60.ライブ再び
「何が始まるんだ?」
「さあ、歌と踊りって言っているけど」
――そうしていずれにせよ、一時間ほどの昼休憩は本当にあっという間に過ぎて行き。
「皆さん、今日はご来場いただき本当にありがとうございます!」
お馴染み緑のドレス纏ったプロキオンはついにかなり久方ぶりとなる、しかも初めての野外の舞台に立っていた。
「もちろんお代は頂きません。時間にして半刻ほどですが、どうぞ終わりまでお付き合い下さい!」
もちろんそんな緊張した空気の中まず司会進行を務めたのは俺。円形の広場のど真ん中、2、30人はいるかと思われる観衆を前にしてのことだ。そう、事前にやってくれた宣伝効果もあり、イグナシオ会の仕事が終わった後もここに残ってくれた人々の数は、大体それくらいで。
「また、これから週に五日、ここでこの時間公演を行うのでよろしくお願いしますっ」
それゆえおのずと俺の表情も、知らず力が入った色になっているというもの。
すなわちそれくらい、今日のこの機会にかける意気込みは余りにも大きく。
「とにかく自信作です! 皆さまも準備はよろしいでしょうか!」
かくてその声音耳にすれば、隠しようのない興奮がはっきりと籠っており。
『あ、マズい、緊張してきた』(リップル)
『マジであの日以来だからな』(ユリアーデ)
『それにしても、意外と人多いわね』(キルデア)
『うん。想像以上』(アリーシャ)
『大丈夫、かな?』(ホーリー)
ちなみにさっきまでテントの中に待機していたメンバーは、そこから外の様子チラ見するなりかなりビビった様相示していた。やはり人前で演技すること自体がまだ通算僅か二回目、いまだとても慣れたなどとは言えないのだろう。何より、その言葉にあったように予想以上の人だかりを実際目の当たりにしてしまったのだから。つまりはそれくらい、今日この日の舞台はまた重要なものでもあり。
(でも、これくらいでビビッていては、とても精霊祭なんて無理だからな)
そう、何より観衆という必然的存在に充分慣れる上で、ここは実に最適な場であった以上。
『みんな、もうすぐだぞ。そんな縮こまるな!』
従ってそんな五人の様見た時俺が無責任ともいえる掛け声即座に掛けていたのも、状況鑑みればさも当然のことでしかなく――。
「さあ、それではいよいよプロキオンの登場です!」
はたしてついには、広場のどこまでへも届けんと今やその声、天高く張り上げていたのだった。
「はい!」
「行きます!」
むろん、それに即応じるメンバーの実に勇ましい返事、しかと背後でその耳にしながら。
◇
草原を越え
砂漠を越え
湖水を越え
一人眩い鎌その手に
道なき道ひたすら行くは
月の明かりに照らされし
孤高の狩人……
ピオトと弟子のゴディがヴァイオリン奏でるや、途端それは何とも哀切極まる、しかし同時に勇ましくもある一つのメロディとなり。
「おお、始まったぞ!」
そして続けてリデルのフルートとベンのチェンバロの音がそれに美しく重なっていき、
「それでは一曲目、『月下の狩人』です!」
そうしてついに、プロキオンは新たな段階へ進むべく、その最初のスタートを切ったのだった。
(よし、いい出だしだ!)
もちろん俺はすぐさま広場の端っこ、メイルがいた所にはけ、その活躍の様子じっと見守っている。それはテント側、すなわち観客たちとはちょうど正反対になる位置だ。つまりはプロキオンの勇姿、また再び駆けつけてくれた親切なピオト一門の姿も、背中側からしか見られない。それゆえちょっとだけ残念に思うところはあったのだが。
「うん、凄い凄い。ダンスは揃っているし、スピードもある!」
しかし隣で少女のそんな感嘆の声聞けば、その感情も途端無きものとなっていく。
「確かに上達しているな……」
何より、そのエドラ考案の難度高い、キレも必要な振り付けをこなすスキルが明らかに前より上がっているの、しかと確認できたがゆえに。
狩人は月の遥か下
銀の毛皮纏い山駆ける天狼追い
はてしなくもその道引き返すことせず……
しかも一方感情揺さぶる曲に乗って流れる詞、ボーガンが作ってくれた逸品は文学的というか、実に耳を打つほどの代物で。
「ほお、こんな歌、聞いたことないぞ」
「でも、何か素敵な歌……」
――たちまちにしてそれ聞いた聴衆の中より、そんな感嘆の声ちらほら零させていたのである。
すなわち傍から窺う限り、ダンス、歌ともにここに来て初めて見事な調和、ついに見せ始めているとしか言いようがなく。
「よし、これならお客さんたちも――」
俺が一人知らずぼうっと呟き洩らしていたのも、至極当然のこと……。
「凄いよレト、『月下の狩人』はもう完璧だね!」
「ああ、これで残り四曲も上手くいけば」
「――では続いて、『恋の夢』!」
「あ、次だ!」
そう、ゆえにピオト老人が元気な声で次なる曲のタイトル言い放つや、
「今度はどうだ?!」
俺とメイルは揃ってテントの前から手に汗握り事の成り行き、ハラハラと見守るのだった。
「おお、次か!」
「いいぞ、もっと見せてくれ!」
かくて次第次第にボルテージの上がって来た観客たちが、拍手ともどもいかにも楽しんでいる声、上げていた中――。




