47.ボーガン(1)
目の前に聳える、黒々した色の、分厚そうな壁。そしてその真ん中に設けられた、実に頑丈そうな構えの巨大な門。もちろんその門は、どこまでも固く、外敵阻むため閉ざされていて。
「ここが……」
「うん」
「凄く、大きい――」
――すなわちそのいかにも威圧的な壁の向こうにある建物こそが、件の裏町が顔役、ボーガンの住処に違いないのだった。
二階建てで、ずっしりとした、どこまでも圧迫感感じさせる大きな屋敷が。
「――それで、どうするの?」
とはいえむろん、ただここに辿り着いただけでは何も話が進むはずはない。それゆえメイルなどは、俺の方へ思いきり不安な表情で尋ねてきたのだが。
「どうするって、そりゃ正面から行くしか」
「! やっぱりそうか」
「別に喧嘩をしに来たわけじゃないんだ。目的はちゃんとした話し合いなんだから」
対して俺はあくまで冷静を装ってそう答えている。
(まあ、相手が聴く耳を持っていれば、の話だけど)
……もっとも心の中では密かに、そんな懐疑的な呟き、零しながら。
そう、それまでは実にやる気に満ちていた俺も、この屋敷の外観一目見るや途端怖気づくものがあり。
(まずはボーガンに会えるか、だな……)
今さらながらそんな初歩的な疑問も、知らず覚えていたのだから。
「でも、どうやって中に入ろうか――」
むろんメイルのいかにも戸惑った声音、耳にしつつも。
「なあ。ボーガンって、どんな奴なんだ?」
「え?」
「そうね、まずは敵のことをちゃんと知っておかないと」
と、その時門を前に立ち竦む俺とメイルの背後で、ユリアーデとキルデアが問うている声が聞こえてきた。どうやらそれは、裏町に詳しいリップルに訊ねているようだった。
「どんな奴、か。まあ僕ももちろん会ったことはないけど」
「何も知らないのか?」
「――いや、でも色々と噂は流れているよ」
そうしてしばし考えこんだ後、応じるワーキャットの少女。確かに今や、この面子の中ではまごうかたなき唯一の裏町及びボーガンに関する重要情報源である。従って問い発した二人だけでなく、すぐさま俺たち他の四人もそれにしっかり耳をそばだてていたのは言うまでもなかった。
「噂?」
「うん。とにかくメールジェアン一のワルで、めちゃくちゃ狂暴な男だっていう」
「……」
――とはいえそうあっさり、何のオブラードにも包まず正面から答えられると、さすがに身の竦む感があったのだが。
「やっぱりそうか。うん、予想通りだな……」
すなわち強気で喧嘩っ早いはずのユリアーデでさえも、それ聞いた途端一瞬たじろぎ見せたように。
「……でも何か弱みとかないの? 彼に関して」
「弱み……」
「そう、取引の材料になるような」
一方そんな中でもいまだ冷静さ保っていたのはキルデアの方だった。はたして再び問うた声には、むしろ隣のユリアーデよりも余程肝の据わった響きが含まれていたのだから。
「うーん、あまりそういうのは聞いたことないけど……あ、でも一つ!」
「! 何かあるの?」
「まあ、これは別に弱みってわけじゃないとは思うけど」
そしてそう言われたリップルは瞬間またもや思案げな顔となるも、しかしすぐ何かを思い出したとみえ、パッとその目を輝かせ答えてきたのだった。
「ボーガンって、趣味は詩を作ることらしいんだ。それも結構大真面目に」
「詩だって?」
その何とも妙な情報にまず反応示したのは俺だった。
「何か意外だな、まさかゴロツキたちのボスがそんなこと――」
「でも、それがなかなかの腕前なんだって。何せ詩集もすでに何冊か出しているくらいだから」
「マジかよ! 意味分かんねえ……」
するとリップルが追加情報告げてくるも、それは当然と言うべきか、むしろ特にユリアーデをしてつと怪訝な表情示させる。そう、それほどまでにそのリップルのもたらしたボーガンのイメージは予想外にして奇妙極まるものだったのだ。
「でも、ちょっと読んでみたいかも」
逆にアリーシャなどには、かえって妙な好奇心芽生えさせてしまったくらいに。
「ま、まあそれはともかく、そろそろ中へ――」
いずれにしても頼みのリップルがそれ以上の有益な情報持っている気配はなく、こっちとしては結局ほとんど空振りに終わったと落胆するしか今は術がない。
「入るの?」
「ああ、ここまで来たら」
そえゆえ仕方なしと虚しくも門の方へといざ手を掛けた、つまりは開くかどうかまず確かめようとした、
「招待されたわけじゃないけど」
――しかし、まさにその刹那だった。
「おい、人の家に無断で入りこむつもりか?」
「こりゃ見逃せねえな」
突如として間違いなく聞き覚えのあるドスの効いた声が、リップルたちの背後、盗っ人小路の方から幾つも聞こえてきたのである。




