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34.根回し

 それはグループ名と初舞台日を発表した、明くる次の日のこと。


「皆さん、今日はよろしくお願いします!」


 だが俺は珍しくも、朝からその身を白羊亭の外に置いていた。しかもそこは今やホームとなった酒場と似たような構造持った、すなわちライヴァル店の一つ『車輪亭』。つまりは一階の食堂、机と椅子が幾つも並べられたスペースで。


「……あんたが、レトさんか」

「はい、お集まり頂きありがとうございます」

「いいってことよ、何せあんたはスコットの知り合いだからな」


 さらには果たして今まさにそのテーブルの一つに、六人の人物がそれぞれ固い表情して囲み座している最中なのであった。


「それで、いよいよあの話の結論を聞きたい、ということだな」


 そう、何よりその中の一人たる俺を、他の五人がじっと見つめている中。特に俺の真正面に座る人物、灰髪に髭、そして眼鏡を掛けた初老の男性に至ってはかなり鋭い眼差し注いでおり。


「そうです。つまり――」

「しかしあんたもえらく大胆なことを考えつくもんだ。五つの酒場の客を、全て白羊亭に回せ、とは」


 ……それゆえその男性の声が、視線同様斬りつけるような響き持っていたのも至極当然のことだったのである。


「も、もちろんそれは五月一日だけの話です。その日だけ、皆さんからお客さんをお借りしたいと……」

「そしてその日、あんたは自分の演出した歌踊団を人前で初披露する、なるほど」

「まあ、出来がよければそれなりに効果はありそうね」


 するとそこで初老の左隣に座っていた赤毛の女性が口を開いた。言うまでもなく彼女も俺の呼びかけに応じた、ここメールジェアンで酒場を営む店主の一人だった。


「それが何よりの宣伝になる。もちろんあくまで出来次第だけど」


 ただしその声音は、どこか皮肉げではあったが。


「それに関しては御心配なく。間違いなく、最高のパフォーマンスを見せるつもりですので」

「あのアマランスに匹敵するくらいの?」

「……はい」


 むろん俺の方としては、そうした問いがきてもとにかく肯定し続けるしかない。


「――自信はあるようだな」

「中身が伴っていれば良いが」

「しかし、アマランスが相手だぞ」


 すなわち何と言っても幾らそんな懐疑的な声が漏れ聞こえてきたところで、今さら引き下がるという選択肢はあり得なかったのだから。


「……まあいい、どうせ一日だけだ。事前に広告などで、客たちには白羊亭へ行くよう伝えておこう。要はその日、大きなイベントがあると」


 そしてそんな俺の熱意および前もってスコットに頼んで内容を伝達しておいたおかげだろう、目の前の五人の中ではリーダー格に当たるらしい初老、つまりここ車輪亭オーナー・ベイルは、一つ頷くや静かにそう応じていたのだった。


「だからそれなりに、人は集まるだろう」


 さらにそんな一言も、続けて付け加えて。


「ありがとうございます!」

「何、これは間違いなく、我々にも大きく関係してくることなんだ。つまり、あの青銅の盾に独り勝ちだけは絶対許さない、という」

「そう、何せお宅だけでなく、うちらも結構経営は厳しくなってきたからね。客をごっそり持っていかれて」

「ディックの奴、とにかく容赦ってものを知らないからな」


 しかもその言に合わせて他の店主たちも口を揃え青銅の盾への批判、一斉に述べ始めたのを見れば、特にディックに対する敵意は彼ら彼女らも相当抱いていたようである。つまりよほどそのやり方が反感買ってしまったというべきか、対抗する術一つもなく。


「だからそのためにも、青銅の盾の対抗軸になる勢力が是非必要だ。そうでないと、遅かれ早かれ我々は全てあの店に飲みこまれてしまう。実際傘下に入れという要請は各店にどんどん来始めているらしいからな」

「まさに調略ってやつね。国同士の外交みたい……」


 従ってベイルは、そして赤毛の女もそうだが、彼らは知らず大きなため息交じりに声を零し、


「それゆえレト君、君の企みは我らにとっても一つの光明、現状を打破する武器に間違いなくなり得るんだ。何よりあのディックに青い顔させるには」


 特に車輪亭亭主はいざまなじり決するや、


「何としてもアマランスに勝てるグループ作り出す、それしか方法がない以上」


 ――そんな実に力強い言葉、発していたのだった。


 

(……よし、これで)


 そして刹那ほっと胸撫で下ろすことできたように、まさしくそれこそがあの俺がプロキオンメンバーに約束したデビュー日、白羊亭を必ず満員にするという策、そのもので……。

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