52.活気再び
――そして、早くもその次の日。
話にあった通り、再度また前のように両教師によるダンスおよび歌のレッスンは、白羊亭を舞台としてついに始まったわけだが。
「ほら、そこ、何している! 動きをさぼるな!」
「はい、すいません!」
「ホーリー、あんた特に遅いよ!」
「ごめんなさい!」
「ユリアーデ、あんたはあんたでちゃんと動けるんだから、そこで怠けるな!」
「分かったよ、今度は真面目にやるから!」
まずは午前中、いきなりエドラの方のレッスンに、劇的と言っても過言ではない変化があったのだった。
「次、白鳥のステップ!」
すなわち、以前と異なりエドラがいくら無理難題(と思われる指示)出してきても、誰一人としてそれに抗議する者などいなくなったのだ。
「よし、やるぞ!」
特にあの不平たらたらだったユリアーデに至っては、気づけば自分から率先してそんな教師の指示、どんどん仰ぎにいくようになっていて。
「凄い、めっちゃ真面目……」
「何よ、やればできるじゃない」
それ見たキルデアたちから、かえって呆れたような声、零れさせていたほどだったのだから。
「そう、ユリアーデ、その動き!」
「ありがとうございます!」
もちろん集中力限りなく増したエルフ少女には今やそんな外野の声、微塵も届くはずがなかったものの。
「ふふ、みんな凄い。ていうか前よりももっと頑張っているんじゃない?」
そしてむろん、その様傍から見ていたメイルは、知らず感嘆の声洩らしている。常に少女たちのこと気に掛け、世話もするなど裏方マネージャー役に徹していてくれた彼女だ、当然その変化には敏感に気づくものがあったのだろう。特にその表情が実に嬉しげだった以上。
「ああ、そしてもちろん、これからが本番だ」
「きっと相当レベルアップするわ、この感じなら。次の公演が楽しみね!」
「みんなのチームワークも高まってきたからな」
何より対する俺の言葉に、即座に期待感満々の声音、返してきたのを聞けば。
「これなら本当に、人気も出るはず!」
その声、分かりやすくも実に勢いよく。
そうしていずれにせよ大分久しぶりにも関わらず、以前とは段違いに意志の上手く通じ合ったダンスレッスンはほとんど休みなく行われ続け、
「よし、いいよ、その調子! みんな中々やるじゃないか!」
――そんな中、午前中はエドラのどこまでもやる気に満ちた掛け声が、店内を所狭しと爽やかに埋めていったのである。
◇
そうして恐らく初めてぶっ続けで行なわれたダンスレッスンの後、昼食を挟み次いで始まったのは、言うまでもなく歌のレッスンだった。
「皆さん、またお願いします」
もちろんその教師を務めてくれるのは、バンシーのユージン。エドラ同様、かなり久方ぶりの登場である。
「では、始めさせていただきます」
それゆえ、俺は出だし少なからずまたトラブルが起きないか、つまりは自信なさげなユージンの態度に不満が出ないか、心配げに見てはいたのだが……。
「はい、お願いします!」
「! キルデアさん……」
「また先生から教えて頂けることになって、とても嬉しいですっ」
しかし案に相違してまずキルデアが率先して実にやる気漲り応じたため、たちまちそれは杞憂に過ぎなかったと気づくことできたのだった。そう、以前はあれほどユージンにキツく当たっていたセイレーンも、今は実に尊敬で満ちた眼差し、相手へ向けていて。
(やっぱりボーガンの所で見せた、あのキーニングが)
すなわちあの時のバンシーの大活躍が、よほど彼女に深い感動与えたらしく――。
「ユージン先生って、やっぱり凄い方なんですね」
その声音にも、隠しようのない畏敬がありありと籠められていたのだから。
「ふふ、そんなことありませんよ」
むろんバンシーは笑みとともに分かりやすく、そして恥ずかしげに謙遜の様見せたのだが。
「いえ、そんなご謙遜なさらなくても。実際凄いんですから」
「とにかく、レッスンを始めましょう」
キルデアはキルデアで、一歩も譲らなかったとはいえ。
かくていずれにせよいつしか二人の絆が大いに深まったように見えていた中、自信取り戻したらしいユージンはいつにも増して声を大きくすると、
表情もパッと明るくして、
「さあ、みんなも。準備してくださいね!」
「はい!」
「よし、やろう!」
「うん!」
――たちまちにして、それに同期するように酒場にはあり得ないくらいの賑やかな活気がつと訪れていたのだった。
◇
酒場の端っこの方からその光景見て、俺は間違いなく心にホッとするもの覚えていた。
(よし、これでようやく軌道に乗って来たぞ)
そう、はたしてエドラのみならず、ユージンまでもがついにその教え手としての才覚、ここに来て本格的に発揮しようとしていたのだから。
「さあ、ここは背筋をまっすぐ伸ばして、口も大きく開けて!」
「はい!」
「みんな、いい調子よ!」
すなわちこれまでになくその声も大きく、自信一杯と。むろん俺のみならず、他の人たちをしてもおのずと感嘆させたのは疑問のないくらいに。
「へえ、ユージン先生って、あんなに教えるの上手だったんだ」
……とりわけ隣では、メイルがポツリとそんな驚きの呟きも零しており、
「うん。やっぱりまた頼んで良かった」
「本当、人は見かけだけじゃ判断できない――」
「はは、でもこうなるまで、ちょっと時間がかかったけどね」
それ耳にした俺は当然いかにももっともと、すかさず実に大きく頷き返していたのである。
つまりはこうして、エドラとユージン、二人の教師は完全にプロキオンメンバーに心から受け入れられたわけで。
(よし、こうなったらいよいよこっちも動き出すか)
――かくて同時に、俺が自らの内から今すぐ溢れ出そうとするやる気という名の巨大なエネルギー、しかと感じ取ったのも当然のことなのだった。
(そしてまずは、あそこに行かないと)
何より、これからプロキオンのためにやるべき必須のこと、まさに今頭の中へ綺羅星の如く幾つも思い浮かんでいたのであるから……。
それはまさしく、もはやとどめようもないほどの凄いワクワク感で彩られたもので。
逸る気持ちとはまさにこのことを指すのかというくらい。
意気揚々と。
そして俺は元気漲るレッスンの様子じっと眺めつつ、いよいよおのれの意を固めると、
(そう、これからケヴィンに連絡して、明日にでも――)
練りに練ったあの計画の第一歩へと踏み出すべく、密かにそんなこと、飛び交う歌声の中ずっと思っていたのだった。




