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第9話

 翌日の昼休み。

 沙耶は昼食を食べ終えて、トイレに行って用を足して廊下に出ると、そこに蘭堂がいた。


「水崎さん、少し話せないかな?」


 そう言った彼の表情はとても硬かった。




 沙耶と蘭堂は昼休みの屋上に来た。

 本日の天気は超快晴。

 こんなに天気がいいのに、屋上に他の生徒の姿は見えない。

 入り口から遠く離れた位置、屋上のフェンスの前に立ち、外の景色を見ながら蘭堂が静かに言う。


「昨日あれから君の事が気になって、病院で君の病気の事を聞いたんだ」


 沙耶が蘭堂の顔を見上げる。

 綺麗で整った顔。駿とは違う種類の綺麗。


「君のレントゲン写真を盗み見た。勝手に見てごめん」

「訴えますよ? 個人情報保護法で処罰されますよ?」

「うん、そうだね。本当に悪かったと思っている。許可なく勝手に見て本当にごめん」


 そう言いながら真っ直ぐに沙耶を見て、頭を下げて謝罪した後、言葉を続ける。


「訊いてもいい? 君が入院日を11月20日にこだわるのは、学校の海外留学制度が理由?」


 唐突に寄越されたそんな質問。

 沙耶はひとつ瞬きした後、小さく息を吐いて、フェンス越しに景色を見たまま返事した。


「私の主治医はとてもおしゃべりみたい」

「僕が無理やり久遠先生から訊いたんだ。11月20日は海外留学の出発の日だ、今年は1年生の橘駿君が選ばれた。君が友人だと話していた人物だよね。病気の事を彼に知られたくないから、彼が出発した後で入院しようと君は考えた。そうじゃない?」


 頭の回転が良い優秀な生徒会長だから、きっと勘も鋭い、難なく想像できたのだろう。今更どんな言い訳も通じるはずない。

 沙耶はフェンスに寄りかかり、ゆっくり空を見上げた。

 雲一つないきれいな青空。


「私の家はずっと保護者不在なんです。幼い頃に両親が離婚して、今はお母さんと2人暮らしをしていますが、仕事が忙しくてお母さん家にずっと帰って来てなくて。駿は、彼は私の隣の家に住んでいて、幼い頃からずっと保護者みたいに私の面倒を見てくれました。ケガをした時も病気をした時も、いつも駿が世話をしてくれた。私が病気だと知れば心配の1つもするだろうし、癌だと知れば尚更……彼の海外留学前に、余計な気遣いはさせたくないんです」

「だから11月20日に入院しようと? 君は……間違っている」


 空を見上げたまま少し小さな声で、自分の話を打ち明けた沙耶に、蘭堂の苦しげな声音が返る。

 小さな嘘をつくそのために、自分の命を自ら削るような行為に、到底賛成できるはずもない。無茶苦茶で無謀。

 そして蘭堂は考える。それほど大切に想う相手なのかと。


 沙耶は見上げていた視線を、青空から目の前の秀麗な人物に移して、にっこり微笑んで明るく言った。


「駿は心配性なんです、だから絶対に知られたくない。蘭堂先輩、私の病気の事は誰にも言わないでくださいよっ!」


 そんなに心配しなくて大丈夫、私は全然平気だから、まるでそう言ってるかのように、無邪気を装い話す彼女が逆に痛々しい。

 柔らかい優しい風が沙耶の長い髪を揺らす。


「君は絶対に間違っている……」


 目の前の少女を見ながら、蘭堂が苦しげな声音で再度言った。



 待っているのは決して絶望の旋律じゃない。


 * * *


 沙耶のクラスの男子が、購買で買ってきたばかりのコーヒー牛乳を片手に、席に座りながら傍にいた友人らに言う。


「なぁなぁ、今屋上で生徒会長と水崎が2人で仲良く話してるのを見たんだけど、俺の見間違いか?」

「もしかして蘭堂先輩が水崎に告ってフラれたって噂、あれマジだったか!?」

「どこのガセネタ情報だよ」

「駿、なんか知ってる?」


 男子は振り向いて、後ろの席でスマホをいじっていた駿にそう訊くと、不機嫌そうな声が返る。


「なんで俺に訊くんだよ?」

「駿は水崎と仲いいだろ」

「隣の家だからな。近所付き合いは重要だ」


 顔を上げる事なくスマホの画面を見たまま、放るように駿のそんな答え。

 男子は紙パックのコーヒー牛乳を飲みながら、思い出したようにふと言った。


「そういえば水崎って可愛いよな……アタマ悪いけど」


 沙耶が聞いていたら『ひと言余計!』と、頬を膨らませて猛抗議する事だろう。

 友人のそんな言葉に、駿はやっぱり不機嫌な顔をしていた。


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