間章 ④
その少女に初めて出会ったのは、もう春も終わり夏が本格的にやって来ようかとする、六月も半ばのある日の朝のことだった。
「一、二、三、四、一、二、三、四……」
すなわち、12歳くらいまでの子の通う、エルフの少年少女専門、つまりはエリート候補専用ダンス教室において。……もちろん、11歳迎えたばかりのユリアーデもそこで学びいつの日か、王都の音楽学院へ行くことを夢見ていた。
そう、だがはたしてユリアーデはその時その場所でその見知らぬ少女と邂逅することによって、以後の人生をガラリと変えられることともなったのだから――。
「みんな、この子はネフェルタリよ。今日から仲良くしてあげてね」
もっとも、最初そうして教師に手を引かれて現れた少女を見た時の印象は大して強いものではなく、むしろあっさりとした感に過ぎないというのが事実だった。
(ふうん、新しい子か。でも変な格好だな――)
つまりは特に着ている服がやたら見すぼらしく思えた以外は、容姿など取り立てて目立つ何かを持った娘とは感じられなくて。
「おい、あれ<霧の谷>から来たエルフじゃないか?」
「あ、本当。でも確か凄く貧しい地域よね、あそこ」
もちろんそんな中、級友たちが零す軽蔑めいたひそひそ話の類は嫌でも耳へと入って来たのだが。
そして確かに、件のネフェルタリには一見しただけで明らかにここで学ぶエルフとは違う何かが、隠しようもなくあり。それは暗さというべきか、棘とでもいうべきか。いずれにしても、一種なかなか近寄りがたい……。
「霧の谷か。あそこでは、独特の踊りが伝わっているそうね」
するとそんな新入生を見つめながら、隣にいた銀髪で同い年の友人、ゼノビアが語りかけてくる。むろんその言葉に宿るのは相変わらず冷たい、そして鋭い響きだ。何より、どんな相手にも一切、その態度が変わることのない。
「へえ、そうなんだ。私は名前しか聞いたこと、ないんだけど」
それゆえ当然ながらその声音はユリアーデをしてつられるようにすぐ、興味を焦眉の新人へと向かわせていたのだった。
「まあ、でも一緒に仲良くやれればいいんじゃない?」
「どうかしら? ちょっと近づきにくいけど」
「大丈夫、話してみれば、すぐ打ち解けてくるよ」
もっとも彼女だけは、そんな相手に今はさほど嫌な感じ、受けていなかったようなのだが。
「そうだ、先生の所を離れたら、私たちも自己紹介しに行こう!」
いや、王立学院に一番近いと言われ教師の覚えもめでたい一番の優等生らしく、むしろ積極的にこちらの方から距離を縮めようとすかさず思い立ったくらいで。
何の躊躇もなく。
つまりは、ともに王都の劇場で華麗に舞うダンサー目指す、同志として。
「……大丈夫かしら」
「気にし過ぎだよ、ゼノビア」
そしてユリアーデは、次には早くもいまだ疑惑顔の友の手を引いて、その少女の元へと溌剌と近づいて行きさえしたのである。
「同じエルフなんだから」
ついでにそんな実に楽天的な一言、明るく添えながら。
――10名ほどいる他の容姿優れた生徒たちが、何とも言えない妙な視線、あからさまに送っていた中。




