表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

第8話 重ねて、特訓します!

 宿舎に帰ってタンザナくんが「アガ―ト頑張ってたよ」と報告をするなり、四方八方(というほど人数はいないのですが、気分的に)から手が伸びてきて、恒例の撫でまわされタイムが始まります。

 正直に言って、そんなにお褒めにあずかるほどの頑張りではないのですが、それでもここの皆さんは褒めてくれます。それに微かな申し訳なさと、胸いっぱいのうれしさを感じます。

 今日のご飯は、すでにアンバーさんが用意していてくれました。メインは白身魚の煮込み。それにレタスとトマトのサラダ、きのこのスープという、贅沢ではなくとも温かみのある献立です。味付けも相変わらず、おおざっぱながらも家庭の味という感じ。アンバーさんの味です。

「タンザナ的には、アガートどうだった」

「ボクにもけっこう頑張ってついてきてたし、スタミナはあるんじゃないかな。でもフォームはいまいちかも。そのへん直したら、もっと楽に走れるようになると思うから、誰か直してやって」

「……わたししかいないじゃないか」

「まーね」 

 ……次の特訓では、アンバーさんに教えてもらうことになるのでしょうか。緊張、します。

「あとアガートくんさぁ、魔法とか興味ない? そのつもりならお姉ちゃん教えたげるよ」

「魔法、ですか」

 ぼくの家は魔法を使える血筋ではありませんし、ぼく自身も魔法は使えないのではないかと思えます。

 ですが、魔法という言葉の響きにはときめきを禁じえません。興味がないと言ったら、嘘になります。

 それがユーディさんにも伝わってしまったのでしょうか。

「よぅし、んじゃこれから毎週、お姉ちゃんが魔法を教えたげるね!」

「先生、それは抜け駆けですぞ。本当を言えばわたしもアガートくんにお教えしたかったのに」

「えっへへー。早い者勝ちだよん」

 ジェードさんがユーディさんを「先生」と呼ぶところから見るに、ユーディさんのほうが年上なのでしょうか。吸血鬼の方は、見た目からの実年齢がわからなさすぎます……。

「ところでアガート。食事のあとはどうする?」

「そうですね………一休みして、また運動しようかと」

「やりすぎて続かないより、少なくして続けたほうがいいぞ。ま、そのへんも考えてやれよ」

「はいっ。せっかくですしアンバーさん、走り方を教えてくださいませんか?」

「わたしも正規で教わったわけじゃないんだが……それでも良ければ付き合おう」

 アンバーさん、そこはかとなくうれしそうです。そんな顔をしてくださると、お頼みしたぼくもうれしい限りです。

「じゃあ、食べて一休みしたら……な。後から動くんだから、しっかり食べるんだぞ」

 ……ぼくのお皿に分けられるパンが、二切れ三切れ多いのは気のせいでしょうか?

 

 ***

  

 予定通り一休みしたあと、ぼくはまたがらんとした運動場を走っていました。すぐ横には、アンバーさんがぴったりくっついています。

「顎引いて」

「ッ、はい」

「脇締めて」

「はいッ」

「いいよ、その調子」

 タンザナくんはただ一緒に走っているという感じでしたが、アンバーさんはと言えばコーチ感がばりばりに感じられます。的確な指示に加え、ちょっと休みすぎじゃないかと思うくらい「休憩を取ろう」と言ってくれて、水のペットボトルを渡してくれます。

 何度目かの休憩の時には、アンバーさんもぼくの隣に座り、少し、話をしました。

「タンザナは、一緒に走るといっても……くっついてくるばっかりだったろう」

「それでも、独りじゃないからすごく励みになりましたよ」

「さては、罰を食らって運動場を、ひとりで周回させられていたな」

「はい」

 ほんとを言うと冤罪がほとんどなのですが、黙っておきます。

 アンバーさんは普段こそ悪い人としか見えないひどい吊り眼なのですが、ときどきこうしてきゅっと、人好きのする目元になります。不思議ですし、好きなのですが、なんとなく本人には言い出せません。

「それに、タンザナくんってスタミナあるから、ぼくのほうが先にへばっちゃうんです。だから、一緒に走る相手としては理想かも……もちろん、彼は味気ないでしょうけれど」

「そんなことないさ」

 今更柔軟体操をやりながら、アンバーさんがこっちを向きました。

「タンザナは、一緒に走ってくれる相手がいるだけでうれしいんだよ。あいつもなかなか、寂しい奴だったから」

 ふいに顔を上げたアンバーさんと、ぼくの目が合います。

「わたしも……話してくれる相手がいるだけで、本当はとっても、うれしいんだよ」

 アンバーさんの、作ったような笑顔は寂しげでした。

「大丈夫です」

 思ってもいないことがば口をつきます。

「ぼくはこの部隊に、ずっといますから」

 アンバーさんの口元がゆうらりと歪みました。似たようなきれいごとを言って去っていった人数は、枚挙にいとまがないでしょう。

 でも、ぼくは。

 ずうっとと言えば嘘になるけれど。

 当分は、この素敵な部隊に配属されっぱなしでいたいと、そう思っていたのでした。

編集

応援する シェア


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ