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68.大団円(2)

「アリーシャ、やるじゃないか!」

「そうよ、まさかあなたにこんな才能があったなんて!」


 はたしてそのすぐ直後。

 たちまちにして多くの人々でテント内はかしましいほどになり。


「いやはや、儂らの目からも、かなりの出来栄えだったぞ」


 ――かくてまずはアリーシャが、その両親、メールジェアンでもそれなりに顔の効く50代くらいの商人夫婦から、分かりやすくも賞賛の声を休みなく掛けられていた。


「二人とも、いくらなんでもほめ過ぎよ……」

「何言っているんだ、本当に良い出来だったんだから!」

「ふふ、私ももちろん同じ意見。……でもお父さん、実はとっても心配していたのよ」


 もっとも当の本人は、そんな怒涛のお褒めの言葉攻勢に少々面食らっていたようだったものの。


「え、お父さんが?」

「そう、だってあなた、お見合いの話断ってまで、この公演に賭けていたんですもの」

「う、それは……」


 むろんだが相手、特に母親の方はまるで構わず喋り続け、それはまさに自慢の娘の艶姿にどこまでも満足している者のそれというやつなのだった。


「でも、今ならそれも充分理解できる。そう、全てはこの日のためだったと思えば。ね、あなた?」

「え? あ、ああ」


 当然というべきか、すかさず隣の父親にも否定しようのない同意、求めて。


「まあ、アリーシャが決めたことだからな。ただ、お見合い取りやめになった相手だが、実は結構良い家の御曹司で――いや、この話はもういいだろう」


 そしてそれゆえだろう、彼はふと言いかけた言葉、結局最後まではとても言うことできず、


「そう、今日はとにかく帰ってお祝いの宴だ! 親戚たちも呼んで、アリーシャの活躍しかと知ってもらうぞ!」

「って、やっぱり大袈裟過ぎ!」

「ふふ、でもあんなに張り切って見えるのなんて久しぶりだから、やらしてあげれば? あなただって嬉しいでしょ?」


 かえっていまだどこか惑いの表情浮かべている愛娘尻目に、二人はどこまでも楽しげにそんな話続けていたのである。



 キルデアは緑の髪した美しい女性――どうやらそれは人魚族らしい――を前にすると、知らず笑みを浮かべていた。


「シルヴィ、どうだった?」

「うん。やっぱりキルデアは上手いわ。感動した」

「ふふ。あなたにそんなこと言われると、さすがに照れるわ」


 むろん対する相手にも同様の朗らかな表情、現わさせて。


「一座で一緒に頑張った仲だから」


 そう、その娘はどうやら昔同じ芸人一座で働いていた同僚だったらしく。しかもかなり仲の良かったような。


「昔の仲間たちも、今日の舞台観たら絶対驚くと思う」


 何よりそんな感慨深げな一言、零していたのを見れば。


「でも良かった。一座を辞めてからはずっと一人で活動していたみたいで、心配していたのよ」

「うん。自分の腕を試してみたくなってね。みんなの元を離れても、通用するかって」

「そしてこのグループに巡りあったわけね。本当ついているわ、キルデア」

「はは、そうかもね」


 そして互いに昔と今、それぞれの深い想い去来させながら話に花を咲かせていく二人。それはまさにかつて同じ時を過ごした仲間だからこそ醸し出せる空気感であり。

 文字通り、力を合わせて苦楽を共にしてきた。


「それで、あの小さい人が、今のあなたの演出家なわけ?」

「ああ、レトよ。グラスランナーの」


 それゆえだろう、ふいに緑の髪のシルヴィは俺の方すっと振り向くと、


「後でお礼に行かないと。キルデアをこんなに成長させてくれてありがとうって」


 柔和な笑み零し、加えて万感の思いまでこめ、そんなことのたまっていたのだった。


(! おっと……)


 ――その美しさゆえにか、途端俺をして、少々慌てさせながら。



「姉ちゃん、本当超カッコよかったよ!」

「え、そう?」

「うん。特にめちゃくちゃ踊りが凄かった!」


 また、テントの別の場所ではまだ大分年若い姉弟の、何とも微笑ましいやり取りが見かけられ――。


「ああ、でも俺もあんな風に踊れたらなあ」

「カレル……」

(あれがリップルの前言っていた弟か)


 むろんやや離れた位置で繰り広げられたその水入らずの光景は、俺をして知らず胸の中じんわりとさせるには、まこと充分なものなのだった。


「よし、今度僕がちゃんとダンスの基礎教えてやるから!」

「本当?!」

「もちろん、絶対に!」


 すなわちそれくらい、二人の会話には実に心温まるものがありありとあったのだから。


「やったあ、約束だよ!」


 ――そう、中でも弟カレルが途端上げた喜びの余りはしゃいだ声、この耳にしてしまったとすれば、特に。つまりはそう感じさせたくらい、まだあどけなさ残る弟は猫耳で姉そっくりの顔立ちと可愛らしく、いたいけな風覚えさせたのだから。しかもその身体はやけにほっそりしていて、顔色も青白い。それゆえ病気がちというのは紛れもない事実なのだろう。


「あ、カレル、そんな大声出すと……」


 そして何より、そんな彼見守るリップルの様子が実に甲斐甲斐しくて。かけがえのない存在をどこまでも愛おしく、大事に思っているように。


「大丈夫だよ、これくらい」

「でも、何かあったら大変だから」

「もう、急にそうやって過保護になるんだから!」


 もっとも本人はそうした姉の態度に、多少反抗的な姿見せたものの。

 まあ、いずれにせよワーキャットの姉弟二人を包む空気はあくまで愛情に満ちたものに違いなく、


「まあいいや、とにかく早く家に帰ってご飯食べよう!」


 はたして次には、リップルのそんないかにもリラックスした声が、辺りに元気に響き渡っていたのだった。



「ホーリー、綺麗じゃないか!」

「ええ、とっても素敵!」


 ――一方、テントのまた別の場所では。


「お前にこんな凄い才能があったなんて!」


 鮮やかな黄色い衣装纏ったホーリーを囲んで、二人の人物が実に楽しそうに声を上げていた。


「はは、これなら王都へ言っても間違いなく通用するぞ!」


 そう、それはドワーフ族らしくその両者揃って小柄な、特に髭の長い男性の方に至っては筋肉質でかなりずんぐりした体形が特徴的である、間違いなくホーリーの両親で。


「まさか鍛冶屋の娘がこんなべっぴんさんになるとはな!」


 わけても父親の喜びようたるや、まさに大袈裟にも程があるくらいだったのである。


「お父さん。もうお酒飲んできたの?」

「何前祝いだ、ほんの少しな」

「何さ、そう言いながらガブガブ飲んできたくせに」


 同時に隣に立つ赤髪の奥さんのぼやき、わざと聴かないふりしながら。


「それで、優勝はもう決まったのか?」

「まだ。これから発表だって」

「そうか。まあこれくらいできれば、もう結果なんてどうでもいいんだがな。本当良い出来だったから」


 ……何より、先程の娘の艶姿に限りのない満足感、間違いなく得ていたと思われる以上。


「でも、ごめんね。ここの所家の手伝い全然できなくて」

「何言っているんだ、そんなこと気にするな」

「そうさ。全ては今日のためだったと思えば。本当演出家さんたちに感謝だね」


 むろんそれゆえ愛娘がふと申し訳なさそうな顔となっても、二人はまるで構うことがなく。


「それにしてもそのグラスランナーの方、凄い才能の持ち主なんだねえ」


 挙句の果てには演出家たる風来坊のこと、そう手放しで誉めそやす始末だったのだから……。


(おっと、やば。ありゃこっちに来るぞ……)


 そしてそのいかにもすぐこちらへ向かって笑顔で突進してきそうな気配は、途端俺をしてむず痒いような気恥ずかしいような感覚、覚えさせてしまったため、


(――ここはちょっと、退散するか)


 たちまちにして俺はここから一旦出ること、密かに決定していたのだった。

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