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聖魔合一 ~魔神の眼を持つ勇者~  作者: あんずじゃむ
第一章 魔族襲来編
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第001話 座学~赤い屋根の大きなおうちにて~

 魔王が勇者によって滅ぼされて、早12年。

 世界に平和が訪れた。らしい。


「魔王が生きていた頃はこの近くにも魔獣がたくさんいたんだよ。今は角鼠(ホーンラビット)みたいな下級魔獣しかいないから危険はほとんどないんだけどね」


 ラッセル領にある一番大きな館。ラッセル領の家屋はその屋根を真っ赤に塗装されているのが常だけれど、その中でも一際目立つのがここ。ラッセル邸である。

 その一室。ラッセル領の領主の一人息子ヴェルフレア=ラッセルとその母親マリアンヌ=ラッセル様。一人息子とほぼ同等の扱いを受けている少年少女。リキッドとリエルの兄妹。つまり僕たちだ。

 ヴェルとマリアンヌ様は屋根の色に似た赤い髪と質の良い貴族らしい服を着ているのに対し、僕とリエルはそれぞれ僕が金色の髪、リエルが薄い青緑の髪、そしていくらかランクダウンされた服を着用していた。

 同等の扱いを受けているとは言っても貴族とその使用人の子供である僕らは見た目に明確な違いがあった。


「はーい!マリアお母様!」

「はい。リエルちゃん」


 しかし、マリアンヌ様と向かい合うようにして三つの机を寄せて学ぶ僕らの姿勢に違いはない。

 リエルがまっすぐ天に向かって手を伸ばし声を出すと、マリアンヌ様がリエルの名を呼んだ。


「今度シルバ父様たちが討伐に行くのはその角鼠(ホーンラビット)なんですか!?」

「さすがリエルちゃん、よく知ってるわね。その通りよ。2点あげちゃう」


 マリアンヌ様は全般的に子供に優しいが、リエルに対しては特に甘い。

 今のを同じように僕かヴェルが言っても無得点か、良くて1点貰えるかだろう。

 まあ11歳の僕とヴェルより2つ年下のリエルが優遇されるのは当たり前の事ではあるが。

 それでもまあ、兄としての威厳みたいなものは出来るだけ保ちたい。


「今回は角鼠(ホーンラビット)だけではなく、メインは灰牙狼(ガルムウルフ)の間引きですよね。確かもうすぐ繁殖期だったはずです」

「さ、更に言えば角鼠(ホーンラビット)の肉は干し肉にして僕たちの食糧になるし、角は磨り潰して森に繁茂している薬草と揉めば万能の傷薬になる。灰牙狼(ガルムウルフ)の牙や毛皮も町の行商人や冒険者組合(ギルド)に持っていけば売ってお金に出来る!」

「ふふっ、よく勉強しているね。二人にも1ポイントずつあげよう」

「どうだリキッド」

「さすがヴェルだな」

「ふふん!」


 僕に負けないよう鼻息荒くヴェルが答えた。いつの間に傷薬の調合法を知ったのだろうか。きっと僕やリエルの知らないところで自習でもしているのだろう。ヴェルは自信家だが、ちゃんと努力を怠らないやつだ。

 ヴェルのそういった何事にも手を抜かず真剣に取り組むところを僕は尊敬している。


「リキッドの言うとおり今回の討伐のメインは灰牙狼(ガルムウルフ)の間引きですが、そこに角鼠(ホーンラビット)の討伐が含まれているのはどうしてでしょうか。ちょっと難しいからもし正解出来たら特別に3ポイントあげようかな」


 このポイントというのはマリアンヌ様が考案した制度だ。一週間のそれぞれの累計ポイントを比較して、一番多い者が週末にご褒美――おやつやお土産など――が貰える仕組みだ。

 これがよく出来ているのだ。

 自分の頑張った分が明確に数字として貰える。

 日々数字を足すことによる算術の実践。

 ご褒美が日にち単位と短くなく、しかしサボると七分の一と大きな損失を受けるため、今日だけはまあいいかと手を抜けない。月単位ほど長くないため途中でだれることもない。

 三人が競い合うことでより自分たちを磨くことが出来る。実際、これで負けず嫌いなヴェルの座学の知識が一気に伸びた。

 さらに言えばご褒美を用意する側も一週間に一回分だけで済む。

 マリアンヌ様が才女と呼ばれるわけである。


「母様。それはそれこそ食糧になるし、角は傷薬になるからでは?」

「それも理由のひとつではあるけど、角鼠(ホーンラビット)を減らすことによって結果的に灰牙狼(ガルムウルフ)の間引きにもなる理由があるんだよ」

「んん??他の魔物が減れば、同じ地域に住んでいる別の魔物は勢力が拡大して増えるのではないですか?」

「えー、わかんないよー!マリアお母様ヒントちょうだーい!」

「ヴェルもリエルちゃんもわからないか。リキッドはどう?ヒント欲しい?」

「マリアンヌ様、少し時間を下さい」

「リエルちゃんみたいにマリアお母様って呼んでくれたら待ってあげる」

「……。僕もいつまでも子供ではないのでちゃんと立場は弁えております。マリアンヌ様」

「えー、リキッドのイケズー」


 そういう子供っぽい仕草はやめて欲しい。リエルやリューネ母さんと違って、マリアンヌ様には妙な色気があるので困ってしまう。

 若くしてヴェルを生んだマリアンヌ様は童顔なのに村で一番おっぱいが大きくて――だめだだめだ!マリアンヌ様相手に何を考えている!一旦落ち着いて考えよう。


 普通、ヴェルのいう通り一つの魔物が減れば同じ地域に住んでいる別の種類の魔物は敵がいなくなるから、その分勢力が大きくなるはずだ。これは事前に聞いていた(・・・・・)から間違いない。

 そう考えるなら角鼠(ホーンラビット)を一緒に間引くことによって灰牙狼(ガルムウルフ)の増加に繋がってしまう。先ほどのマリアンヌ様の言葉だと角鼠(ホーンラビット)の討伐が直接灰牙狼(ガルムウルフ)の討伐に繋がってくるということであるが、ううん?おかしいな。


 ちょっと待てよ。

 そもそもどうして角鼠(ホーンラビット)が減ると灰牙狼(ガルムウルフ)の勢力が増えるんだ?この考えが間違っている気がする。森には他に魔物がほとんどいない。

 一応他にも野生動物――野良犬やリスなど――はいるが魔獣として人を襲うのはこの2種類だけだ。

 ただし、角鼠(ホーンラビット)も魔獣ではあるがほとんどの場合で人を襲うことはない。実際遭遇したこともあるが一回も襲われなかった。犬とほとんど変わらない大きさだ。一匹ならなんとかなっても、だいたい群れで行動しているし、それがまとまって襲いかかってきたら大の大人でも苦戦するだろう。しかし、角鼠(ホーンラビット)は臆病なため、襲ってくることはほとんどない。人間に対してそうであれば、それより強そうな灰牙狼(ガルムウルフ)と敵対するだろうか。いや、むしろすぐに灰牙狼(ガルムウルフ)に食べられてしまいそうだ。角鼠(ホーンラビット)の肉はそれなりに美味しいし……あ!


角鼠(ホーンラビット)灰牙狼(ガルムウルフ)の餌になるからですね!繁殖期に備えて餌を集めようとする灰牙狼(ガルムウルフ)より前に捕まえることによって灰牙狼(ガルムウルフ)が増えないようにするんだ!」

「正解!」


 食べるものがないのに、個体を増やすことは出来ない。生んでも結局は育てられなくなってしまうからだ。

 人も魔獣も食べるものがなくなり、お腹が空いてはいずれ倒れる。生物の真理である。


 そうして僕は3ポイントをゲットした。

 なお、今週の現時点ポイントはあと二日を残して2位の僕と8点差でリエルがトップである。勝てる気がしない!


読んでいただきありがとうございました。

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