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56.精霊祭に向けて

 こうしてついに曲が決まり、後はボーガンの詞を待つだけになった。


「一週間、時間をくれ」


 すなわちあの意外と芸術家肌なオークは俺が白羊亭で詩集売ること受け入れると、即座に作詞の作業に取り掛かること約束したのだ。


「……しかし10曲もあるのか」


 とはいえ記録人形にある曲数が10もあると知ると、さすがに嫌そうな顔隠せなかったものの。

 まあ、いずれにしてもこれでプロキオン再デビューに向けての準備が着々と進んでいったのは紛れもない事実。それゆえ俺は一仕事終え裏町から白羊亭へと帰る道すがら、珍しく鼻歌でも歌いたい気分に浸りながら、


(さあ、後はメンバーにあのこと話さないと)


 心中密かにそんなことまで、考えていたのだった。


                  ◇


 ちなみに白羊亭での日々のレッスンは、ここのところ実に順調に進んでいた。


「何だい、最初からこんなに素直にしてくれれば、苦労しなかったのに」


 すなわちエドラがいみじくも語ったように、突如としてプロキオンのメンバーは全員、つまりはあのユリアーデをも含めて真面目そのものとなっていたのだ。


「凄い皆さん、上達が早いです!」


 しかもこちらはユージンが言ったことだが、その態度ゆえ彼女たちの実力は日々めきめき上昇までしていって。


「へへ、まあこんなもんだろ、俺たちの実力なら」

「まったく、ユリアーデはすぐ調子に乗るんだから」

「――って、いちいちうるさいな!」


 むろんそのためか、その一部の何人かに増長する気持ちが見受けられなかったわけではないものの。



「ホーリーも、前とはまるで見違えるようだね」


 そして何よりも、前は思いきり劣等生の烙印押されていたドワーフ少女。だが彼女は特に毎日の熱心極まる猛練習の甲斐あって、いつしか両教師も目を見張るほどの成長見せており。


「あ、ありがとうございます!」

「その調子なら、今度のステージは全然心配ないはずだよ」

「え、本当ですか?」


 すなわちあの厳格なエドラをして素直に賞賛の言葉掛けさせるくらい、その上達には素晴らしいものがあったのだった。


「でも、私まだまだです!」


 もっとも、肝心の本人にはその自覚、あまりなかったとはいえ。



 そう、いずれにしてもあくまで身内のプロデューサー目線ながら、プロキオン全体の実力は今や明らかに相当高いレベル。もちろんこれなら今すぐまたステージに立ってもおかしくないと思われたほどで。

 前回のような失敗する可能性もほぼ見当たらず。


「よし、みんな。食事中だけど、一回俺の話に耳を傾けてくれ!」


 そうして俺はそんなレッスンをしていたある日、昼食の最中に、ついにその時は来たとふいに立ち上がり大きな声を皆へ掛けていたのである。


                  ◇


「精霊祭に出るだって?!」

「マジかよ!」

「そんな、あんな大きい……」


 ――だが、はたして俺のそんな言葉聞いた途端、それまで和やかだった食堂は一瞬にして驚きの坩堝と化していた。


「い、いくらなんでも早過ぎないですか?」


 すなわち、俺が突如提案したのは六月に行われるメールジェアン最大の祭にプロキオンとして出る、要はそこで公演をするというプランなのだが、やはりそれは余りに衝撃的過ぎたらしいのだ。


「それも、夜の部に出るなんて」


 しかもプロキオンを出演させようとしているのは、紛れもなく祭最大の目玉、幾つもの美しい、そして選ばれた出し物が見られる晩課(午後六時)以降の夜の部に他ならない。それゆえ彼女たちの反応に悲鳴めいたものがはっきり含まれていたのも、確かに状況考えればさも当然としか言わざるを得なかったのである。


「何、大丈夫だ。とにかく今のみんなの実力なら」


 むろん対する俺は、あくまで自信ありげな表情、崩すことがなかったものの。


「……でも、精霊祭の夜の部って、そんな簡単に出られるものなんですか?」

「資格か? 確かに普通は滅多に許可されるものじゃないようだな」

「ですよね。特に人気があって、実力もないと。そう、たとえば」


 しかしそれでも、当然ながら少女たちに深く納得した様子は微塵もなかった。中でもアリーシャなどは実に不安げな面持ちで、


「――アマランスみたいに」


 ついにはそんな一言、零していたのである。


 

「はは、そうだな。確かにあれくらいの名高いグループじゃない限り、夜の部を飾ることは絶対にできない」


 そしてそれは、まさにこの話題をする上での完全な焦点というやつなのだった。


「つまりはアリーシャが言うように実力、人気ともに抜きん出ているような」

「だったら……」

「何だ、だとしたら無理、とでも言いたいのか? プロキオンには」


 はたして何より、俺がその不安がる気持ち、十二分に予想していた以上。特にアマランスという、俺個人が勝手にライヴァル視しているグループが厳然と上にあった限り。


「そうよ、いくら何でもあの人たちみたいには」

「キルデアまでそんなことを。せっかく実力が付いてきたっていうのに」

「だからって、さすがにあのレベルにはまだ達しているはずないわ」


 それゆえ少女たちは、気の強いキルデアまで含めて途端気圧された感、示してしまう。さしもの舞台馴れしたセイレーンでさえも、アマランスを前にしては相当怖気づくがものある、ということのようだ。

 そう、かくて俺が放った提案は、みんなの弱気のもとあえなく消し去られるかとすら思われたのだが――。


「――だとしたら自信をつけるために、お客さんの前で公演を重ねればいい。ただし、白羊亭以外の場所で」

「え?」

「白羊亭以外?」


 しかし刹那、俺はまるで構うことなくそんな実に大それた言葉、胸を張って発すると、


「ああ、そしてその準備はもうできているんだから!」


 最後には、ただポカンとした反応返すばかりのメンバー前にしてどこまでも強気に、そして自慢げにそうのたまっていたのだった。

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