間章 ⑥
ディック・オーウェンは背もたれの高い椅子に座り机に向き合ったまま、眉間に皺を寄せしばし何かをずっと考えこんでいた。
薄暗い部屋だ。すなわちまだ日中だというのに、窓には厚いカーテンが敷かれている。またもう片方の壁には背の高い本棚が立ち、中にはズラリと高価そうな蔵書、そして床を美しい模様の絨毯が彩った、そう、ここはこの男にとっての書斎……。
(さて、どうしたものか)
そうしてそんな暗がりの中苦いコーヒーを時おり口に含みつつ思索続ける彼の表情は、まさに策士のそれというべきだった。つまりは自分の成功のためには、いかなる手段であっても決して躊躇しない、という。
(プロキオン……厄介だな)
何より、今まさしく自らの前に、予想だにしていなかった強敵が現れるという緊急事態を迎えていたからには。要はそれくらい、部下が偵察に行ってきたプロキオンの公演は実に活気ある状況だったらしく。
(このままでは、あいつら本当にアマランスに)
しかも聞くところによれば、プロキオンの演出家レトは六月の精霊祭への出演すら企んでいると考えられる。あのメールジェアン中の市民が訪れ、当然最も耳目を集める、市を代表する大祭への。そして当然ながら、我がアマランスにとっても必然的に目指すべき最高の舞台となる――。
「これは捨て置けんぞ……」
それゆえいつしかディックの口からは、そんなはっきりと懸念に満ちた何とも重々しい呟きまで零れ。
特に彼にとって気になって仕方ないのは、やはりあのグラスランナー。むろん最初は単なる放浪者上がりのろくに能力もない、取るに足らない存在と高をくくっていたものの、いつからか、何のきっかけかそのプロデュース力の高さは確かなものとなり、今やどうにもその動向を追わざるを得ない、間違いなくそんな重要人物とまで化していたのだから。
(あいつを何とかしないと)
――そしてそのためだろう、ディックは刹那その瞳の鋭い輝きをさらにいや増させると、コーヒーの入ったカップを卓上にコツリと置き、何よりあくまでその表情を覆う険しい色いささかも崩すことなく、
「やはり、あの手で行くか……」
次にはそんなどこまでも警戒感で漲った一言、自分以外誰もいない室内で一人洩らしていたのだった。
「そうだ、この方法なら」
そうして決心したように、大きく、深く一つ頷きながら。




