種族<可愛い
「おお……その歳で騎士団ですか……」
「たはは……私は運が良かっただけなのでそうそう胸を張れるような実力はありませんよ」
若者が軍属になるのだけなら案外容易い。
しかしそれが騎士団ならば話は別だ。心·技·体、その全てにおいて求められる次元が一つ違う。
騎士団はアイヴィスが出てきた後も国のトップの傍で常に真の国を表す者としての面を持っているからだ。
「……そんな謙遜されてもここに来てる時点で実力はお墨付きでしょうに。ねぇ艦長?」
「まぁそうね。少なくとも派遣しても問題ないとされるぐらいには、ね」
言われてみればそうよね。
騎士団の名前を出しても大丈夫ぐらいじゃないと生活で問題を起こした時に騎士団の名前を持ってれば目も当てられない。
「ああ……天使が天使を連れてきなすった……」
「お前、ちょっと甲板行こうか」
「オ"ア"ア"ア"ーッ」
そのまま出荷されるお牛が如くそのまま甲板まで引きずられていく。
……彼のことは置いておこう、気にしてはいけないわ。
「……で、彼女の部屋をどうしようって話があるんだけど……」
むしろ新たに出てきた問題はこれだ。
派遣された騎士が普通の成人男性なら当初の予定通り部屋を割り当てるのだがまさかサクヤのような娘が来るとは思ってもみなかった。
「わ、私は特に部屋はどこでも……」
「あなたが良くても良くないのよ」
そもそもこんな密室の共同空間なんて歴史上類を見ない。故に設計として誰が乗るか、男女部屋を分ける所まで及んでいないのだ。
そのため現在私とティナの部屋は艦長室に持ってくることで解決していた。なので部屋に余裕が無いのだ。
「男共を部屋から隔離するか艦長室にベットを新たに運び込みますか?」
「私は構わないけど……ティナを呼んでくるわ。まぁ許可は取れるはずだし取り合えずそれで手を打ちましょう。」
そのまま伝声管の蓋を開けティナがいるはずの調整室へ声を飛ばした。
「……ティナ?聞こえるかしら?居たら上まで来てちょうだい」
「……あ、あー……艦長?班長なら今ここで爆睡してるんですが……起こします?」
伝声管より帰ってきたのはティナ以外の声であった。
「……まだ当番の時間のはずだけど?」
「それが……自動で異変を検知する仕組みを余った資材で作って疲れたから寝るといいだしまして……」
……サボり方としては理想ではあるがサボる前に一報入れて欲しいものだ。
ティナはそのまま起こさせてもまともな事にならないので仕方ないわね、起こしに行くか……
「……私がそっちに出向くわ。もし起きても部屋から出さずに待たせておいて」
「分かりました」
部屋に待たせる彼らはどうしようか……無言で待たせるのも悪いし……
「か、艦長。ベットはもう取りに行っても?」
どうやら考えは向こうも同じだったようだ。
私はティナを連れに、他は余剰部屋からベットを運びに解散した。
◇
――アイヴィス余剰船室
「いやぁ……あのサクヤちゃん、サイヴァスの騎士で【エルフ】以外の少女なんて相当ですよ」
「それであの若さと可愛さ!お堅い騎士団が初めてニクく思いましたねぇ」
船室のベットを部屋から担ぎ出そうとする男達。話題はあのサクヤで持ちきりである。
彼らもまたあの甲板に連れ去られた男が叫んでいたことは陰ながら賛同していた。
「よし上げるぞ……せーのっ!……それにしても【ヒューマン】にしてはなんか違うんだよなぁ【デミ・ヒューマン】かね?」
「あぁそれなんだけどよ、さっき隙間からこっそり見たんだよ」
その言葉と共に彼を見る他の面子の視線が急に悪くなる。それとなしか彼へかかるベットの重さが一気に増えた。
「は?このまま手を離してやろうか?」
「お、おい待て、早まるな!不可抗力だ、許せ!痛えっ、お前足踏むなって!話を――」
思いっきりど突かれた彼が逆にベットから手を離してほかの三人に負荷がかかったのは言うまでもない。
「お、おふっ……ま、まぁまて話を聞け……鎧を着る時艦長に手伝ってもらってたのはお前らも分かるだろ?」
呼吸を整えつつ再びベットを担ぎ始める四人。今度はまだ手を出すような真似はしない。
「……ああ、確かに聞こえたな」
「その時よ、確かにサクヤちゃんにごっつい翼と尻尾があったんだよ!あの瞬間は流石に二度見しちまったが間違いねえ、あんな種族これまで転々としてるが初めて見たぞ」
三人がザワつく。四人ともアイヴィス乗務前からそこそこ世界を転々として来たがその説明に見合う種族は見たことがないからだ。
「鳥由来の【獣人】みたいな翼じゃないのか?いやでもそれなら尻尾はねえな……」
「奴らはそもそも腕が翼だったりするだろ、それに何より羽が抜けてないじゃないか」
そんな中一人が不意にある言葉をこぼした。
「……この前でてきた【魔族】とかいうオチはねえよな」
互いに顔を見合わせる。何故なら【魔族】をここにいる四人は見たことなく、そして【魔族】と分けられるのだから何かしら他とは違うものがあるに違いないと思ってるからだ。
「まっさか、そしたら騎士団にいるか?」
「そうそう、そんなんだったら怖いったらありゃしねえ……あーでも可愛いし腕1本千切れかけても面倒見てくれるなら許せるなぁ……痛っお前またやめろって!」
「可愛いのは認めるがその発言は認めん」
彼らが騒ぎながらベットを運び入れたせいでサクヤの噂はすぐに艦内に広まってしまった。
そしてことある事に揉めながら運んだ結果、時間が異様にかかったのも言うまでもない。