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聖魔合一 ~魔神の眼を持つ勇者~  作者: あんずじゃむ
第一章 魔族襲来編
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第010話 合流~VS鱗の魔族①~

 命がけの戦いを終え、村に辿り着くと、そこには惨劇が広がっていた。

 村中から聞こえる悲鳴。

 魔族の嗤い声(わらいごえ)

 家屋が燃える音。耐え切れず崩れる音。


「ひどい……。どうして、僕たちが何をやったっていうんだよ!?」

『落ち着け』

「落ち着いてないんていられない!人が死んでるんだよ!」


 村を守る兵士が無残な姿で死んでいた。

 村の男性のほとんどが森へ灰牙狼(ガルムウルフ)討伐に向かったが、村を守るために何人かが残ってくれた。彼らはシルバ父さんよりも年が少し上で全盛期よりも力が劣ったとは言っていたが、経験を積んだ兵士で決して弱くなんてなかった。

 なにより、死んでいい人じゃなかった。


『死んだ者は助けられない。今すべきことは何だ?死を悼むことか。同族を殺した敵を憎むことか。それとも燃えている家屋の鎮火でもするのか。違うだろう。冷静になれ』

「……はい」

『まだ生きている者を守るのだろう。まだ戦闘は続いているようだが、いつまで耐えられるかはわからないからな』


 そうだ。僕は守るために来たのだ。ここで足を止めている時間はない。

 僕は死んでしまった兵士のみんなに心の中で謝り、戦いが終わったら安らかに眠れるよう埋葬することを誓う。


「まずは家に行こう。削れてしまった木剣をどうにかしないと」


 先ほどのような硬質な魔族がいれば、次は刃が通らないかもしれない。


『そこで死んでいる者の剣を使え。棒切れよりは使えるだろう』

「死んだ人の剣を使うの?」

『何を躊躇うのかは知らんが、ここは戦場だぞ。使える物は仲間の(むくろ)でも使え。でなければ死んだときに後悔するぞ』

「……」


 死んだ兵士の一人から剣を取る。

 もちろん知っている人だった。小さな村だ。知らない人などいない。

 彼は恐怖に目を見開き、利き手と反対側の体が炭化していた。

 意志を持って剣を手放さなかったのか、それとも手放す間もなく絶命したのか。

 手から剣を取ると手で目を閉じさせた。


「あなたの剣をお借りします。そしてあなたの仇を取ります」


 手入れされた剣は僕の手には少し大きかったが、新品の木剣より手に馴染んだ。

 鉄の重さが戦いの実感を僕に伝える。


『聖気を纏え。全身と剣に、だ。急げ、もうあまり時間はないぞ』

「はい!」


 剣先に集中して構える。体の中の魔力が渦巻こうとするのを感じるが、それを無理やり全身に広げる。

 体に魔力が行き渡ったのを確認して、構えた剣を振るう。

 全身から剣先まで白い魔力が通ったのがわかった。


「また一回で出来た」

『力を貸したからな』

「そうなの?全然わからなかった」


 魔力の使い過ぎで体が少し怠いのと目の奥が少し痛むのを除けば体に異変や不調はない。


『ぶつかる音と魔族の声が聞こえるだろう。そこへ向けて走れ。他はすべて無視しろ』

「はい」


 硬質なもの同士がぶつかる音。同じところから魔族の声が聞こえる。

 いつもより聴覚が研ぎ澄まされる感覚。

 走る速度もいつもよりずっと速い。しかし、僕の眼は流されることなくすべてを把握していた。


「なにこれ、体がいつもと全然違う」


 燃え盛る村の中を高速で駆け抜ける。

 崩れた家から泣き声が聞こえる。

 瓦礫の中から助けてと悲鳴が上がる。

 小さな声でも聞こえてしまう。

 しかし、先生の言う通りに立ち止まらず突き進む。

 僕にすべてを救うなんて出来ないからだ。

 噛み締めた奥歯が音を立てた。

 そして、ちょうど自宅の前にそいつはいた。


 細かい鱗に覆われた魔族。体長が僕の倍ほどもあり、さっきのトカゲ型の魔族を彷彿とさせるが、目の前の魔族は足が短く、尾もない。しかしその両の腕は太く大きく、背中には大きな翼があった。

 その腕でさっきから障壁を殴り続けていた。もう何度続けたのか、障壁には(ひび)が入り今にも割れそうだ。

 その鱗の魔族の下に薄い青緑の髪を持つ者を見つける。

 リューネ母さんとリエルだ。傍にはヴェルが倒れている。

 リューネ母さんが張っているであろう障壁に向かって、魔族が大きく右手を振り上げた。その右手は僕の身長よりも長く、それが振り下ろされたら確実に障壁は砕かれるだろうと思えた。

 まだ少し距離はあるが、この速度なら、届く。

 僕は鉄の剣を振り上げ、魔力を込めたままのそれを走りながら振り下ろした。


「やめろおおっ!!!」


 白き剣閃が剣筋から離れ、振り下ろそうとした魔族の右腕を切り落とした。

 驚いた魔族がこちらを振り向く。

 しかし、遅い。もう僕の剣の間合いだ。

 振り下ろしていた剣をそのまま振り上げた。


「アガガガガガアアア!!」


 魔族は身を逸らし、僕の剣は腹部を浅く切りつけるだけに終わる。

 剣に纏う魔力が減っており、威力も出なかった。僕はもう一度体中から魔力を引きずり出し、そのまま剣に込めるよう流し込んだ。剣が再び白く光り出す。


 魔族が翼をはためかせ、空に飛びあがる。

 距離を取られると厄介だが、相手がこちらに注意したまま飛び込むと危険なのでそのまま踏み留まった。


「母さん、リエル、大丈夫!?」

「本当にリキッドなのね。立派になったわ」

「お兄ちゃん!えっ、なんで光ってるの!?ちょっと変!」

「今はいいでしょ!」


 二人は大丈夫そうだ。

 二人とも魔力の消費のせいでいつもより顔が青白い気がするが、変なことを言う元気はあるようだ。

 しかし倒れているヴェルから返事はなかった。


「母さん、ヴェルは?」

「気絶しているだけよ。さっき障壁が一度破られたときに再度張り直すために前に出て時間を稼いでくれてね。大きな傷もないわ」

「もう障壁が壊れそうだけど、張り直せる?」

「少し時間があれば。障壁とか風魔術とか普通の魔術は苦手なのよね。魔術は火力で燃やし尽くす方が好きなんだけど」

「お母さん!そんなことをしたら周りの家まで燃えちゃうからやめてってさっき言ったよね!」

「わかってるわよ、リエル。だからさっきだって嫌だけど暴力の竜巻(タイラントストーム)にしたじゃない。シルバがいればもう一度くらい出せるんだけど、前衛がいないと無防備だからおちおち詠唱も出来ないし」

「僕ならさっきの一匹ぐらい抑えられる。だからその間にさっきの竜巻の魔術を唱えて」

「……待て、魔族はもう一匹いる」

「ヴェル!」


 倒れたままヴェルが僕に助言をくれる。


「暗くて見えにくいが、空にもう一匹で合計2体いた。鱗の魔族と人型の魔族の2体だ。残りは魔術が直撃して倒した。しかし人型の方は暴力の竜巻(タイラントストーム)でもほとんどダメージを受けていないのか、安定して飛んでいたからもしかしたら一番強いかもしれない」

「わかった。母さん、やっぱり障壁を張って。僕ら二人が動けないところでリエルやヴェルが狙われたら危ない」

「お兄ちゃん!私だって戦える!」

「リエルは下がってなさい!」


 珍しくリューネ母さんがリエルに怒鳴った。


「あなたの魔術ではこいつらを倒せないってわかっているでしょ。魔術を使い過ぎると反動でどうなるか知らないわけじゃないでしょう!」

「でもあたしだって、お兄ちゃんやお母さんを守りたい!」


 リエルの新緑の瞳から涙が溢れた。

 僕は彼女の短くも柔らかい薄い青緑の髪を撫でる。


「リエル。今回はお兄ちゃんと母さんにお前を守らせてくれ」

「でも……」

「大丈夫だ。絶対に守る。だからリエルは見守っててくれ。今日は出来なくてもいつかお兄ちゃんを助けられるようになってくればいい」


 見上げると鱗の魔族から腕が生えようとしていた。

 僕が切り落とした断面から一回り小さい腕がずるずると生えてきている。

 痛む目の奥を堪えて、再び剣へ集中する。

 込めた魔力は散っていないが、揺蕩(たゆた)っていたものを研ぎ澄ます。白い輝きが増す。


「二体だけなら、空にいても魔術を使って倒せるはず」


 当たり前だが僕は空を飛べない。しかし、魔術なら空にいる魔族にも攻撃出来る。

 しかし、僕はまともな魔術を数多く撃つことが出来ない。リエルでは歯が立たないということはリューネ母さんから習っている初級魔術ではとてもではないが、ダメージを与えられないであろう。

 ここは先生から習っている、母さんに教えられている魔術よりも強力な魔術を使うべきだ。

 扱いが難しく、魔力消費も大きいので一度に二回しか使えないが、止めは剣でもいい。なんとか撃ち落して地上で戦うのが目的だ。


 魔族の腕の生え変わりが完了し、威圧するかのように叫んだ。

 僕は無言で剣を握り直す。

 状況を確認する。

 敵の魔術を避けなければならない。 

 敵に魔術を当てて地上に落とさなければならない。

 そして、見えないところに2体目がいる。


 決して優勢とは言えない。

 こちらで戦えるのは僕とリューネ母さんだけで、リューネ母さんはリエルと動けないヴェルを守るため苦手な障壁を維持して守り続ける必要があるため、この場所を離れられない。

 言ってしまおう。劣勢だ。

 でも、


「負けるもんか」


 僕は家族を守るために、手に持った剣を構えた。



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