【竜人】
全く心当たりがないので見つけ次第問い詰めてみよう。何か戦力強化の術を手に入れられるかもしれない。
「少なくとも艦長としてそんな乗組員は知らないわ」
「……?確かに居るはずですが……」
「居たらあなた達と戦う時に使ってるわよ……ところでちょっと興味本位なんだけど……」
その視線の先はサクヤの翼に向けられている。それを察したサクヤは隠すように翼を織り込んで触られまいとするがリースにはなんの効果もなかった。
「……そ、そんな面白いものじゃ……」
「有翼種なんてめったに見れるものじゃないのよ!面白くない訳がないじゃない!それにあの鎧にどうやってしまってたのかしら?!ちょっと触らせて!」
「ひっ」
興奮した悪魔の手が翼へと伸びていく。抵抗虚しくすぐにリースに捕えられた。
「身体は私達と変わらないのに翼は硬いのねえ……」
「や、くすぐったい……んんっ……やぁ……」
「でも面白いぐらい動くわね……骨も入ってるみたいな硬さしてるのに……折りたたんでこれで鎧に収まってたのね、暑いとかはないのかしら?尻尾は逆に柔らかいし癖になりそうだわ……」
「ひああっ?!根元は……んん?!」
彼女の興味を満たすまで延々と隅々までいじられ続けたのは言うまでもない。
◇
「いやぁ……満足したわ」
「はあっ、はぁ……うっ、うう……」
そこには完全に茹で上がったサクヤと知識欲が満たされてご満悦のリースが出来上がっていた。
触ってみると面白いもので人肌は恐らく人になりたてなのもあってきめ細かく、髪も艶やか。腰上の翼の付け根に至っては剛体と皮膚が融合したかのようになっていると思いきやそれこそ取ってつけたようになっているのは興味深い発見だった。
「……んー、服はティナの着せても大丈夫そうね」
手をワキワキさせて感触を思い出しながらサイズを思い出している。
そのまま部屋の奥の方へとぐったりとしたサクヤ置いて服をあさりに自室へ行くと、適当に数着見繕って持って帰ってきた。
「貴方、ずっと鎧だと重いでしょ?挨拶した後ならこの艦にいる間位これで過ごしてなさいな」
「……ふへっ?いいんれひか」
「むしろ艦内をガッシャンガッシャン動かれる方が気になるわよ……自分で着れるかしら?」
リースとしてはそもそも服を着る概念を持っているのか、どこまで人の生活を理解しているのか確かめたいという気持ちであった。正直な所彼女が鎧を脱ぐのをためらった時点で不思議だったのだ。
まず服を着ることを理解している。そして恥じらいの概念を持っている。これは他のこれまで見てきた竜から考えれば驚くべき違いである。
「あ、はい。翼と尻尾は邪魔ですけど着ることなら……サイズも大丈夫みたいです」
「ん?あなたの身体は意図的に作ったんじゃないの?」
「あー自分で決めたわけではないので……」
細かい部分は後々聞いてもはぐらかされてしまった。己が竜であることはサラッと話してくれたのと比較すると何やら持っていそうだ。
と、そこにかなり強めのノックが響いた。
「艦長……そろそろ乗組員も揃いましたので出航の方を……部屋の前に人だかりが出来つつありますので」
声のトーンもかなり低い。随分と待たせてしまったようだ。
「え?あっごめんなさい、今すぐ行くわ!えっと……サクヤはこの部屋で待ってて頂戴!あー挨拶があったわね……服着てもらってすぐで悪いけどもう一回鎧着ててもらえるかしら?多分すぐ戻るわ」
「あ、わ、分かりました」
サクヤを置いて慌てて艦橋に立つ。ほかの乗組員は部屋から聞こえてきた声の真相を噂のように話していたらしい。呆れたような……いや何人かはこの世の終わりのような目をしていた気がするが気のせいだろう。
「さて待たせたわね……確認よし、機関始動!」
「……了解。絞り開放、出力上昇中」
港に噴出機関の風が吹き荒れる。固定機に誘導されアイヴィスがゲートを潜りサイヴァス外へ動かされる。
「出力調整、誤差安定圏内、固定機から操舵を譲渡」
「固定機より分離を確認、アイヴィス高度とります」
リースにとってこの国ではこの離着陸の瞬間が一番の恐ろしい。船体が煽られることを警戒しつつ山越えの高度まで引き上げるからだ。
今のところ直前に修理した配管は異常なく動いている。
「推進用機関へ出力変更開始」
「機関部了解、出力を推進用に切り替え――船体安定化完了しました」
「針路合わせ良し、舵を固定」
魔方陣を設置し自動航行に差し替える。私が口を開くより周囲から質問が飛んできた。
半ば興奮気味に食いかかってくるあたりほぼほぼ聞いていたのではないだろうか。
「艦長、例の騎士団の方と何かありました?」
「あぁ……皆には彼女を紹介するわ。山越えの間だけらしいけど仲良くしてあげて。ちょっと読んでくるわ」
部屋で待たせていたサクヤを呼び出す。
どうやら胸当てを付けるので延々とプレートと格闘していたらしい。まだ下半身しか着れていなかった。
「あの……サクヤ?大丈夫かしら?手伝う?」
「あ、はい。お願いしま……うあっ?!」
どうやら翼と尻尾が当たるせいで胸当てを当てたまま固定できないようだ。
こうしてると翼があるのも一概にいいとは言えないわね……
「す、すみません……魔法で繋いでしまうので背中だけ抑えててもらえませんか……?」
「え、ええ……」
元は竜、背中さえ抑えてしまえばあとは器用に鎧を取り付けていく。
しかしながらあの鎧を着ていると非常にサイズに違和感がある。恐らく最小の物だろうがそれでも首元が浮いている。
「もう良さそうね、こっちよ……紹介するわ、彼女がサイヴァスの依頼の間同行するサクヤよ」
「サイヴァス騎士団のサクヤです!よろしくお願いします!」