Ⅲ:wake
次の話で大きく展開すると言ったな・・・
あれは嘘だ。(涙目)
忙しいんです・・・
マスデニア帝国議会議事堂の一室。
内部回線の電子音がマスデニア議会議事最高議長執務室に響いた。それに反応した男は窓から景色を覗く事をやめ、電子音の元へと歩み寄り通話ボタンを人差し指で軽く押した。
「議長、バーンズ国防長官がお見えになられました」
「通せ」
短いやり取りを終えた彼は肘掛つきの回転椅子に深々と座りため息をついた。
口髭が色濃く生え、白髪交じりの横分けという髪型に鋭い目つき彼こそがマスデニア帝国第49代最高議長ローランド・ハウスマンである。彼が回線を切ってから2分も経たないうちに最高議長執務室の扉が3回のノックの後に開き、秘書の女とその後ろからバーンズが入ってきた。
「君は下がりたまえ」
ローランドがそう言うと秘書は一礼して最高議長執務室を後にした。扉が閉まる音を最後に室内は完全な静寂に包まれた。その2秒程の静寂を先に壊したのはバーンズだった。
「報告いたします。本日午後未明、ベルー海沖にて輸送任務遂行に当たっていた強襲揚陸艦ヴァスタードが音信不通となりました」
「それで?」
ローランドはバーンズを鋭い眼光でにらみつけた。
「現在海軍を中心に調査を開始しておりますが艦の行方はおろか、原因すらも掴めていない状況です」
「それでと言ったのは何を運んでいたのかと聞いているのだ」
ローランドはまるで気が利かない部下に当たるように言った。その表情や声の質からは苛立ちが見えた。
「新型AFの完成品25機です」
その一言を聞いた途端ローランドは眉間にしわを寄せて突然黙りこみ、再び静寂が室内を包み込んだ。
「このことはまだ国民に伝えるな。大事な式典の前だ国民の信用を下げてはならない。そして捜索は続けてもらうがベルー海に多くある島々の周辺を入念に調べろ。わかったか?」
数秒の静寂を破りローランドは言い放った。
「島を・・・ですか?了解しました」
「以上だ。下がりたまえ」
バーンズは一礼して最高議長執務室を後にした。ローランドは扉が完全に閉まったところを見届けた後に内部回線のキーを強めに打ち込み通話ボタンを押した。
「議長、何か御用ですか」
いつもと変わらぬ大人の色気がある声色で秘書の女が受け答えた。
「至急、国家秘密警察局長ダルカインを呼べ」
その声はどこか焦りが出ていた。
「局に連絡いたします。御用は以上でしょうか?」
「あぁ、頼む」
ローランドは回線を切り大きなため息をつき目元を覆った。政治も軍略も全てうまく言っている。今回の事もただの事故に決まっている。万が一の事があってももみ消せばよい。何も不安な事などない。頭ではわかっているのだ。ではなぜこの胸騒ぎが収まらないのか。
ローランドは机に無造作に置かれたティーカップを少し震えた手で掴み口元に寄せた。温かかったはずのコーヒーは既に冷え切っていた。
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