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聖魔合一 ~魔神の眼を持つ勇者~  作者: あんずじゃむ
第一章 魔族襲来編
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第004話 夕食~進路と人参~

「リキッド、明日は一日を通して俺とお前と剣の鍛錬をする」

「いきなりどうしたんですか、父さん。午後からはまた会議があるんじゃないですか」

「テイラーにもちゃんと話してあるぞ」

「なら、いいですけど」


 夕食の食事中、シルバ父さんの話題はいきなりだった。

 シルバ父さんの話に前置きがあったことは今までもなかったが。

 昔、本職の剣士として世界中を旅していた父さんの体は鍛え上げられている。今でこそ年に数回の間引きのときに魔物と戦うぐらいではあるが、毎朝鍛錬は欠かさずしている。

 テーブルを挟んで僕の向かい側に座る父さんは手に持ったパンをちぎらずにそのまま齧り付き、話を続けた。


「もう少しでリキッドも12歳になるな」

「まだあと数か月はありますよ」

「細かいことばっか言ってると父さんみたいにモテないぞ」

「父さんはモテるんですか」

「おう!この間も4軒隣のイデェッ!?」


 父さんが椅子に座ったまま飛び上がった。

 父さんの隣に座ったリューネ母さんが父さんの足を踏みつけたのだろう。いつも通りの夕食風景だ。


「シルバ!私の可愛い息子に変なことばかり教えないで!」

「ふむ、じゃあお父さんの息子も今夜可愛がってくれれイッテェええ!!すまんかったッ!いやマジで今のは俺が悪かったって!痛い!」

「もう!」


 父さんの親父ギャグに母さん激怒である。タイミングというか内容というか、全面的に父さんが悪いな。

 僕の隣に座るリエルは今の父さんの下ネタが理解出来なかったらしく、首をかしげて夫婦のやりとりを眺めている。大丈夫、リエルは知らないままでいいんだよ。


「で、だ。リキッド」


 父さんが仕切り直す。

 涙目で締まらない。

 村のみんなから主に腕っ節方面で信頼されているシルバ父さんはどこへ行ってしまったのか。

 サラダとスープの皿の端に人参が寄せられていた。子供か。そういう悪いところはリエルが真似をするのに。


「はい」

「俺も12になる頃には家を飛び出し、隣町の道場で自分を鍛え上げたもんだ」


 知ってる。何度も聞いた。

 ちなみにそのまま兄弟子や師範をなぎ倒し、道場破りみたいなことをしていたそうだ。いくつもの道場が被害にあったそうだが、南無。

 うちは父さんも母さんも家出癖があるらしく、父さんは家が嫌になると飛出して近くの道場に攻めこんでいた。そして母さんは現在も実家から家出中らしい。

 古種族(エルフ)でそれなりの地位にいた人が通りすがりの剣士と駆け落ちして産まれたのが僕とリエルだというのだから、それなりのドラマがあったのだろう。


「お前はどうする?」

「それは僕に出ていけと言っているのですか?」


 そんな反面教師の夫婦の下、育った僕とリエルはお利口なものである。

 家出なんてしたこともない。現状に対して特に不満もないし。

 僕は今までと同じようにシルバ父さんに剣で鍛えられ、リューネ母さんに魔術を教えてもらい、マリアンヌ様からその他のことを学び、いつか幼馴染のヴェルがラッセル領の領主になった時にその騎士になるのだと思っていた。

 そのための日々の鍛練だ。


「お父さん!お兄ちゃんが家を追い出されるならあたしもついていくからね!!」

「待て待て、リエル。パパはそんなつもりはないんだ。ただ黙って出て行かれると母さんも心配するし、リキッドが村に残るにしろ、道場へ行くにしろ、町で冒険者になるにしろ好きにさせてやりたいと思ってる」

「あら、シルバはリキッドが冒険者になるのは反対だと思っていたけど」

「……確かに前はそうだったが、ここ一年こいつの成長を見てきたんだ。そりゃ俺ほどではないがしっかりしてきたと思う」


 父さんとの鍛錬の他に先生とも剣の特訓をしているからだろうか。剣についてはヴェルよりも強くなっている自信はある。それでも父さんにはまだまだ届かないし、先生にも駄目だしばかり受けるが。


「正直道場へ行ったところで、ほぼ基礎を伝えきった今のリキッドだと学べることも少ないだろうしな。だが男だったら一旗あげたいと村を出ていく気持ちもわかる。少し前にそういった奴らが外を知って戻ってきたが、リキッドならば良いところに行くことも出来るだろう。どうだ?」

「……」


 認めてもらっているのだろうか。

 村一番を越えて、王国内でもそれなりに通用すると聞く父さんにそこまで言って貰えると心強いが、やっぱり自分にはまだまだ力が足りていないとは思う。いつかは、と思うけれどそれがいつになるか全然想像が出来ない。

 

「12になれば王都の学校へも行ける。王都の学校なんてのは貴族ばっかりだから面倒そうで俺は嫌だが、お前は勉強が好きなんだろう。魔術の道に進みたいなら魔術学校もある。お前に攻撃魔術の適正は少ないらしいが、治癒魔術なら大成すると思っている。生憎俺も母さんも治癒魔術は苦手だから教えることが出来ないが、魔術学校なら良い教師もいるはずだ」


 父さんがそんなことまで知っているとは思わなかった。母さんも僕を見て頷いているからきっと母さんやマリアンヌ様から僕のことを聞いていたのだろう。


「自惚れかもしれないが、お前が俺みたいになりたいと考えていると思っている。だが、お前は俺と違って頭もいい。他のことも出来るんだから、したいことをしたらいい。後で悔やむような人生を送るな」

「父さんは、……父さんは自分の人生で悔やんだことがあるんですか」

「ある。俺の力が足りないせいで友を死なせてしまった。俺にもっと力か、力に代わる何かがあったら守れたかもしれない。そういった後悔をして欲しくないんだ」


 それは聞いてはいけない質問だったかもしれないけれど、父さんの真剣な表情を見ると、今の答えは僕の中で形にしなければいけないと思った。


「12になるまでに父さんと母さんに伝えます。それまで考えさせてください」

「わかった。じゃあこの話はここまで。飯もちょうど食い終わったし、父さんはちょっと外で体を動かしてくる」

「シルバ!ちゃんと人参も食べなさい!リエル、あなたもよ」

「「えー、苦いじゃん」」


 ばれない様に人参を僕の皿へ送り込もうとしたリエルも母さんに見つかって怒られていた。

 リエルは見た目が母さんそっくりだが、こうしてたまに父さんみたいなことをしたり、言ったりする。将来が心配だなあ。


『食べるものがなければ魔獣の骨を齧り、汚物を濾して水分を得なければ生きてゆけないこともある。贅沢を言うな』


 先生だってそう言っている。だから僕もこの5年で好き嫌いはなくなった。

 今日の食事盛り付けをしたリエルによってちょっとばかし大目にスープへよそわれた人参を口いっぱいに頬張る。盛り付けの段階から量の調節をすることを覚えたリエルはやっぱり賢いと思った。



読んでいただきありがとうございました。

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