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65.晴れ舞台(1)

「関係者、だって?」


 かくてようやく牢屋から解放されるなり、警吏事務所外で待っていたメイルと合流、今はまだプロキオンライブ前だと知ると急ぎ俺はその会場向けて全速力で駆け出し、


「はい。プロキオンの」


 今や、早くも観客用入口前に辿り着いてはいたものの。


「しかしなあ……」

「え、駄目なんですか?」

「いや、既に席の方は客でいっぱいで、とてもこれ以上入る余裕はないんだよ」


 ――しかし案に相違してそこに立っていた守衛は、いかにも気の毒そうにそんなこと告げてきたのだった。


「でも、そこを何とか」

「だから、人数的にもう無理で――」

「レトはプロキオンの演出家なのよ!」


 むろん、だからといってまさかここでのこのこと引き下がるわけにはとてもいかない。よって俺のみならず、隣にいたメイルまでもがここぞとすぐ援護射撃に入ってくれたのは当然のことなのだった。


「レトがいないと、あの子たち――」


 しかも必然というか、その声音にはっきりと悲痛なもの、籠もらせて。


「だから立ち見でも構わないから」

「だが、安全上それは……」

「お願い、お礼は何でもするから!」


 そう、そうしてふと気づけば、いつの間にか彼女の方がより必死に食い下がっていた態で。


「もちろん、絶対に迷惑はかけません」


 ゆえに俺も直後慌てて交渉に参加している。


「いや、駄目なものは駄目なんだ。諦めてくれ」

「そんな……」

「これは精霊祭の絶対的規則なんだから」


 とはいえいかにも生真面目そうなその守衛が、首を縦に振ることはついになかった。要はそれこそが彼のもっとも大事な仕事ということなのだろう、そこには否定し難いプライドまでもがありありと感じられ。

 俺たちの力なんかでは、とても変更させることできないくらいの。


(くそ、折角ここまで来たっていうのに……)


 それゆえその最後の関門ともいえる余りに堅くぶ厚い壁に、たちまち俺はただならぬ焦り、はっきりと覚えざるを得ず。


「どうしよう、レト」


 もちろん同時にふと気丈なメイルが零したその不安げな呟き、しかと耳にしながら……。



「どうしたんだい、一体?」


 ――と、そうして状況がまさににっちもさっちもいかなくなった、そんな時だった。


「え?」


 ふいに俺たちの背後から聞こえた女性の声。それは馴染のあるというか、確かに聞き覚えがあった声音で。


「この声は――」


 途端、俺もメイルもそちらの方、慌てて振り返っている。すなわちそれくらい実にタイミングよく、その一言は掛けられたのだから。


「あ、やっぱり」


 そう、そしてそこ、会場入口へと至る通路に一人立っていたのはまさしく既知の人物に違いなく、


「何だ、またあんたたちかい」

「オレガさん」

「つくづく変な所で会うんだね」


 ……はたして次にはあの気の強い老婆、オレガはこちらの方大きな眼で見つめて、どこか呆れたように零していたのである。


「いえ、ちょっとここに用があったので」

「プロキオンの公演かい?」

「はい。あ、でも入れないみたいですけど」


 さらにこちらの方、少々詮索するようにして。

 むろん、では確かに久しぶりだからといって、今は再会をただ喜んでいる場合のはずもない。何より俺にはやらなくてはならないことが、厳然とあった以上。


「お久しぶりです。ただすいませんが、今は急いでいるので……」


 それゆえ俺は挨拶もそこそこ、とりあえずそんなオレガに適当に断り入れ、再び手強い守衛の方、勇んで振り向こうとしたのだが。


「――おや? でもその様子だと見たいんだろ、あの子たちの公演」


 しかし彼女の口からふいに発せられたその意外な一言が、たちまちにしてハッとさせた。


「……え? ま、まあもちろんそうですけど……」

「なら、あたしが協力してやるよ。何せあんたが育て上げたグループだからね、こんな晴れ舞台見逃しちゃいけない。だからさあ、早く入りな」

「あ、えっと、でも席がないらしくて」


 しかもさらにそんな大胆なことまで告げてくる。よって俺がむしろそれに意表を突かれてしまったのは当然のことだった。


「だからそう言われても……」


 当たり前というか、もちろんその声音にも惑いの色、はっきりと濃くして。


「あら、そうなのかい? ただ丁度今なら、あたしと秘書、二人分の席が空いているはずさ」

「へ? そうなんですか」

「ああ、ちょっと用事があって二人して出ていたからね」


 ――だが老婆は構わずそのまま、どこまでもあっけらかんと先を続けてきて。


「だからそこのお兄さん、これだったらこの人たち入れてやれるだろ?」


 そしてその顔がふいに俺の後ろ、守衛の方へと向けられる。それは妙に手慣れたというか勝手知ったる、どこかそう思わせる堂々とした素振りだった。

 そう、まるで日頃から、この男とは充分面識があるような。


「ああ、オレガ様。芸術家ギルドのマスターであるあなたがそう仰るなら、構いません!」


 何より、そう言われた当の相手が途端直立不動姿勢のまま、声を大きくして真摯に応じてきたのを見れば。それもほっといたらご丁寧に最敬礼でもしかねない勢いで。


「え、マスター? この人が?」


 むろん、それ耳にしたメイルは分かりやすくも呆気に取られた面持ち、たちまち示していたものの。


「まあそんなことはどうでもいいから」

「でも、マスターって、もの凄く実力ある最高の芸術家じゃないと……」

「プロキオンの舞台が始まっちまうよ! 早く!」

「あ、そうだ!」


 しかしオレガは声を大きくしてそんなメイル及び俺の驚き一瞬でかき消してしまうと、


「今日しか絶対こんな機会はないんだ。見逃したら一生後悔するよ!」


 次にはそう、瞳の色と表情途端きりりとさせ、勇ましく発破掛けてきたのである。


「ありがとうございます! メイル、もう行かなきゃ!」

「あ、うん!」

「そう、それに、あの子たちだって必ず待っているはずさ!」


 そして何よりも、その溢れんばかりの温かい思い、微塵も俺たちへ隠すことなく。

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