魔法具の便利な使い方
――高度な技術が必要なのは我々ではない、それを実行する側にこそ必要なのだ。
ではなぜ実行者と計画者が別人か?それをどのように設計するべきかを実行側よりも知っているからである。作品としてきっかりとして物を造るための術を知っているからである。魔法使いにはない魔法よりも堅実な技術を持っているからである。
寸分狂わず同じものを作る、左右対称な物、複雑な機構を有する物には必須の事項であるがこれを魔法使いが出来るかどうかと言われると……答えは否。高位の者ならともかく僅かな魔力のずれが【錬成】に影響するからだ。真円を創ってくれと言われても作れるのは現状アウラぐらいだろう、しかし魔法でなくとも中心を決めて一定の円を描くことはできる。そこから正確な製図さえ施せば真円に近いものは描ける。ここから型をつくることならば可能である。これに【錬成】で素材を流し込めば同じものを量産できるわけだ。
ティナによる修正と削除を受けたほかの工房の面々はげっそりとした顔でドック隣接の会議室から出てきた。結局あの修正の結果過度な娯楽は軍隊としてよろしくないという点で軍側から却下とされ、飲食に娯楽をゆだねることになった。
「あああああ!今度は予算降りると思ったんだがなぁ……」
「気持ちはわかりますが……上にダメと言われては無理ですね」
「まぁ……こっちの本命は通せたから良しとするか……これでアイヴィスは守り神じゃなくても守れる」
そう言ってアイヴィスの修理の状況確認に向かう設計師一行。甲板まで上がると作業員に紛れて一人の老人とどうやら付き添いの女性が物珍しそうに船を観察していた。
「あ、ユラ様!わざわざこちらまで……言ってくださればお迎えに……」
「ふぉっふぉ……いやいやそこまでしていただなくても結構ですぞ、それに予定よりも大分早くついてしまいましたからな、町中にいても騒ぎになりますが故こちらに来た次第ですからのう……それにしても学園の方では見ることのない装置やら道具やらで物珍しさに事欠きませんなここは」
そう言えばこの方は常に世界樹のほぼ真下で生活していた。マグもそうだがこの手の噴出機関の物は魔力的な都合で世界樹側の都市には出回らない。なるほど、言われてみれば珍しくて当然だ。
「せっかくですから後で案内しましょうか?」
「仕事が終わればお願いしようかのう……で、その仕事であるが今回はわしが加工を担当すればよいのであったな。ちと早いが何をすればいいかの?」
「あぁそれはこちらに……」
設計師とユラを含めた一行はリースにつれられるまま艦後方の搬入口までやってきた。今回の改修ではこの位置の変更を始めとして戦闘艦としての要素を充実させることになっている。ただの輸送艦とするにも自衛能力が足りていないという判断によるものだ。
「今丁度そこの作業員たちが線引きをしています。それに従って穴をあけてほしいのですが……元々この装甲版が分厚いので並みの魔法使いでは柔らかくすることもできず……」
「ふむ……ペトラ、試しに持ってきたものを使ってみてくれんかの?」
「はい、わかりました」
……どうやらお付きの女性に何か用意があるらしい。一体どんな道具を使うのだろう?と思ってみていると衝撃の事態であった。
見間違いではない、たしかにそのペトラと呼ばれた女性の腕が外れた、いや本人が外したのだ。どうやら彼女は【魔製人形】だったらしい。よく見ればスカートの内側から義手らしきなにかを取り出してついには腕を付け替えてしまった。他の設計師でも初めて見た者もいたらしく腕が外れたときに悲鳴をあげたのもいた。鎧を付けたかのような腕に取り換えてからペトラが一礼する。
「驚きました?これでも私は【魔製人形】なので。自己紹介が遅れました、私、ペトラと申します。普段はユラ様の元で教師をしている者です」
「こんな滑らかに動く【魔製人形】は初めて見たわ……腕が外れるまで【ヒューマン】だと思っていました……」
「それはどうもありがとうございます。で、こちらに穴をあければいいのですね?」
そう言って既にガイドの引かれた装甲版の硬さを確かめるように振れる。
「あ、あぁ……でもそんなやわな物じゃ……えっ?」
手刀をガイドのラインに添わせて立てると指の先端が赤熱を帯びそのまま装甲版に穴をあけたのだ。そのまま手をガイドにそって動かせばまるで布にハサミを入れるようにするすると斬れていく。
「本来なら生命源を削ってしまうので控えてますが今はこの腕に魔力を多めに持ってきていますからお気になさらず」
「い、いやそうではなくて……その装甲版を溶かせていることが……」
いや、確かにペトラの言う通り【魔製人形】が魔法を行使すること自体も珍しい。なにせ彼らは与えられた魔力を生物よりも多めに消費しながら動いているのだ。それでなおかつ保持魔力が少ないとなれば魔力消費は例外がなければ極力控えたいと言うのが自然である。そんな彼らが主の危機でもないのにこのように平然と、それもかなりの出力で魔法を行使している。これに驚かないわけはない。
しかしそれよりもこれは驚くべき事態なのだ。今彼女が溶かしている装甲はそんな簡単に解ける代物ではない、なにせ元より軍属艦、戦闘において魔物、魔法使いから放たれる魔法を受け止められるように分厚くはなくともかなり硬いものを使っているからだ。現に建造当時もかなり高名な方を捕まえてまで建造したのだ。そうでなければ鍛冶師を寄せ集めなければならず、急ピッチでの建造なぞできなかった……というのにだ。それにもかかわらず彼女は本来魔法を使わない種であるにもかかわらずいともたやすく、それも正確に作業している。
呆気に取られているうちに彼女はガイドに従って綺麗に装甲板を切り出した。正直少し縁を処理すればこのまま扉に使えるのではないだろうか?ユラ様の方も気にしているのは彼女の魔力量だけのようで火力については一切気にしているようには見えなかった。
「ふぅ……これでよろしかったでしょうか?他にもあれば取り掛かりますが」
「……え、ええ、あと五箇所ほど……こっちです」
周りの作業員も手を止めて一連の流れをまじまじと観察していたようで案内すると言った途端に時が流れ出したかのように慌てて作業に戻っていった。こちらも驚かされてばかりではいけない、仕事をこなさなくては。
PCの反応速度が回線依存ではない部分でコンマ数秒遅いことに違和感を覚えてスキャンかけたところ実はPCからトロイが検出されまして。侵入先がクロームの拡張関係の更新に紛れてたようで……
同じ型のb!cl型を検出した知り合いが丁度同時期にいるのでクローム使ってたらフルスキャンをおすすめします。