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45.最大の事件(1)

 こうして結局めぼしい収穫は何も得られないまま、仕方なしとギルドホールから一人寂しく白羊亭へ戻った――その時だった。


「あ、レト。やっと帰って来た!」


 酒場の木扉を開けるや否や、突然メイルが俺の方へ急ぎ駆けつけてきたのだ。


「早く入って!」


 しかもかなり強引に、俺の腕引っ張りこむようにしながら。


「え、どうしたの?」

「とにかく大変なことが!」

「だから、それは何――」


 むろんとはいえそんなこと言われても、こちらとしては余りにいきなりで訳が分からない。よって俺はただ腕を引かれるまま店の中へと半ば力尽くで入れられたのだが。


「お、レト!」

「レト!」


 途端そんな居候を出迎えたのはもちろんスコットとジェシカ。おまけにその二人が揃いも揃って、まさしく真の顔面蒼白というやつだったのである。


「えっと、一体……」


 従ってそれ見た俺がたちまち嫌な予感覚えてしまったのは、状況からしてむろん当然のことだったとしか言わざるを得ない。いや、その雰囲気が実に非常事態っぽかったこともあって、むしろ眼前の三人よりも今は明らかにこっちの方が不安げな顔していたはずであり。


「ホーリーが、さらわれちゃったの!」


 ……そしてそれゆえに、だろう、次の瞬間メイルが張り裂けんような悲痛極まる声でそうとんでもないこと言ってくると、俺は一瞬凄まじいショックに襲われるも、何とか自制心だけは保つことできたのだった。


「え、ホーリーが?」


 つまりは、すかさず少女へ冷静に問い返すこともでき。


「か、母さんとホーリーが二人で店にいた時、あいつらが来て……」

「あいつら? 誰だ、そりゃ」

「えっと、だから、裏町にいるあいつら――」

「とにかく落ち着いて、そしてゆっくり、順にしっかり話してくれ」


 とはいえ、どこまでも慌てふためいたメイルから事の詳細聞きだすのは、かなり難儀な技だったものの。要はそれくらい、ここで起きた出来事は実に衝撃的なものだったらしく。


「ええっと、そうよね、ここは落ち着いて……。つまり、母さんとホーリーは午前中、白羊亭で留守番していたんだけど」


 だが、それでもメイルは俺の態度にようやくしっかり話そうと思ったようで、そうして段々こちら側にも事情というやつがしかと掴め始めたのは紛れもない事実だったのである。

 すなわち、メイル及びジェシカが代わる代わる説明してくれた所によれば……。



 それは三時課(午前九時)の鐘が鳴ってから、大体三分の一刻(一時間)くらいが過ぎた頃のこと。

 その時白羊亭にいたのは、メイルが言った通りジェシカと、そしてホーリーだけだった。ちなみにホーリーはデビュー公演後初めてその日店に訪れたのであり、それは単に仲間の様子を見に来たというだけのことらしかった。すなわちまず他の少女たちが来ているか確かめるためだったが、あいにくその日はまだ誰一人として店に姿を見せていない。ユリアーデはもちろんだったが、たまに顔を見せに来ていた他の三人も同様だったのだ。それゆえ当然他にやることもなく、ドワーフ少女はしばしもう帰ろうかどうしようか逡巡するも、


『まあ、ホーリーちゃん、ゆっくりしていってね』


 その時たまたま家族も俺も不在のため暇を持て余していたジェシカがその様見て、話し相手になってくれないかと頼んだのである。しかもホーリーはジェシカにとって五人の中では大のお気に入り、この機会を逃そうとするはずもない。


『あ……はい』


 よって少女も結局は少しだけということで、しばし白羊亭に留まることとなったのだが――。


「ああ、あの時あたしが無理に引き止めなければ……」


 しかし女将さん自身がそう後悔に満ちた言葉吐いたように、結果それが仇となって、ホーリーはその後思いもよらぬ災厄に襲われることとなったのだった。



「ボーガンの手下たちがやってきた……」

「そう、もう我慢が出来ない、今日中に金を返せって」


 それはそうして二人が色々お喋りに興じていた、その時だった。


『おっと、お取込み中悪いな』

『邪魔するぜ』


 実に無粋で野太い声の持ち主たちが、突如としてぞろぞろ店の扉を潜って来たのだ。


「そいつらがホーリーを連れて行った。でも、期限はまだのはずだろ?」


 むろんそれ聞いた俺は思わず疑問の声挟まずを得ない。そう、確かにその期限は迫っていたが、しかし何も今すぐというわけではない。つまりはまだ多少余裕があるからこそ、俺はプロキオン公演に賭けることできたわけで――。


「あいつら、間違いなくこの前の公演のこと耳にしたのよ。それでとうとう実力行使に」

「! そうか、もう返せる当てがなくなったと思ったから、まさに力づくで」

「そう。それでホーリーを返してほしければ、借金してでも今すぐ金を用意しろって……」


 だが、次の瞬間メイルが言った一言が、俺をしてようやく事の真相理解させたのだった。

 すなわちあのオークたち、どうせ返せないなら早く行動に移そうとでも思ったらしく。


「でも、だからってあの子を……」


 むろんそれゆえ直接は関係ない少女が誘拐同然連れて行かれたのはいかにも釈然とせず、今さらながら怒りがふつふつと沸いてくる。言うまでもなくホーリーには何の落ち度もないのだ。


「ごめんね、あたしが付いていながら……」

「あ、いえ。ジェシカさん一人なら、どうしようもありませんよ。これは仕方ない……ただ、これからあの子を助けに行かないと」

「! やっぱり裏町へ行くのか? でも、金はすぐ用意するわけには」


 そうして居てもたってもいられず、俺がそう闘志剝き出しにすると、しかしすかさず水を差してきたのはスコットだった。それも分かりやすく、目を白黒させて。そしてその言葉はメイルとジェシカにも途端暗澹たる表情示させたのだが。


「ええ、それは充分理解しています。あいつら、それを承知でやってきたはずだから。……でも大丈夫です、こっちとしても、すぐ金を返す必要はありません」

「え、そうなのか?」

「あくまで契約は契約です。本来期限は七月のはずだし。だから今こそ、腹を据えてしっかり交渉しないと、そのボーガンって奴と」


 対する俺は安心させるように彼らへ頷き返すと、


「でも、だとすると裏町に詳しい人が必要だな。――そうか、あの子がいた!」


 次にはパッと閃くものもあり、途端その声を大きくしていたのである。


                  ◇


「何だって、ホーリーが?!」


 そしてそれから僅か十数分後、白羊亭にはけたたましい驚き声が響き渡っていた。


「ボーガンの奴め、ひどい真似するなあ!」

「だから頼むリップル、ボーガンの屋敷まで案内してくれ」

「え? もちろん、いくらでもするよ!」


 もちろんそれは言うまでもなく猫耳少女・リップルのもの。そう、先程の会話の後、すぐさまボーガンの元へ案内してもらうべく鴉を使って裏町に住む彼女を呼んだのである。


「本当ひどいことするわね、信じられない!」

「……まさに悪党ね。やり方が汚いわ」


 しかも加えてそこには、アリーシャとキルデアの姿もあり。


「君たちも来てくれたのか」


 それゆえリップルに呼ばれて来たらしいそんな二人見て、俺が物問うたのは当然のことなのだった。


「当たり前じゃないですか、仲間を助けるのは!」

「特にさらわれたのがホーリーとなるとね」


 むろん対して両者は、すぐさま口を揃え頷き返したのだが。


「とにかく早く、あの子の元へ行かないと!」


 特に仲間思う気持ち強いアリーシャは、今すぐにでも裏町へ駆けつけたい感じで。その表情に焦慮にも似た色、現わしながら。


「ありがとう。だが、行くのはあのハモンド地区だ。当然危険だぞ?」


 もっとも、俺としてはさすがに年頃の少女たちを危険な目に遭わせたくはなかったものの。


「大丈夫、覚悟はできています!」

「ええ、私たちなら――」


 だが、リップル含め二人が聴く耳持たなかったのは言うまでもない。つまりははたしてそれくらい、事態が切迫していたということでもあったのだから。


「――よし、分かった」


 従って次には、俺は半ば仕方なしと彼女たちの同行認めていた。まあ、どうせ止めても無駄だと思ったのだ。いや、そんなことしたら絶対に勝手に動くはずで、それだったらむしろ一緒にいた方が何割方か良い、と。


「じゃあ、確かに時間がない。みんなで行こう!」


 そうしてついに時は来たと俺は酒場に揃った面々しかと見渡すや、何より先頭に立つ気満々でそう声を上げ――。



「ちょっと待てよ!」


 ――だが、その刹那だった。


「え?」

「あれ、この声は?」


 突如として、開け放たれたままの扉の外からいかにも威勢の良い声が聞こえてきたのだった。


「俺を置いていくなよ!」


 しかもそれは実に聞き馴染のある、だが同時にかなり久しぶりに聴くこととなった声音でもあり。


「あ、ユリアーデ!」


 そう、そこにいたのは、まさしく輝かんばかりの金髪に、鋭いまでの青い瞳したエルフ少女に違いない。しかも今は、紛れもなく全身から闘志剝き出しにした。


「ホーリーを助けに行くんだろ?」


 すなわち、俺でも一瞬その威圧感にたじろぐもの覚えたほどの。


「ユリアーデ、君も、か……」

「当ったり前だ、こんな非常事態に家でなんか寝ていられるかよ! 絶対俺も連れて行けよ!」

「それは、もちろんだが……」


 むろんその気迫は俺をしてやや声を小さくさせるも、しかし仲間に加わってくれるならとにかくこれ以上ありがたいことはない。よって次には大きく頷き返している。


「じゃあ一緒に行こう。彼女がいるのは、ボーガンの屋敷だ」

「ボーガン! 裏町のボスか! ……ふん、こりゃ腕が鳴るぜ」

「よし、ならこれで――」

「あ、待ってください……」


 と、いずれにせよそうして準備は整い、いよいよホーリー救出作戦がこのメンバー総出状態で始まるかと思われた、その時。

 ――案に相違してと言うべきか、驚くべきことに、参加者はまだそれで決して終わりではなかったのである。


 すなわち、その次の刹那。


「!」

「え?」

「私も、一緒に連れてって……」


 突如として、エルフの背後より実にか細い、しかし同時にかなり強い意志の感じられる声音が、店の中へと聞こえてきたのだから――。

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