砲弾開発
魔法というのは基本的には便利だが稀に魔法じゃない方がいいものもある。
例えば大量消耗品、ここでは弾薬類だ。
弾薬は数を揃えてこその品物だ。戦闘中に切らすという事態は基本的にユニットコストと照らし合わせた際にそれが陥落してはならないのであればあってはならない。
さて、大量消耗品に魔法を充てるのが不都合な理由は言うまでもない、手間がかかるからだ。魔法はたしかに詠唱するだけで行使できるがこれを無人で行うには形態は数多あれど根本的に魔法陣を介さなくてはならない。そして魔法陣は高位の魔法使いであれば魔法で魔法陣を書くという芸当をし始めるがそれは保存が効かない、かと言って紙には一つ一つ正確に書かなくてはならない。
しかし物理的なものならどうだろう?同じものを同じように配置すれば基本同じように動いてくれる。出来ることに限りはあるがその範囲内であれば量産もそこそこ容易く扱い易い。大量にほしい、さらには消耗品となれば魔法よりもこちらに分がある。
「……で投射機と発煙機の次はこれね」
引き続き艦長以下各主任らは机を囲んでいた。今度は設計図の代わりに今使っている砲弾、もといただの鋳物である。
現在アイヴィスの艦砲は全て同じサイズ同じ口径であり砲自体の設計精度や作業精度は共にそれなりに高い水準のものではある。しかしながらそれでも命中率が著しく悪かった、その理由は練度でもあったしそもそも艦載という時点で揺れるが故ということも把握してはいる。しかしそれでも良く出来るならばするべきだとして見直しを図った結果砲弾を改修するべきだとなった。
「そうねぇ……まずは形かしら。球体じゃなくてもいいと思うわ、そもそも速い飛空艇の先端は丸じゃなくて錐形、それに砲身の中に入れる時点で魔法陣からの力は球面より平たい方がいいはず、それにそうすれば同じように飛ばすこともできるはずよ」
そう言いながらリースが簡易的な【錬成】で形を直してみる。
「ふむ、そしたら飛ばすのは針みたいなのでもいいはずだろう?相手に刺さった方が鈍器をぶつけるよりも魔物相手なら致命的になるはずだ。レイピアみたいな類が頭から生えてても現状飛ばせるんだろう?」
「さすがにそこまで大きくはしなくてもトゲをつけるのはありかもしれませんね……あとは砲弾が破裂でもしてくれれば……かといって魔法陣を仕込むのは手間が……量産性を考えるとこれは見送りだわ」
結果として今後の砲弾の形を変えるにとどまった。
実は火薬自体は世界に存在しているはずなのだがいまだ誰も見つけていない。いや見つけてもそれがそうだとは気が付いていないのだろう。
「……ん?いやちょっと待ってくれんか、その砲弾になれば今度から当たったところに刺さったままなんじゃな?」
「え?えぇ、まだ実際にはやっていないけどほとんどが刺さるはずよ」
「おやじさんや、何かあったんかい」
何かを思いついたおやじさんこと兵器管制の【ドワーフ】がリースがしまおうとしたのを止めた。周りの目が一斉に彼に向く。
「いやな、刺さったままってんなら一つ考えがある。魔力を炸裂させるだけなら遠隔でもできるんじゃないか?刺さってるなら位置の認識だってしやすいから魔法使いに炸裂させればいいだろ」
「……なるほど、魔法使いの消費魔力次第では……いや炸裂させるだけですから大層な詠唱にはなりませんね、確かにありかもしれません」
さすがに魔法使いを頼りとなるものを実験なしに使ってみるわけにもいかない。ティナがさっそく簡易的に図面を作り始める。決まったものは形に残しておき型を作るときにスムーズに出来るようにしていた。
「若いからなんだって言うんだがティナの嬢ちゃんはすげえなぁ……これで野郎どもが天使って崇めて士気があがるってんだから頭があがらないねぇ」
「……ありがとう、ございます」
私と違ってティナはその天使と言われている事実を私より多少喜びの面でとらえているようだ。少しだけ恥ずかしそうにしていた。まぁ確かに天使の様と言われるだけでほかに何も考慮が要らないならわからないでもない。しかしそうやっている一方で仕事の手は止まることがなくどんどん細部に必要な事項が記載され設計が進んでいく。
「これまでなんで球体だったのか考えたこともなかったけど……飛空艇と同じ感じに設計したからこうかな」
「お疲れ様。んー……むしろ誰も考えずに量産性だけで球体だったかも、砲の開発時には砲弾のことを気にしてた覚えはないもの」
確かに砲を作った当時を考えてみるとそもそも射出できるというのが主で威力や精度は二の次だった覚えがある。ティナが自室で仕上げにすると言ったのに加えここで議題が尽きたため今回は次は到着直前に再度確認するとして解散となった。
「さすがに空気がよどんでたわ……やっぱり甲板までで新しい空気を吸わないと頭おかしくなりそうね」
「多人数でああいった部屋にいるとどうも眠くなったりしますからねぇ……」
気が付けば乗組員の半数以上は大体何もないと甲板にいるようになった。やはり高度がある分地上が寒ければそれに合わせて多少肌寒いもので皆それなりに厚着の物を持ってくるようになった。
――アイヴィスはいよいよその国の領域へ差し掛かっている。
最近ちょいちょいこれまでの奴で再度書き直しを何話かしたいなぁと