43.宴の後
「すいませんでした!」
かくて最終的には大失敗に終わった公演の後、時刻としては大分夜も深まりつつあった頃、食堂にはほとんど土下座しかねない勢いでスコットたちに謝る俺の姿があった。
むろんあれほど大勢いた客たちは全員立ち去った後だ。場はまた元通りの、あの閑散とした姿を取り戻している。すなわち後に残されたのはおなじみファレル一家の三人と俺、そしてプロキオン五人のメンバーだけ、という状態。
はたしてそんなガランとして微妙な空気の中、今はただ俺の必死な声だけが目立って響いていて。
「全ては俺の責任です! 今回みたいなケースは、十分予想できたはずなのに……」
「まあ、ここはそもそも酒を提供する場所だ。色々な客がいるよ」
「はい、だからそういう時のため、ちゃんと前もって対策を取っておけば」
従ってその声音にはますます悲壮感めいたものがこめられていったのだが、しかし対するスコットはなぜか対照的にさほど沈んだ風見せることがない。いや、むしろそれは達観しているとでもいうべき様相で、それ見たこっちがかえって不安になったほどだったのだ。つまりはもう、今回のことに関する全てを完全に諦め尽くしてしまったかのようであり。
「だから、次は必ず。いえ、次があったらですが……」
――それゆえ当然、続けての言葉はどこか消え入りそうな、思いきり自信なさげなものとなっている。もちろん本日のあの惨憺たる結果を鑑みれば、それも致し方のないことでしかなかったとはいえ。
「まあ、そのことは今日はもういい。君も疲れているだろう? まずはゆっくり休め」
しかし、そのためだろう。それ耳にしたスコットは、かえって俺の方を慰めるような微かな笑み、その面に静かに零したのだった。
「とにかくご苦労さん。なかなか良いものが見られたよ」
「いえ、そんな……」
「娘さんたちも、本当によくやってくれた」
しかも、それは俺の背後、プロキオンの方にも向けられていて。
春の陽射しのような温かさを、決して失うことなく。
「!」
「あ、でも……」
「私たち……」
……もっとも、その視線受けた当の少女たちは、完全に申し訳なさそうな様子でさっきからずっと縮こまっていたものの。
「すいません、大事な所で足を引っ張っちゃって……」
特に公演失敗の先駆けになったともいえるミス冒したアリーシャと、そしてとりわけホーリーはもうまともにスコットの顔見られないような状態である。はたしてその瞳にも、今にも泣き出しそうな(実際ホーリーに至ってはつい先刻までずっと涙流していたのだが)色がありありと浮かんでいたのを見れば。そう、二人の少女は、後悔というか絶望というか、とにかくそうした途轍もない負の感情で今すぐ押し潰されてしまいそうで。
「はは、気にするな。君たちは若いんだ、失敗なんて幾らでもできる。とにかくこれを糧に、次につなげればいいんじゃないか?」
そのため結局何も言えず立ち尽くすばかりだった俺に代わって年の功のあるスコットが実に穏やかに慰めの言葉掛けてやっても、彼女たちがすぐ上手く反応返すことできなかったのはあまりに当然のこと。
「ふふ、まあとりあえずようやく終わったんだから、何か軽く食べるものでも用意するよ。もちろんみんな、よく動いたからお腹は空いているだろ?」
「そ、そうね。みんなで労をねぎらって……」
よってそんなしんみりとした空気何とかしようと、ジェシカとメイルもようやくにして亭主に合わせ、やや無理矢理ながら明るい声出していたのだった。
「……ごめん。でも、やっぱり一番悪いのは俺だ。だから責任は取るよ」
「え?」
「ユリアーデ……」
――だが、そうしたファレル家側による実に涙ぐましい努力も、結果その甲斐なく次の瞬間ユリアーデが切実な声出したことによって、哀れまたもや落ちこむことと相成ったのだが。
◇
そして結局、その夜はジェシカの言った軽い食事も取ることなく、プロキオンはそのまま解散することとなった。
「みんな、ごめん!」
「あ!」
「ユリアーデ、待って!」
まず、ユリアーデが再び謝りの言葉告げると、次の瞬間あっという間に白羊亭から駆け去っていったのだ。何よりまったく背後、かけがえのない仲間たち一回も振り返ることなく。
「もう、あの子ったら……」
後には、呆然とするばかりの面子が残され。
そうしてそうなってしまうと、心配そうにその扉の方見つめているメイルの思いよそに、当然他のメンバーも立つ瀬がない状況なのはまるで同じで――。
「――私も、帰ります。お疲れさまでした」
まずキルデアが間もなくしてどこかピリピリした感じでそう告げ、
「……僕も」
「あ、私も……」
はたしてリップル、アリーシャもすぐさま続いていたのだから。
いずれにせよ、そこにはとにかくひたすら疲労した感だけが漂い……。
かくてそうすると、最後に残るはやはりホーリーだけ、ということとなる。
「……帰り、ます。親が心配していると思うので」
だがそんな彼女も、クスンと鼻を鳴らしながら、やがて何とも沈みきった表情でそうのたまってきて。
「本当、今日はごめんなさい……」
その最後に絞り出した一言に関しては、余りに悲痛だったものの。
「――あ、みんな、夜道はとにかく気を付けろよ」
それゆえプロデューサーたる俺としても、その様子窺えば無理に引き止めることなどとてもできず、すなわち最終的に四人へそう声を掛けるのが今は精一杯の行為で――。




