期日
◇
「さて、今日が予定日な訳だけど……」
騎士団が必要な事態があったので正直こちらとしては一日二日遅れてもいいのだけど……それにあのゲートは利用出来ればさらに文明に光明をもたらすに違いないわ。尚更研究したい所よね。
「か、艦長!例のゲートが!」
「ゲートがどうしたのよ」
「な、無くなりました……恐らく【魔族】が約束通り消したのでは……と……ですが代わりに……」
残念だけど向こうは閉じるつもりだったらしいし仕方ないこと、代わりになにか増えたのなら興味深いけど……
「代わりに?」
「アイヴィスの船底裏にゲートが……」
「……は?」
大慌てでアイヴィスの元へ向かう。ティナはまだ布団の中だ。起こすのも悪いので置いてきた。
すでにアイヴィス周りは騎士団と乗組員で溢れており、すでにゲートに片足突っ込んでいる輩もいる。前回から危険じゃなければ易々と覗き込むようになったが不安だ。
「あ、艦長!見てくださいよ!」
「全く……危なくないでしょうね?あとで人員補充の申請なんてしたくないわよ」
「大丈夫ですって、それより驚きますよこれ」
そう言って人だかりをかき分けゲートの前へ連れていかれる。
ゲートを見ると前回と違ってかなりスッキリした印象を受ける。禍々しさも感じない。縁は解読は出来ないが魔法文字とでも名付けようかそんな類のものが縁をぐるぐると周回している、見た目的に形は特殊だが魔法陣だろう。しかしゲートの向こう側が前回のものよりクリアだ。それこそゲートというより穴と形容するべきだろう。
「前と少し違うけど……ゲートよね」
「ええ、それだけじゃありませんよ、ほら」
そう言って何を思ったのか、不意に背中を押される。崩れてしまった体勢は治すすべもなくそのまま穴へと落ちていく。
「えっ?!ちょっと……まっ」
床のつもりで手を突き出してもそこはゲート、そのまま沼に飲まれるがごとくゲートを抜けていく。
「きゃっ!」
らしくない声を上げ、そのまま顔面を打ちそうになるがそのままくぐり抜ける。
水に潜るような感覚の後にまた空気の中へ放り込まれる。
恐る恐る目を開けると見知った顔が私の事を再びゲートに落ちないように支えていた。
「おっと……艦長も来ましたか、おはようございます」
「んえ……?お、おはよう……」
カラッとしつつも鼻を抜ける冷たい空気感からするに同じ国のどこかの一室だろう、副官のみならず騎士団の面子も何人かいた。
体勢を整えると今度は手をゲートに突っ込んでみる。すると向こう側からグイッと引っ張られ、そのまま再びゲートに引きずり込まれる。
「やはり艦長でしたか」
「ちょっと!流石に驚くじゃない、肩がぬけたらどうするつもりよ!」
「まぁまぁ……でも凄いことに気が付きましたでしょう?」
そう言われて考えてみる。
かなりの近場にゲートが作られ、それが繋がっている以外に特には……あっただろうか?
「……前のゲートと同じじゃなくて?」
「違いますよ!そうですね……ちょっとお待ちを」
そう言って何やらゲートに顔を突っ込み向こうと会話し始めた。暫くすると向こうから騎士団の兜を貰ってこちらに戻ってくる。
「良いですか?ゲートに入った瞬間の向きを覚えててください」
「え、えぇ……」
すると被る向きにしてそのまま兜をゲートに投げ入れる。ゲートをくぐった兜は数秒後に向きを変えて戻ってきた。
「これでわかりました?」
「ん……?逆になっただけじゃない」
「ええ、逆になったんですよ。向きが変わらないように入れたのにも関わらず、ね。疑わしいでしょうから艦長も是非」
そう言って兜を渡されどういう事かと思いつつも向きが変わらないように投げ込む。すると先程と同じようにやはり向きが反対になる。
「確かに逆になるわね……」
「そうです、ではそのまま今度は飛んでくぐってみてください」
「……?わかったわ」
言われるがまま軽くはねるようにしてゲートへ飛び込む。水没感のあと足からゲートを抜けていくが……
「……え?」
目の前には鎧の足が……と思っていたのはつかの間、すぐに身体がなにかに引っ張られるようにして頭が上、足を下にされる。
そのままゲートに立つ余裕もないままでいると勢いが変わることなく再びゲートへ飛び込む羽目になってしまった。
「え、えっ?!ちょっと、逆?!」
「おっと、今度はちゃんと出てください、案外それ危ないですから」
「……分かったけどとりあえず足を掴んでもう一回落ちないようにしてくれるのは有難いけど下ろしてから会話してもらえないかしら……」
体勢が流石に恥ずかしい。事と次第に従えば確かに助かったのだが……ひっくり返るのがわかっている以上その後に掴んでくれれば良かったのに。
――スカートじゃないことを今日以上に有難がった日はないと思うわ……