魔王軍深夜の対ゲート前哨戦
――一方魔王城
「ゲートを通れなくすればいい、はずなんだけどなぁ」
「そりゃそうだが姫さんよ、それが出来なくて困ってるんじゃねえか」
通れなくすればいいのよと試しにルルイエの魔界限定創造も使ってみたが遮断には至らなかった。無効化、不可視化……これまで試そうとしたことは何らかの理由により目的を達成出来ていない。
「やっぱり壊すしか」
「……姫様には申し訳ないがそれも無理だ、手持ちの剣ではここに戻る手前試しに斬ってみたが元に戻ってしまった、それに……」
グスタフの四振りのうちの一刀を差し出す。ここに来てからこれまで欠けていなかった刃が確かに欠けてしまっていた。
「……悪い剣では無かったのだがこうなってしまったからな、あとでどうにかせねばならん」
そう言うグスタフは少し残念そうに見える。そう言えばあの剣はグスタフがこちらに来てから私が渡した剣でしたわね……
「おじさま、代わりを探してあげますから気を取り直して、ね?」
「はぁ……こういうのを作るのには【魔族】は全く向いていませんからなぁ」
「……それにしてもグスタフの剣を欠けるほど硬いとなると……」
と、そこに丁度何者かが無から急にルルイエの背後に現れた。全員一斉に立ち上がりルルイエの間に壁が作られる。
「誰だっ!」
「いやぁ、すまぬ適当にでたらここだったようでな……実は例の件で詫びを入れようと思っての」
壁をものともせず平然と笑いながら現れたのはアウラだった。そうだ、アウラ様なら……
「アウラ様、丁度いいところに」
「残念じゃが私は手伝えぬぞ?ちょっち首の皮がなくなりそうでな……ここで創造でも使えばいよいよ存在まで消されてしもう勢いじゃて」
そう言って首を切り離してみせるが、いくら概念体とは言えやっていい冗談ではないので戻ってもらった。
「で、手伝えないとは一体……?」
「まあルルイエは知っておるはずじゃが……“また”ちょいとあってな……お主たちの転移門が競合したのも少なからず私が原因じゃったらしい、すまんのう……手助けになるかはわからんがちょいとばかし情報をな?与えてやるから……」
「な、なるほど……?」
尻ぬぐいならむしろ創造を使ってゲートをどうにかしてほしいところだけども……どうやら”また”と言うことはなにかとんでもないことをしでかしたらしくその影響が今回のこの事態にもつながったということね。
「まぁ許してくれんか、私もここでの命は惜しいんじゃ……で、お詫びの情報じゃが今のこの世界ではゲートは更新すればするほど接続が再度確立されるようになっておる。大体明朝までには私が元の仕様、まぁ再確立不能に戻せておるはずじゃから……成し遂げるなら今晩のうちに、じゃのう」
「……逆にどうにかするなら今のうちだからやれ、と言うことですか」
「物は言い様じゃな……それとあの人間共の作ったゲートじゃがな、仕様的にはあの男のとほぼ変わらん。違いは魔力容量じゃ、潰すならありったけの魔力で焼却でもするんじゃな」
さらっと破壊の手立ても教えてくれるだけアウラ様に感謝しなくてはならないかもしれないわ……ただアウラ様はちょくちょく思い切りだけで創造する節がある、それで巻き込みを食らうのだけが心配なのであった。
「じゃあ私はこれで消えるからの。お主たちの行動は【守護者】には伝えてあるから気にしないでいいぞ」
そう言ってアウラは再び無に帰していった。
◇
――夜間
「……さて、作戦の確認よ。今回の目的はゲートの無効化。こちら側は破壊は出来ないことが確認出来てしまったけど接続を切断することで無効化するわ」
「姫様、結局アウラ様の手順で無効化を?あと戦争でもないのに着替える必要ありました?」
やけに張り切り、戦闘時の服を持ち出してくるルルイエとそれを眺めている魔将たち。ルルイエにとっては世界を背負わないで魔法を使えるのは滅多にない楽しい時間なのだ。普段魔法を使ってはいるがかなり出力を抑えている。彼女は元々創造主につくられた制御装置としての【魔王】、故にその出力が桁違いなのは彼女を知る人はほぼ知っている事実だ。
「ま、まぁいいじゃない、久々だったし色々あるのよ……で話を戻すと、同じ種類のゲートを同じところに二つ以上繋げた場合最後に設置した方が繋がることがアウラ様からの話もあったし確認もしたから分かってるわ。今回向こうのゲートは創造主のものでは無いから複製自体は可能なのも把握済み、複製したゲートを他の場所へ接続させれば今のゲートは切断できてもれなく魔力源は手に入れられるわ」
「あちら側では新しく接続が出来るわけですがそれについては?」
「向こう側はゲート自体を研究したがっている人間がいるのは覗いたときに分かっているから近場に置いておけばいいと思ってるわ……でも位置は変えておきたいから今あるものは消すつもりよ、やってきた彼ら以外に誤解されてあらぬ恨みでももらったらたまったもんじゃないし」
さすがにあのような位置にゲートを残しては邪魔なのは誰が見てもわかる。後々把握したが下にある物が船ならば余計邪魔なのは言うまでもない……故にあのゲートは消すが別ものを用意しておこうという訳だ。
「……さぁて、アスタリア、アイギス、準備はいいかしら?」
「【魔王】様の久々の全力、止める用意はできてる」
「魔力は十分。いつでも大丈夫ですわ!」
――さぁ久々にリミッターなしの全力をぶつけよう。