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57.仕上がり

 そして、数日後のこと――。

 ついにボーガンの詞が完成した。


「ほらよ、ボスからだ。受け取りな」


 その日の午前、つまり約束通りボーガンとの交渉からちょうど一週間後、手下のオークが苦心の結果とあの記録人形を持ってきたのだ。


「ありがとうございます!」

「後、これはボスからの言伝だ。『苦労の末10曲分作った。だからくれぐれも無駄にしないように』と」

「あ、ああ……それはもちろん」


 むろん手下は丁重な扱いで、だが俺を見つめる瞳はあくまで厳しく、その何枚かの紙に纏められた歌詞を渡してくる。お前に対しては決して心を許していない、それはそんな心象がありありと分かる態度だった。


「……まったく、何でボスもこんな妙な仕事を」


 そう、特に帰り際発した、その捨て台詞のようなものを耳にすれば。



 だが、いずれにせよこれで待望の歌詞がようやく準備できたのは間違いない。

 それも案に相違してというか、実に順調に。


(よし、これで!)


 それゆえ俺がすぐさま紙の束携え自室へ突入したのはさも当然のこと。すなわちそれはとにかく早く、その新曲に当てられた詞を確認するために他ならず。


(さあ、ボーガンの実力はどうか)


 はたして高鳴る胸の鼓動とともに、机前にした俺は一枚目からその内容、集中力高め確かめていき。

 むろんあの強面が、一体どんな歌詞を曲につけてくれたのか、そんな隠しがたい興味もあり――。

 やたら几帳面な黒い文字で行儀よく書き綴られた、その紙面。その様はボーガンの暴力的イメージからは少々、いやかなりかけ離れたものだったが。とにかくそんなことにはまるで構うことなく。それよりも大事なその中身が、たちまち頭の中へと入ってきて。

 もちろん最初は期待と同様、多少の不安感もあったものの。



 「え、マジか」


 ――だが、そうして静かな部屋の中しばし経ち、全ての歌詞を読み終えた、その瞬間。


「凄い……」


 俺は簡単にすばやく一読しただけで、そのあまりの素晴らしい出来栄えに知らず驚愕の声、洩らさざるを得なかったのである。


                  ◇


「え、そんなに?」

「ああ、かなりいい出来だ。読んでみてよ!」

「うん」


 当然ながら歌詞を確認した途端その凄さを誰かに伝えたくなった俺は、すぐさま部屋を飛び出し食堂にいるメイルの元へ急ぎ駆けつけていた。もちろんその手には件の紙束が掴まれており、要はそれを早く読んで同意してほしかったのである。


「メイルも驚くはずだから!」


 つまりはそれくらい、ボーガンの詞は実に見事に曲と、何よりプロキオンのイメージにぴったり合っていたのだから。


「ちゃんと女の子のグループってこと、考えてくれたみたいだし」

「あのボーガンが……」

「人は見かけによらない、ってやつの典型だね、まさに」


 そう、しかもどうやらボーガンはちゃんとこれが少女たちのグループ用の曲に付けられるということ、考慮してくれたらしく。

 そこには優しさや柔らかさのようなものも確かにあり。


「だからこれでもう、新曲は完成だ!」


 俺はたちまち、歓喜で満ちた大声、上げていたのだ。



「よかった、これで一歩前進だね」

「一歩どころか、何歩もだよ!」


 こうして俺は一人、もはや食堂で俄然有頂天ともいえる様相、示していたのだが……。


「でも、レト」


 と、しかしふいにそこで意外にもメイルが声を落とした。


「え?」


 それはまさに俺の喜びに水を差す、というやつだった。むろん対する俺が思わずきょとんとした顔示したのは言うまでもない。


「どうしたんだ?」

「その、聞きたいことがあるんだけど」

「聞きたいこと?」


 何より、メイルがその面、どこか不安そうにしたのを見れば。


「えっと、何を」


 それゆえ俺は俺で、やや慎重に訊ね返していたものの。


「前にあなたがプロキオンへ言ったことについてよ。つまり、白羊亭以外の場所でお客さんを集めるっていう」

「ああ、それか」

「……本当に、何か上手い作戦はあるの?」


 ――しかし、少女の問いの内容悟ると、途端腑に落ちたものがあったのだった。


「それに関してなら、心配ないよ」


 もちろん、ゆえに次なる言葉にも明らかにホッとしたものが入っている。要は、それに対しての答えはまさにたった一つだったのだ。


「準備は着々と進んでいるから」

「そうなの? でも、この前みたいに他の酒場の協力は――」

「はは、もちろんその手は使わない、というか使えない。とにかく他の、かなり良さそうな手段を考えたんだ」


 すなわち、いずれメイルにもこのことしっかり話さなければ、と思っていたくらい。

 それはまさにナイスアイディアというか、金が無いなりに何とか編み出した方策でもあり。

 ここメールジェアンの最近の事情、調べているうちにやっと辿り着いた。


「他の、手段……?」

「ああ、聞いて驚くなよ」


 そのため俺はふと明らかにその声音、さも愉しげなものとすると、


「それは、実は――」


 ――いまだ不安の色濃い面浮かべるメイルへ向かって、自信たっぷりにある計画のこと、ただし気持ちこっそりとのたまっていったのである。

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