巫女様は魔法を広めたい
【デミ・ヒューマン】――魔物の中でも特殊でほかの生物への敵意が薄く、知能も高かった彼らは力をつけていく種族の中に紛れて行くうちに人のようで人ならざるものとしての地位を確立した。
彼らの中ではその魔法を盛大に利用し神の使いだとまで言われるようになった個体もいる。
彼らが地位を確保できた理由に魔法が使えたというのがある、これは何も守るものがない中で大きなアドバンテージとなったが、元々は狩られないようにするための策なのにこれでは自分たちが守りに駆り出されてしまい安全に生活ができない。
アドバンテージを失うか生活での安全を得るか、その選択は個々で別れて行った。
「何とかみんなもこれが使えるようにならないかしら……」
彼女はその魔法で集落を守るうちに崇め祭られるまで地位を得たがその地位よりも人々に魔法を教えることを選択した巫女であった。
「巫女様、こちらにいらっしゃいましたか、今日も巫女様に魔法を教えていただきたいと外で皆が待っております」
そう言って使いに外へと導かれ、 外へ出れば集落の人々が私が座につくのを待っている。
この中で生活していくうちに彼ら――【デミ・ヒューマン】ではないほかの種族――は魔法の存在を理解はしているが扱えないことが分かった。
彼らに魔法を教えればそれこそ自分は神の使いとは言われなくなるだろうが、人に紛れてより安全に暮らせるのなら仕方のないことだろうと考えていた。
そもそも自分は神の使いでもなく人に紛れているだけなのだから、と。
◇
「いいですか?まず同じように動いてください、そのあとに唱えます『我、世界の理に問う――……万物を司る四の素が一つ、火よ、今我の望みに応じ、その真なる形を表わせ』」
人々に教えるとなったときまず最初の課題はどうやったらこんな力が使えるのかという理由を探ることであった。
調べていくうちにどうやら同じ動きと同じ呪文を唱えればいいというのはわかったがこれがなぜ魔法として実行されるのはわかっていない。
人々は真似して同じようにやってみるが一度で覚えきれるはずもなく、うまくいかない。
「み、巫女様、もう一度ゆっくり動きをみせてくださりませんか、どうも同じようにはできぬのです」
「何かもう少し簡単な方法があればよいのですが……」
「魔法を使えるようになれば、自分で身を守ることができます。簡単ではなくてもここの者はあきらめたりはしませんよ」
と言ってほかの者へ目をやると皆が皆うなずくのだからそうなのだろう。
「そうですね……ではまずは動きからやってみましょう。まず――」
巫女様は今日も人々に日が暮れるまで魔法を教えていく。
◇
「日が暮れるので今日はここまでにしましょう、みなさんお疲れ様でした」
そういいながら巫女様は周囲に明かりをともして彼女のために作られた建物へと戻っていく。
巫女様が火を灯せるので集落であかりが消えることはない、夜も作業を続けることができるのだ。
「巫女様、少しよろしいでしょうか」
「……なんでしょう?」
そう言いながらある少女が寄ってくる、昼間巫女様に教えてもらっていた人々のうちの一人だ。
少女が言うには教えていた時と今集落の篝火をつけるときでは微妙に行動が違うという。
「巫女様、例えばここをこうしてもちゃんと使えるのでは……?」
「ではちょっとやってみましょうか『我、理に問う、万物を司る素よ――』あら……?まだ言い終わってないのだけれど……」
「やりましたね巫女様、これでもっと簡単に教えることができますよ!」
そう言って喜ぶ少女としばらく他にもより効率的にできないかと考えを巡らせていく、次第に夜も深まってきたころ……
「そろそろ戻りなさい、あなたの家の人も心配しているでしょう?」
「……そうですね、巫女様、相談したことはくれぐれも言わないでくださいますか?これはあなたが見つけたものとしてください。あなたに異世界からの祝福を、それと進化の先駆者としておめでとう。」
「……え?あなたは一体――」
巫女様はこのことを誰にも言わず人々により覚えやすい方法があったとだけ言って広めていったという――
その日を境に巫女様が前より強い魔法を扱うようになったとかなんとか。
◇
「……なるほど、要するにこの【スキル】の伝番は神様のせいだったと。私が伝番が遅いからと魔力自体を体感できるように作り替えた意味がなかったではないですか。ついでにあの巫女も進化してしまいましたし。」
「いやはや、すまんのう。私の作った世界にはなかったからついつい触ってみたくてな……触ったら触ったで熱が入ってしまったのじゃ……」
先ほどの少女――アウラが研究室の中で男に半分説教を受けているような状態になっている。
明らかに存在が違うのがいるとマキナから言われてみたところ、ちょっと呼ばれたから行ってくると自分の世界を見に行った神様ではないかと焦った。
というか姿までまた変えている、遊び心だろうか、今度は巫女服に黒いロングヘアときた。
「……まぁそろそろ【スキル】は手を入れるつもりでした。良しとしましょう。」
ため息をはきながら男は光球を眺める。
「神様がそうやって魔法の弄り方を授けてくれました、加えて先ほど魔力の流れを体感できるようにしました。これで一気に初歩的なものは広がるはずです……あとで使ってみますか?」
「うぬ!盛大に楽しませてもらうぞ!」
……アウラの性別がわからなくて本当に救われているような気がするのであった。