61.上昇気流
こうして精霊祭までの約一ヶ月間、裏町の広場におけるプロキオンライブは定例のものとなった。
時間としては半刻、大体五、六曲をやる計算だ。つまりはその中には勇ましいものもあれば哀しげなもの、愉しげなものもあり、まさしくバラエティに富んだ構成となっている。そう、荘厳さ、重厚さを不動のメインとするあのアマランスに対抗するには、こちらはまずそこにないもので勝負するしかなく。
「あ、プロキオンだ!」
「行こう、公演やっているよ!」
何よりいつでも気楽に、軽い感じでライブへ入って来られるような。
「さあさあ皆さん、公演の時間の始まりですよ!」
――それゆえ大人も子供も実にウキウキと揃って広場にやって来たのを見れば、俺の感情も知らず昂っていくというもの。
特に最初の日から一週間もすると、そんな経験者たちの様々な口コミ等があったためか客の数も目に見えて大分増え始めてきたのだから。すなわち、段々と広場が手狭に感じられてきたくらいに。
特に皆が皆、おしなべて愉しげな空気きらきらと纏い。
「へえ、人がこんなに集まるなんて」
それは見学に来た修道士たちも思わず驚き示していたほど。
そして俺的にもこれなら充分一つのアーティストとしてやっていけると、紛れもない自信持てたのは事実であり、
(もうすぐだ、もうすぐアイドルとしてこの娘たちは……)
心中密かに、そんな確信めいたものさえ次第に抱き始めていたのだった。
しかもさらに加えて、ライブ開始からしばらく経って立て続けに起こった幾つかの出来事は、俺たちにとって実に良い兆しとしか思えず……。
◇
「レト、聞いて!」
――まず第一、それは初めての再開ライブから10日目、朝まだ広場へ行く前の、白羊亭でのことだった。
「え、何?」
「凄く良い知らせがあるの!」
そうやって朝食に取り掛かっていた俺へ突然駆け寄ってきたのはもちろんメイルで、しかもその面にはいかにもパッとした明るさまで見受けられる。
「良い、知らせ……?」
それゆえそれ受けた俺がすかさず問い発していたのはさも当然のこと。なによりもその面には当惑の色が浮かんでいたはずなのだった。
「驚かないでよ、衣装を用意してくれる人が現れたの!」
「衣装、それってプロキオンのかい?」
「もちろんよ。詳しく話すと、広場での公演見た人の中にどうやらかなりのお金持ちがいたみたいで」
「へえ、じゃあその人が?」
だがそれでも少女の慌ただしい話しぶり聞くうちに、次第にその喜びの理由がこっちにも理解されてくる。つまりはライブ見たその富豪とやらが、どうやらプロキオンにとってある種スポンサーになってくれると言ってきたらしく。
「それはありがたい」
当然、俺としては普通に嬉しいとしか言いようがない。
「うん。その人どうも公演見て、衣装だけが物足りなく感じたみたいで。……そうよね、あれちょっと前にうちで踊り子のお姉さんたちが着ていたもののお下がりだから」
「確かに色々な意味で問題はあるな。では、お金を出してくれるんだね、その人」
「そうよ。それに腕のいい仕立て屋も紹介してくれるから、そこで衣装用立ててみては、なんて提案もしてくれて」
「本当助かった……」
そう、ようやくスキルも上がり人気も出てきたプロキオンだが、どうにも前からファッション面だけに関しては自信持てていなかったので。
「だから今度の休みの日、みんなを連れてそこへ行こう!」
「ああ、こうなったら早くやらないと」
「絶対、精霊祭までに間に合うように!」
――それゆえだろう、特に明らかにやる気漲り出したメイルは気合のこもった声音、酒場の中で上げると、
「後、衣装に関しては私にもアイディアがあるの」
次には自信の証しか、きっと俺の瞳、正面から見つめてきたのだった。
◇
第二の出来事はそれから間もなく訪れることとなった。
「あ、ベイルさん!」
すなわちその日の午後、ひょっこり白羊亭へあの酒場『車輪亭』の亭主が訪れたのだ。
「やあ、レト君。ご無沙汰していたね」
しかも今まで一度も見たことない、実に上機嫌な雰囲気纏わせて。
それゆえそれ見た俺は俺であの失敗の日以来ということもあり、知らず怪訝な思い、内心抱いてしまったものの。
「元気かね」
「はあ、何とか」
「うむ。それで今日来た訳は、他でもないプロキオンのことに関して色々聞きたいからなんだが……」
だが少し話聞いてみれば何のことはない、その目的はまさしくプロキオン一択としか思われず。
「最近よく耳にするよ。今凄い人気なんだってね?」
「え、ええ。公演にも人は集まっていますね」
「やはり君の手腕は凄いな、私がその実力を見込んだだけのことはある」
まあ、とりあえず話題はそんな当たり障りのないことから始まったものの。
「しかも無料とは、思い切ったことをするもんだ」
「今は人気と知名度を上げるのが先ですから」
「なるほど、そういうことか。よく考えている。……それで、ものは相談なんだが」
……しかし結局のところは、分かりやすくも手の平返しに自分たちもその人気に是非あやかりたい、それが来訪の真の理由だったはずで。
「……何でしょう?」
「他の酒場でも、彼女たちの公演をやってくれんかね?」
確かにベイルはかなり腰を低くしながら、次にはそんなことふと頼んできたのだった。
「ああ、そのことですか」
「うん。何とか車輪亭のステージでも……」
「もちろんそれはOKですが、ただ」
「ただ?」
そしてそれはまさにズバリ予想通りの展開というやつだったが、しかしだからといって即座にここで了解するわけにはいかない。すなわち今のプロキオンにとってまず目指すべき場所、目的は六月の精霊祭以外にあり得ない、プロデューサーたる俺が固くそう考えていた上は。
「後少しだけ待ってください。その後だったら、いくらでも力を貸します」
だから俺は一瞬間を置いた後、そう慎重に断り入れると、
「?」
「その前に、彼女たちには絶対にやらなければならないことがあるので」
最後に一つ、声音静かにそんな言葉述べていたのである。
「だからそれまでは」
「やらなければ、ならない……?」
「ええ、これは何としてでも」
――その刹那対するベイルに、呆気に取られたような表情、示させつつ。
◇
そして何より俺、いやプロキオンメンバーにとって実に嬉しかったのは。
「あ、あれエドラ先生とユージン先生じゃない?!」
「本当だ!」
「来てくれたんだ!」
二週間以上過ぎた頃のライブ中、グループのレッスンを請け負ってくれていた両教師が広場へ姿現したことだった。そう、彼女たちは公演終わるや観衆の中から満足げに、しかもエドラでさえ満面の笑み浮かべこちらへ駆け寄って来てくれたのだから。
「みんな、なかなかやるじゃない!」
「ええ、それもこんなお客さんの前で」
加えて両者ともにそんな紛れもない賞賛の声、隠すこともなく発させて。
「ありがとうございます。これもお二人のレッスンのおかげです!」
むろん対する俺がすかさず心から感謝の言葉返していたのは、言うまでもない。つまりはそれくらい、この二人への恩義には実に大きなものしかなく。
プロキオンが成長という名の階段を駆け上がっていく中。
――ちなみに現在歌とダンスのレッスンは週一、広場でのライブが五日間終わった後にやることとなっている。もちろんメンバーにとっては余り休む暇のない、かなりなハードスケジュールとなってしまったが、しかし件の精霊祭が段々近づいていることを考え、みんなは文句も言わず従ってくれたのである。
「どうです、前よりも上達したでしょう?」
何よりそのパフォーマンスが日に日に目に見えて上がっているというかけがえのない実感、俺も含め皆例外なくはっきりと覚えていた上は。
「そうだね、見違えるくらいだよ。特に最初の頃に比べたら」
「はは、みんなすぐ音を上げていた時ですね?」
「そうさ、特にユリアーデに至っては……」
「って、その時の話はもういいよ!」
そして今やその二人の教師との間には、固い絆のようなものすら生まれていて、
「ユージン先生も、本当にありがとうございます」
「あ、私なんか……」
「いえ、先生がいなかったら、多分ここまで来られませんでした!」
すなわちその気持ち代表したか、キルデアはユージンに向かってそんな真摯な言葉、正面から放ってさえいたのだった。
……いずれにせよ、こうしてとにもかくにもプロキオンが一挙に上昇気流へと乗り出したのは紛れもない事実。そう、後はこの状態をとにかく維持したまま、六月の精霊祭へつなげていくというまっすぐな道があるだけで。
(スキル、衣装、人気――そして度胸。これでついに全部揃ったぞ!)
そうしてプロデューサーたる俺の内心では、和気あいあいと止まることなく語り合う教師と生徒たちの微笑ましい画を見ながら、はっきりとまさにそんな明るい思いが浮かんでいた――。




