寒冷都市
地味にこの都市への入港は難しい。
視界不良の山越えを終え直ぐに降下、視界が開けると港が既に目の前なのだ。さらに山に沿って降下しなくては間に合わないため後部の心配も必須、とどめに風が不安定に吹き荒れるため船体が揺さぶられる……などなどほかの都市と比較してもあからさまに難易度が高い。これでも港の位置を出来るだけ山から離し、山も削ったのだが難しいのは変わらなかった。
「出力調整、なんとかもってます!」
「……風が無かったらまだ良いんだけど……っ!」
各機関の絞りを調整し風の影響を軽減させながらリースが船体を操り入港段階へと入っていく。大型艦故に多少の風では揺さぶられないとはいえ真っ直ぐ飛ぶことは至難の技であった。なんとか船体を固定機の範囲まで持ってくれば一段落である。
「固定機影響下まもなく入ります…………入りました」
リースがその合図で一旦肩の力を抜く。とりあえずこれでまずは一安心だ。後は出力調整側と固定機の仕事である。
「操舵を固定機へ譲渡」
「了解、固定機異常なし。誘導開始します」
船体を引っ張る固定機によってアイヴィスが地面に擦ったり回転しないようにだけ注意を払う。風が強いためパラディウムのように誘導役の小型飛空艇は出せない、アイヴィスが自力で制御する必要がある。そのまま固定された振動が伝わってくればもう入港は完了したということだ。アイヴィスを見にくる人の声もそれを確かなものと感じさせる。
「アイヴィス入港完了、固定しました」
「搬入口をあけて降ろし始めてくれ」
◇
新設された搬入口はかね好評で以前のように渋滞を起こすこともなく、スムーズに作業は進められる。アイヴィスが来るとそこは寒さをものともせず賑わいを見せるが一方で手付かずの惨事の跡と片付けられまとめられた瓦礫のみが人々の雰囲気とは裏腹に現実を語っていた。
「艦長、配給完了しました」
「よし、ここには先日言ったの通り臨時の改装作業がある。出港までの間、当番以外は各自自由にしてくれ」
配り終えた後自分が乗組員を解散させるとほかの乗組員は一目散に丁度併設された建物の中で暖を取りにいった。外側とは違い雪がなくともこの寒さは流石に堪えるしわからんでもない。彼らも遊ぶ、と言うよりはどこかの宿で過ごすことになるだろう。私は彼らとは異なりアイヴィスの一室へと向かう。
「……今回もありがとうございます、民に代わって礼を……」
「あぁっそんなことしなくても結構ですから、女王様、そもそもこのような形でと言うだけでも本来大問題です!」
「いやしかしだな……」
「……でしたら少しお力添え願いたい件が……」
部屋で待っていたのはこの盆地に囲まれた都市群を治めている、というよりエルフ本領土の長である。と言ってももはや他種族と同様純血のエルフなどどこかの部落レベルでないとおらず、王族すら九割九分はエルフだが一分は何かわからないと言われている。しかしながら見た目はエルフが多めに入っていればほぼ純血のエルフと変わらないのが不思議な種でもあるのが特徴だ。
しかし何故こんな不便な所に住んでいるのか……それは世界樹の根が露出しているからである。無限の創造をもたらす世界樹の根は中央以外では数えられるほどしかこのような場所はない。ここには無機物ならば何でもあるのである。
「今の我々に出来ることなら是非手伝わせていただきますが……」
「実は魔法に長けた者を貸していただきたいのですが、装備を改造しなくてはならなくなりまして……こんな時ですがどうでしょうか?」
女王は側仕えを寄せて確認をとる、話している二人の顔を見る限りそこまでできない話ではなさそうだ。
「それなら王宮専属の者を手配しましょう、出来れば日数を教えて頂けるとこちらとしては調整しやすいのですが」
「それは……人によるのですが……同じ魔法陣を六つほど用意して頂きたいので何日か、と言われてどう答えれば良いか……」
すると何かを思い立ったようで側仕えが女王に耳打ちする。それを聞いた女王もあぁ、なるほどと声を漏らした。
「良い案ですね」
「……何か案でも……?」
「アイヴィスでしたら……ということで口外厳禁を条件にこちらにはそれをどうにか出来る術があります、完成品を渡すだけになりますがどうでしょう?」
おそらくその門外不出の技術は複製、転写技術と見当がつくが今回は何か聞いてはいけないようだ。
「それならば何日ほどで……?」
「そうですね……三日、としておきましょう。細かい仕様はこの彼に渡してください、設計はティナさんでしたね?」
「ええ、わかりました」
予想以上の工程の早さには驚かされるが何よりこれで改装がすぐに終えられるだろう。三日程度ならば航行で取り返すことのできる時間だ。