間章 ⑦
そうこうして、レトが警吏に捕らえられてから早くも一週間が経ち。
メールジェアンの街は一年を通して最大のイベント、待ちに待った精霊祭の日を迎えていた。
すなわちこの日は街を守る風の精霊シルフを、大いに市民皆で祝福する悦ばしき時。よって街中は早くも色とりどりの花々で飾られ、昼日中から人出に関しても実に驚くべきものがあり。
「ふう、始まったか」
いち早く中央広場にある会場の準備テントの一つに入ったユリアーデも、その喧騒に早まる心臓の動悸、とても抑えられなかったのである。
「……ついに来ちゃったね、この時が」
「うん。マジでヤバいよ、緊張感が」
「全然眠れなかった……」
むろんその隣で喋り合う、プロキオンメンバーの声、耳にしながら。
「でも、やっぱりレトさんは来られないのかな?」
「そうだね、まだ牢屋にいるみたいだし」
「……」
そう、はたしてそんな彼女たちにとって、目下最大の話題は他でもないやはり自分たちのプロデューサーのことであり。
「そうか、まだ駄目なのか」
――当然の如くエルフ少女もそれ聞くと、たまらず会話へ入って行ったのであった。
「でも、絶対濡れ衣だよ、あんなの」
「リップルの言う通り! 意味分かんない、レトさんが盗賊団の一員だなんて。だから私もお父さんに頼んで何とかならないか掛け合ってもらおうとしたんだけど」
「アリーシャのお父さん、商人で街の事情に詳しいものね」
「うん。市参事会の人にも知り合いが多いから」
そうして五人の話は束の間まさしくそのレト一色となり。
「メイルさんも最近はレトさんのことで忙しいみたいだな」
むろんユリアーデとしても何よりこれまで自分たちを甲斐甲斐しく世話してくれていた二人の不在に、隠しようのない不安覚えざるを得ない。すなわち、いよいよ迫って来た本番を前にして、ふいにただならぬ不穏な空気が襲いかかってきたのもまた不動の事実で。
「大丈夫かな……」
特にホーリーに至っては、明らかに弱気へ陥ったそんな声、一人ポツリと零している。
「ちょっとホーリー、しっかりしてよ。もうすぐ公演なんだから」
「あ、うん」
「大丈夫。これまでやって来たことを、ちゃんと繰り返せばいいだけなんだから。二人や先生たちから教えられてきた」
もっともそれへはすぐに、キルデアの厳しめの突っこみが入ることとなったものの。
「――そ、そうだね、私も頑張らなきゃ」
途端ドワーフ少女に真摯な顔、示させたくらい。つまりはそれほど、事態は緊迫感いや増していた以上。
「レトさんたちが安心できるように」
そう、いずれにせよ結局いまだ件のグラスランナー、自分たちをここまで来させてくれたかけがえのない恩人は姿現しそうになく。すなわち、気の毒にもまだ牢屋から解放されることは適っていないらしく。
「そうか、とにかく俺たちだけでもやらないと」
「うん。それが必ず恩返しになるから」
「レトさんも、必ず戻って来るよ!」
……だがそれでもその余りに大き過ぎる喪失感、不安感を埋めるために、プロキオンは一層自らの強い結束、高めていかなければならず、
「だからみんな、気合入れて行こう!」
「うん!」
「ああ!」
何よりまさしく今眼前には、これまでに経験したことのないほど巨大なステージが、堂々たる姿で自分たちが来るのをじっと待ち構えていたのであり――。




