黒龍
帰り際にお詫びの品についてライテイに先に船の方に渡したので航海中にでも見てくれ、とのことだった。そのまま観光を交えつつのんびりとドックに戻ると買い出しに出ていた乗組員たちがアイヴィスに設けられたタラップの下で既に飲み始めていた。
「お、艦長!待ってました!」
「艦長全く面白いものいただきましたねぇ?」
待ってましたとばかりににやにやとこちらを酔いの入った顔で笑っている。一体何をもらったというのだろうか。とりあえず脇に買ってきた物を置いて円陣の中に割り込む。
「はぁ……で、何を私がもらったって?そもそも船の中で見てくれって言われたと思ったんだが」
「いやぁ……丁度船に戻る所で使いの方に出会いまして。そしたら皆で楽しんでくれ、とリース艦長には別に用意したみたいですがこれをくれましてね」
そう言って振るのは酒瓶だ。なるほど彼らにも渡したらしい……さすがに何もなしに渡さないだろうと思い聞いてみればやはり彼らも私と同じような検査があったという。要はあの解析系の物を使えるのは一人ではないようだ。さらに周りが言うには不快感も男女に程度の差はあれど存在するらしく今後それをどうするかが課題になるだろう。
「いや、特に誰が何かを言ったわけじゃなかったんだが顔にでちまったらしくてな。その時は何もなかったんだがどうやら上に話が行ったらしい」
「な、なるほどね……?だからって今飲んでいる理由にはならないと思うんだけど」
おそらく次に来る頃には緩和されているだろうという希望的観測で話を切り上げるとして……さて、まずはこの酔いが入ったやつらを船に戻さなくてはならない。
「是非是非飲んでくれって言われて断り切れずなぁ……?」
「そんなことぬかしてるんじゃない!ほら戻った戻った!出たらまたあのよくわからん奴とすれ違うかもしれないのよ!」
そう言われて文句を垂れつつも渋々とアイヴィスへ戻っていく。何人か見張り担当がいた気がするが寄ってない連中とうまく入れ替えて対応しよう。すると臨時の変更を考えつつ戻る時飲んでいた面子の一人が残された酒瓶を持って軽く振りながらその酒瓶を渡してきた。
「艦長、せっかくですし丁度一口分余りましてな。片づけると思ってささ、どうぞどうぞ」
「んん……まぁ固定方角に飛ぶだけになってからね。今は少しでも鈍らせたくないわ」
酒自体は嫌いではないがかといって日が昇っているうちから瓶何本もはさすがに飲まないし飲めない。
直接飲んだわけではないらしいしまぁこれぐらいなら……という量だったので後で夜間にこっそりと頂くことにした。
◇
「機関、指さし再確認!」
マニュアル通りの確認を済ませた後は荷物で重くなったアイヴィスを各国転々とさせながらボイベン大ゼスタ港を目指す。
「機関始動」
「機関始動!固定器から分離します」
ボイベン出港時と多少異なるがやることは一緒である。そのままアイヴィスは大空へ羽ばたいていった。
そのまま出港したまではいいがここで気を引き締めなくてはならない。一度呼吸を整えてから魔法を詠唱し、舵をとる。
――出港直後の山場、あのドラゴンらと遭遇した区域である。
警告を出す前からすでに艦内には自然と緊張が走る。前回のあの観察が何の意味をなしていたのか、今回も同じように襲われずに済むのか。むしろ襲ってくるとわかり切っている方が幾分やりやすいのではないだろうか。
「総員、配置に付け!行きと同じようにいくとは限らないからな!」
張り詰めた空気の中やはり例の奴らは現れる。しかしよく見ると個体数は一体に加えその色は黒い。そして気のせいだろうか、非常によくない気がする。そしてその勘は的中した。
「障壁展開!明らかに今回は敵意を持っています!」
「全砲門開け!前回みたいに溜める必要はない!あの一頭を艦に近づかせるんじゃない!」
ユラが作り上げた障壁の魔法陣が存分に振るわれる。黒龍の吐く攻撃から魔法まですべてをピンポイントではじく。アイヴィスからは弾薬に糸目をつけることなく砲弾が放たれる。龍側も似たような障壁を駆使し速度を上げながらこちらに追いついくがある程度近づくと弾幕が降り注ぎ距離をとる。龍側の遠距離攻撃を弾く度に船体が大きく揺れた。
「衝撃に備え!」
ドックでの交戦と違い今回はアイヴィスがあれから逃げることが出来ればいい。船体が攻撃以外、機関出力によって震え、限界ギリギリまで引き上げた速度と大型艦らしからぬ機動力でもってでパラディウムから一刻も早く離脱しようとするがなかなか引き離すことができない。とそこに攻撃担当の魔法使いが叫んだ。
「今すぐ目をつぶってくれ!」
言われるがまま目をふさぐと閉じた瞼を突き抜けて白い光が入ってくる。龍の叫びが聞こえるがもだえ苦しむような音であった。目くらまし、案外簡単に思えるかもしれないがこれだけの光量と熱を作り出すには膨大な魔力をつぎ込む、体に異変があってもおかしくはない。
「お、おい何をしている、それでは魔力が!」
「それより今のうちに離脱を!」
落下していく龍を背後にアイヴィスが急いで離脱する。少しばかり機関に鞭を打ったがこの程度はまだ耐えられるだろう。しばらく直線に逃げるとついに黒龍は見えなくなった。
ネ、ネムイ
15時ごろ一部書き足しました。こちらにも書いておくべきかと思ったので補足になります。