間章 ⑧
精霊祭関係者用テントの中、コーヒー口にしつつディックはさっきからずっと至極ご満悦というやつだった。
「アマランスの舞台でした!」
かように夜も大分深まって来た中央広場のそのまた真ん中に置かれた巨大特設ステージにおいて、まさについ先ほどアマランスの公演が客席満員の中無事終了したのだ。自ら手塩にかけて育てた、そして何より自らの野望を実現する上でも必ず最強最大の手札となる、エリートグループの晴れ舞台が。
「やっぱり凄いな」
「圧倒的ね」
「うん。こりゃ最高だ!」
むろんその最中観衆たちが溜息混じりに感嘆の声、しきりに放っていたのは説明するまでもなく。
(ふむ。目論見通り、今のところアマランスが圧倒的勝利だな)
特にこの精霊祭の舞台で最高評価得られれば、念願の王都で開催される芸術祭に招待までされるのだから。ゆえに青銅の盾の店主の気分が今や完全に有頂天極めていたのも、決して無理な話のはずはない。
(しかも祭はもう終盤、アマランスを脅かすものなど)
そして彼の心中の呟き通り、精霊祭はもうすでに終盤も終盤、すなわち残っている演目は僅か後一つに過ぎず……。
(何せ最後に演じるのはプロキオンだからな。今は演出家の消えた)
そう、それはあのグラスランナーの創り上げた、五人の少女たちのグループ。いつしか裏町での公演を通して、市内の人気爆発的に得ていった。それゆえ一時はアマランスの高い牙城を崩すかとさえ危惧されたものの。
(それゆえ本当の実力、今日は決して発揮できまい。残念なことに)
しかし今はその力、完全には顕わすことできないはずだ。そう、何と言ってもグループの要たるあの演出家が不在であるがゆえに。すなわちあいつは目論見通りいまだ警吏たちの嫌疑解くことできず、寂しい牢獄の中一人悶々としているだけのはずで。
だからといってどうする術もなく。
そうしてそうなれば所詮プロキオンなど素人が少し腕を上げただけの小娘の集団、かような緊急事態いざ迎えてしまったら、たちまちにして一気にボロを出すのは至極必然のこと――。
(ふふ、全ては計画通りに進んでいるぞ。もはや障害など何一つあるまい)
そのためだろう、ディックは椅子にふんぞり返った姿勢のまま再びコーヒーの苦み味わい、満足気に大きく一つ息を吐くと、
「よし、ではどうせ最後の最後だ。プロキオンとやらの公演、この目でしかと見てやろう!」
次にはいかにも余裕に満ちた表情で、そんな一言誰にともなく放っていたのだった。
「ハアッ、ハアッ……」
――だがむろんまさに丁度その時、中央広場目指し一つの小さな影が必死になって人で沸き返った街路駆け抜けていたことなど、まるで予想することもできずに。




