始まりの始まり
「神様は独りぼっちなんですか」
彼女は言った。ガラス玉のように透き通った、きらきらとした瞳だった。
「そうだね。僕は独りぼっちかもしれない」
そう呟けば、彼女は
「じゃあ、どうして神様はお友達を作らなかったんですか」
と不思議そうに首を傾げた。不思議で不思議で仕方ない。そういう顔だった。
「神様はヒトを作りました。とりさんを作りました。うさぎさんやネコさんや犬さんやくまさん、その他たくさんの生き物を作りました。海も、山も、空も、陸も、この世界も何もかもを神様は作りました。なのに、なんで、神様はお友達を作らなかったのですか」
「友達を作るためのものが足りなかったんじゃないかな」
「足りない?」
「人を作って、植物を作って、動物を作って、海と山を作って、空を作って、大地を作って、太陽や月も作ったからね。最後に友達を作ろうとしても、作るための素材が足りなかったのさ」
「素材?」
「愛とかそういった類のものさ」
「ふぅん……」
そう呟くと、彼女はしばらく黙りこんでしまった。幼げな顔で何かを考えるさまは、どこか天使に似ているかもしれなかった。
「なら、神様は愛とかそういったものがあればお友達を作れるのですか」
「そういうことになるね」
「じゃあ、どうすれば、私は神様に愛をあげられますか」
そう言って僕を見上げてくる彼女の顔は真剣とでもいうべきだったのかもしれない。ただ、じっと僕の目を見つめていた。
「どうすれば……、か。そうだね、君が生涯処女を貫いて、尚且つ生きとし生けるもの全てを滅ぼしてくれればそれは可能かもしれないな」
「滅ぼす………?」
「殺すってことだよ。生き物も植物も海も山も空も大地も太陽も月も何もかも」
それ、君にできる?
そう尋ねれば、彼女は眼を大きく見開き、その小さな体を震わせたのち、
「か、神様は、っ……とてもっ、恐ろしい人です……っ!」
と言って走り去ってしまった。
その去りゆく背中を眺めながら、僕は
「友達……ね」
と、呟く。
世界というミニチュアを作り、一人で遊んでいた。今までそれが退屈だと思ったことも寂しいと思ったことも楽しいと思ったこともなかった。だって、僕にはそういった感情が存在しないから。
けれど。
「一人で遊ぶよりは二人で遊ぶ方が楽しいのかもしれないな、こういったものは」
僕は自分で作った空を見上げる。それはとても青くて、雲一つなくて、何一つ飛んではいない空だ。出来としては、良くもなく悪くもない。つまり、まあまあ。
「…ままごとでもしてみようかな」
そんな風に独りごちた僕の言葉に、どこかで犬が呼応するかのようにワンと応えた。