41.デビュー(4)
・三曲目 『ジョシュ・アルルカン』
それは巨人を倒した伝説の勇者ジョシュ・アルルカンの冒険を大いに讃えた歌。三曲の中ではもっとも勇壮で激しいイメージ持ち、もちろんかなりスピード感もある。何よりそれに合わせエドラの考案した振り自体が前世界で言うバレエのダンスにも似てかなり複雑かつ、特にすこぶる体力消費系で。
古き世において
無双を謳われし戦士
その名はジョシュ・アルルカン
彼の者は民の求めに応じ
ある日コルグラドの街訪れ――
「ハア、ハア……」
――だが。
そうして件の三曲目が満を持して始まった途端、舞台袖で即座に嫌な予感覚えた俺がいた。
(ホーリー、大分息が上がっているな)
すなわち、俺から見てステージの一番向こうにいるドワーフ少女が、見るからに相当バテ気味だったのだ。そう、汗の量も尋常でなく、さらには振りの遅れも顕著になってきたのを見れば。
コルグラドの領主レロン
遍歴の勇士見るや
たちまちにして
彼の足元へ平伏し――
しかも曲はまだ序盤も序盤。いやむしろこれから段々盛り上がりを見せるところである。それゆえ俺としてもここは何とか持ちこたえて欲しかったのだが。
客の期待も間違いなく、いやが上に盛り上がってきたことがあり。
何より、ホーリーの日頃の努力を知っていた以上。
「あっ」
しかし、そうして皆がダンスを綺麗に合わせようとした、それはその刹那のことだった。
丁度両腕を大きく上にかざしながらステップ踏む、かなりダイナミックな振りに入った、その時、
「わわっ」
ホーリーがふいに、はっきりと前へ思いきりつんのめってしまったのだ。
「あ!」
当然それは俺でも分かったくらい、実に完璧すぎるミスであり。
(がんばれ!)
知らず、心の中でそんな渾身の一言も零れていたほど。むろんだからといって急ぎ傍に駆け寄るわけにもいかず、ただただハラハラとするしかない心持ちの中。……他に何の上手い手立てもなく。
はたして対するホーリーはそんな儚い願い聞き届けたか、どうにかその場で粘ろうとしたようだったものの。
もちろん、他のメンバーが必死になって踊り歌っている最中。
「きゃあ!」
――が。
「おい、大丈夫か?」
「こけちゃった?!」
……結局その努力も余りに虚しく、次の瞬間とうとう完全にその身体はバランスを失い、哀れ前へ派手によろけることとなってしまったのだった。
「あ!」
しかも途端それはすぐ隣で踊っていたアリーシャをして気づかせるには充分過ぎたくらいで。
「!」
(アリーシャ!)
丁度これからかなり難しい振りに入るところだったこともあり、何とそのミスが彼女へすぐ動揺となって伝播してしまったのである。
すなわち、隣に気を取られた少女はたちまちにして同じように体勢を崩し――。
「あ、あ!」
ドワーフ少女と似たように慌ただしくステップ突然乱し始めたのだから。
今さら軌道修正などできようはずもなく。
途端五人の内右側の二人がおかしな動き示し始めて。
(まずい……)
当然ながらその様見て、俺は恐らく真っ青な顔現わしていたと思われるものの。
(どうすれば)
しかしもちろん相変わらず、できることと言えば離れた所からただハラハラと見つめるくらい……。
さて、ジョシュは自慢の剣技でもって
イルメスの谷はその名も影の城
すなわち巨人ボウルズの住まう堅城へと
一人勇んで忍びこみ――
そうしてそれでもなおキルデアのリードのもと仕方なしとばかりに歌が先へ進んでいった、むろん心臓へ確実に悪影響与えつつ、――しかし、その一刹那だった。
「おい、何だこりゃ。さっきからミスしてばっかりじゃねえか!」
アクシデントというか、突如として席の最前列より実に品のない男のだみ声が歌声に負けず大きく響き渡ったのだ。
(え?)
それはまさにステージの真正面、前席ど真ん中のテーブルで、そこに座していたのは六人のむくつけき男たち。すなわち罵声を浴びせたのはその中の一人、図体もデカく頬に傷跡の残る、年齢的には中年あたりの戦士風。しかも、ここからでもはっきりと分かるくらい、実に見事な赤ら顔した。つまりはまさしくたちの悪い、だが同時に酒場には付き物でもある酔っぱらいというやつに相違なく――。
(何だありゃ、こんな時に面倒だな)
むろん俺もその姿確認したちまち嫌な気持ちになったのだが。
「さっさとやめちまえ、この素人どもが!」
酒の勢いもあったのだろう、男はなおも続けて汚い野次を少女たちへ飛ばしまくってくる。
「おい、ガレス、やめとけって」
「うるせえ、俺たち金払ってわざわざ見に来てんだぞ!」
「そりゃそうだが……」
その姿見てさすがにテーブルの他の面子が止めようとしても、一切収まりそうもないほどに。要はそれくらい、一時的に沸き返るような怒りが彼の頭を支配していたようで。
さあ、これからいよいよ戦いが始まる
巨人と戦士、いずれ劣らぬ武勇持った
歴戦の戦巧者同士――
だがもちろんその間もプロキオンの歌は続いている。怒声もありさらに動きがおかしくなった右側の二人を、再び何とか持ち直させようとするためにも。
もっともそれゆえかえってステージと客席側、両者の間で途端、紛れもない緊張感が走り出す結果とも相成ってしまったのではあるが……。
「け、早くやめろやめろ、そしてすぐ金返せ!」
(く、俺が行かないと……)
しかも男がもはやなだめようもない程余りに激高し出したのを見ては、プロデューサーたる俺は仕方なしとついに舞台袖からいざ飛び出す決断下さざるを得なかったのである。そう、まさか客席の後ろの方で心配そうに見つめているメイルに任せるわけにもいかず、それ以外、もう何とかする手段は一つたりと残されていなかった以上。
「そして降りてきて謝罪しろ!」
そうして一瞬そんな男の迫力にビクッと気圧されつつも、演技中不作法ながら急ぎ身構えた、
「ふざけんな、てめえ!」
――しかし、まさしくどうにかしないと、ひたすらその一心で身体がステージから完全に飛び出しかかった、……その瞬間。
「さっきから聞いてりゃ、好き放題言いやがって!」
突如としてエルフ少女が、ステージから戦士風に微塵も劣っていないレベルの声音で、まさに真正面から言い返していたのだった。




