アウラの忘れ物
「艦長?大丈夫ですか?」
副官の声で我に返る。なにか思い出した気がするんだけど何だったかしら……
「あ、あぁごめんなさい」
「全く……調査隊より意識飛んでてどうするんですか……」
「気を付けるわ……とりあえず参加した二人は充分休んで頂戴、ここで頼んだものが出来上がるまでは休めるから」
寒さの中を待っていただけの自分が異界探訪を成し遂げてきた彼らよりしっかり出来なくて何が艦長というのか。
「わかりました、では……艦長も休んでくださいよ、有事で指揮を執るのはあなたなんですから」
寒さで思考が鈍ったかしら、艦橋に戻って暖でも取ってこよう。
「ティナー?炉は大丈夫だったー?」
扉を開ければ暖かい空気が入ってくる。指輪様様とは言ったけどやっぱり火を見るというのは気持ち的にも温まる物よね。
◇
――研究室にて
「やはり奇跡的な初回は閉じようとするか……」
「ん、なんじゃ?面白いことでもしておるのか」
研究室中央のソファに座りながら眺めていた光球を背後から寄ってきたアウラにも見せる。アウラはアウラで手元に光球を複数出しながら自分の世界とこちらの世界と見ているらしいがこういう時は自分のを見せた方が早い。
「ええ、これですよ……そう言えば神様、それ関係で一つ問題が」
「……うぬ?」
「これです、これ」
そういって光球で指し示すのは学園……のさらに地下深く。そこにはひっそりと一人で力を振るい続ける存在が一つ。
「あああああ!忘れておったぞ……ユラにも取りに行くと言ったままじゃったのう……」
「こんな物騒なモノ忘れないでくださいよ……」
「モノ扱いとはなんじゃ、あれは立派な私じゃぞ?」
さすがにその発言はおかしい、おかしいのだが……そこはアウラも創造主、人の頃の感覚は一切通用しない。彼女がそういうのだからあれはアウラなのだろう。ならば余計に問題がある。
なるほど、言われて見てみればその地下の存在は確かに初めて会った時のアウラと同じ見た目をしている。
「……なおさら早急にどうにかしてください。最近世界の理に介入してますよ、アレ。ゲート設置の魔法発動自体あまりにも奇跡過ぎたので調べました。アレが魔術回りに介入したせいで簡易的な魔法陣の改変がゲート設置を引き当てていました」
「……ん?彼奴には改変の許可は与えておらんぞ?頼んだのは修正だけじゃが……」
「頼んだ、ということは改変も可能ではある、と」
「まぁ私には変わりないからのう……はー……話をつけてくるがそれだけか?」
改変がこれだけとは限らない。マキナのバックアップと共に変更箇所の確認を始めてからが恐ろしかった。
出るわ出るわの大豊作といえば聞こえはいい。しかし現実に、それが指し示すのはその存在が改変を水面下でゴリゴリ推し進めていた事だ。
大規模な修正が必要か、と言われればそこまでのものも少ない、なんというか改変の仕方もアウラらしくなく尽く無駄を省く様な改変が大半だ。
「……ちょっち急ぎで行ってくるかの」
「あ、神様、改変を止めさせるのともかく修正はまだ待ってください」
「うぬ、分かった」
そう言ってアウラが消える。消えた後もそのアウラのコピーの行動を見てみる。その姿は非常に懐かしいがそれよりも不思議なのは学園の地下にあのような空間を一人で作り上げている事だ。
一人で住んでいる様だがそれにしては広い。まず学園地下が一番浅い層らしい、そこから下に伸び円状に拡張されている。迷宮までとは行かないがそれに準じる複雑さで大小様々な部屋と通路で構成されているのがわかる。
「おとーさん、そろそろバックアップ閉じていい?あ、その前に魔法陣記述関係だけ巻き戻す?」
「あぁ、すまないね。それで頼むよ……ん?いや待て、そのバックアップはいつのだい?」
「三日前かな次のバックアップ取得は……四日後だね」
――概念だけのバックアップなら世界自体は問題ないだろう、根幹に関わっていればそれこそ自然物、人工物がどんどん壊れていくがそんなことは起きていないので心置き無く巻き戻せる。
区切り調整のため最終箇所を切断しました。
追記PCのグラボがブラックアウト連発するようになったのでアネモネ愛でます