途端仕事のスイッチが切れてしまった。
「んー!貴方がサイヴァス騎士団の子なんですってね?すごくかわいい!ああっ柔らかい……」
腕やら腰やらに手を伸ばすが鎧が邪魔をする。ムッとしてそのまま継ぎ目に手を伸ばす。
「あ、ありがとうございま……あっ!待ってください、ああっ鎧を取らないでっ!」
部屋に入るや否や、サクヤの胸部鎧をいとも容易く外すとそのまま顕になった腰の翼へと手を伸ばし至る所を触る、撫でる、揉む。
「おーっ……本当に有翼……」
「ひいっ?!あ、あなたもですか!?」
「ん?ちょっとごめんねー?……おお……確かに生えてるよ」
私もそうだったがティナもやはり気になるのは翼と身体の繋ぎ目のようだ。しかしわたしほどの時間はかけずに一通り触ったり動かしてみて満足して解放した。
「ふいーっ、なるほど……私も満足したよ……数日の間だけど、よろしくね」
「あ、ひゃい。よ、よろしくおねがいしひゃす……ただ、翼を触るのは許ひて……」
こうして第三者から見てて初めて気がついたがかなり危ないことをしていたらしい。知識欲が独走してしまったがあの終わった後のサクヤの顔は宜しくない。
「で、ティナ。サクヤにあなたの着てない服を適当に貸してもいいかしら?鎧しか持ってきてないのよ、この娘」
「ええっ?!ダメだよそんなの!所長、貸しじゃなくてあげて。いくら私でもそれは見過ごせないよ、騎士でもお洒落はしなきゃ」
「え、えっあの……可愛いとは……?」
そう言って丁度鎧を剥がれたサクヤは二人に着せ替え人形にされてしまう。
それでも本人も驚きこそあったものの抵抗はなく、むしろ初めての体験を非常に楽しそうに受け入れていた。
「ティナも言ってたけど竜だからって可愛い女の子が可愛いものを着ない通りはないわ、じゃあ試しにこれ着てみましょうか」
そう言って持ってきたのはかなり緩めの服だ。色合いは髪の鮮やかさとは対照的に落ち着いた色を選んできた。
ティナよりも小さいのもあってかだぼだぼのワンピースを着せたようにさえ見える。
「ちょっと所長、これじゃあ緩すぎますよ!」
「えー……どうせ降りるときには着ないんだからいいじゃないの」
そういってティナが今度は違うのを着せる。こんな感じでサクヤが一杯一杯になるまでしばらく続いた。
◇
「こ、これが可愛いと言うのですか……人の服と言うのは、い、色々あるんですね……」
回ってみたり、スカートを広げてみたり……サクヤ自身は可愛いという概念を理解しようとしているらしいがそのうちわかるだろう。
立ち上がってみるとやはり何を着せても少しばかりティナの服ですら大きかったらしい、手首も隠れてしまっている。しかし逆に翼の付け根でめくれてしまう背中以外はしっかり隠せていた。
どうやら服が触れている分には触られるのとは違い、特に気にならないらしい。感触の違いだろうか?
「素材が良すぎて嫉妬しちゃうわね、何着せても問題ないんだもの……ただ上下一体のはほとんどダメね、背中から下が見えちゃうから」
彼女が唯一着てはいけない服、当然ながら翼のせいで後ろが隠せないのだ。
中にはスリットが入っており前後の布をひもで結ぶようなものがハーピー系の【獣人】向けに存在している。しかしそれでもサクヤの翼的に腰から下が見えるのでサクヤには基本的に上下一体のものは駄目ということになった。
「サクヤ、サイヴァスでは鎧以外何を着ていたの?」
「……礼装ぐらいです、寝るときは何かに包まってればそれで十分ですから」
他の状況を聞いてもそのまま礼装か鎧かの二択だったという。
恐らく彼女が何か希望すればすぐに手は打たれたのだろうが彼女にそこまで考えが及ばなかったようだ。
惜しくも私たちは輸送任務があり、彼女は魔法陣の設置の任がある。
本来なら時間があれば彼女を世界樹当たりの店まで連れて行ってしまいたいところだった。