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33.重大発表

 そしてついに、レッスンは始まってから早くも10日を迎えることとなった。



「ほら、さぼっていないで、早くやりな!」


 むろん午前中はエドラによるダンスの稽古、

 

「皆さん、まずはよく通る声を出すために……」


 午後はユージンによる歌の練習というスケジュールは変わらずに。



 ちなみにさすがに10日間もすれば、レッスンにおいてそれぞれのメンバーの得意分野はかなりはっきりと見分けられるようになっていた。むろんそれは事前の予想通りのものでもあり、


「……へえ、なかなかやるじゃないか」

「こんなの楽勝だよ」


 たとえばダンスにおいては初歩のステップは簡単に覚えてしまうなど、相変わらず不平たらたらながらやはりユリアーデの実力が一歩も二歩も抜きん出ていて、


「キルデアさん、凄い、これなら今すぐステージに立っても……」

「いえ、私なんてまだまだです」


 一方歌唱に関しては、ユージンも驚いたようにキルデアに敵う者など一人もいるはずがなかったのである。


 

「ねえ、リップル。あそこの動きのところ、後で教えてよ」

「うん、いいよ。代わりにアリーシャ、僕にも音程の上手い取り方、教えて!」


 とはいえ、すでに良いコンビ形成していたアリーシャとリップル含め中々順調に滑り出していきつつ、そんな中どうしても俺の、いやメイルもだが、その大きな気がかりとなっていたことが一つだけあったのも、また隠しようのない事実ではあり……。



「ホーリー、どうしたの? 全然ついてこられていないじゃない!」

「す、すいません!」

「ほら、もう一度行くわよ、私の動きに合わせて!」


 そう、少なからず危惧していた通りホーリーはどうしても歌、踊りともにその練習のスピードに追い付いていくこと出来ず――特にダンスのレッスンにおいては、それがより顕著に示されることとなってしまったのだった。


「――まったく、あんたは基本からまるでできていないわね」

「は、はい……」

「でも明日までには、この動きを完璧に覚えること。だからあんただけ今日は別メニューにするから、そこで一人練習していなさい!」


 すなわちユリアーデに対するのとはまた違う意味で、取り分け厳しくエドラの叱責が日々飛んでいたように。


「分かりました……」


 もちろん素直なドワーフ少女は、ユリアーデとは大いに異なりそういった命令にもすぐ従い、気づけば酒場の端っこで自主練習、それも初級クラスのものに取り組んでいる。アリーシャなどは心配して傍に寄って行ったものの、彼女の邪魔をしたくないのだろう、大丈夫だよと無理に笑顔浮かべて。それゆえ代わりにメイルがよく隣で練習の手伝いをすることも多かったのだが。


「メイルさんも忙しいんでしょう? 私は一人で大丈夫ですから」


 しかしついにはそれにも、強がって拒否示す有り様なのだった。


「もう、ホーリーったら」


 その態度はそれゆえ特にメイルをして、かえって心配な表情現わさせるに充分過ぎたほどで。つまりはどう考えても、ホーリー一人が皆から置いて行かれる状況には変わりようがなく――。


(さて、どうしたものか)


 それ見た俺が思わず溜息洩らすのも、はたして一度ならずよくあることだったのである。


                  ◇


「みんな、今日の練習お疲れ様! 最後に、ちょっとここへ集まってくれ!」


 ――だが、いずれにしてももはや計画はどんどん進み後戻りできない以上、立ち止まっている暇は微塵もない。ゆえにある大きな決意持って、俺はその日の練習後皆をステージ上へ一斉招集したのだった。


「何、一体?」


 むろんいつも一番に帰宅するユリアーデなどは、実に面倒そうな顔していたのだが。


「疲れているところ悪いな。実は二つほど、君たちに発表したいことがあって」

「発表?」

「うん。もちろんこれまでの歌踊団の活動に関する」


 とはいえ俺は構わず、自らの逸る気持ち抑えるようにはっきり告げていた。そう、これはそれくらい、実に重大極まる事項だったのだから。


「そう、まずは、このグループの名前だ」


 従って、必然的にやけにもったいぶった言い方ともなってしまい。


「え、グループ名?」

「へえ、つけてくれるんだ!」


 当然ながらメンバーたちも、いつしかそんな声音に引きこまれていたのである。


「もちろん。青銅の盾にだって、立派な名前持ったグループがあるんだから」

「それってアマランスのことかしら? そうね、彼女たちに名称があるなら……」

「だったら是非、格好いい名前を!」

「そうそう、それも覚えやすい!」


 何よりも、いつもはクールなキルデアはじめ皆が一挙にわいわい活気づいてくれており、おのずとそれ見た俺も俄然やる気湧いてきて。


「大丈夫。まあ、そんな変な名前じゃないから」


 ゆえに再び何とも思わせぶりな間を一つ置くと、さらにコホンと一つ咳払いもし、


「――つまり、『プロキオン』。それが君たちのグループの名前だ」


 次の瞬間俺は胸を張り、そんな言葉皆へ向かって告げていたのだった。



「プロキオン――?」


 ……しかし刹那、それ聞いたみんなは分かり易くもポカンとした表情現わしていた。


「何それ?」

「聞いたこともない……」


 もちろん口を揃えてそう言ったように、案に相違して今までの人生で一度も耳にしてこなかった類の単語だったのだろう。全員が全員、茫然とした感じである。


(しまった、そうか。星の名前がこっちでは違うんだ!)


 それゆえ瞬間俺は、自らの失態を思う存分悟ることとなってしまった。一応お洒落に用意したつもりだったのだが、どうやらその肝心の星がこの世界には存在しないようなのだ。つまりは、恐らく夜空に輝く星座自体が、こちらではまったく異なっているはずで。


(小犬座のプロキオン、なんて言っても、理解できないのか……)


 むろんそれは俺のかつての生き甲斐、あの子犬のサーカスから連想されたものだったが、そんな前世の知識彼女たちに関係あるわけがない。世界が異なる以上。従ってその浅はかさへふいにどうしようかとあたふたさえし始めたものの――。


「で、でも、何だか凄く良い名前です!」


 しかし、その時ホーリーが実に嬉しそうに言ってくれたので、駆け出しプロデューサーとしてはようやく、そう僅かながらホッとすることできたのである。


「何か響きも素敵だし」

「……まあ、そう言われると確かに悪くないかも」

「うん。何となくだけど」


 そしてそれに合わせポツポツと出てきた肯定的意見、しっかりと耳にしながら。



「まあ、名前はとりあえずそれでいいけど」


 かくて一応名称問題はこれで決着がついたと自分なりに理解すると、次にはユリアーデが口を開いてきた。明らかに、疑問顔というやつだった。


「もう一つの発表って、一体何なの?」

「――ああ、そのことか。もちろんこれから言うよ。驚くなよ」

「何、そんなにもったいぶって」


 もちろん俺はそのこと完全に予想している。よって次の言葉は、皆に聞かせるべく淀みなく出てきたのだった。


「これは、つまりデビュー日のことだ」


 しかもおのずとやってやったぜ感、全開にして。


「デ、デビュー?!」

「それって、まさか……」

「うん、そのまさか。つまり『プロキオン』がお客さんの前で演技を初披露する日のこと」


 そして向こうの示した反応もまさに百発百中、想像通り。つまりは完璧極まる驚愕。……よって俺がさらに言葉告げるまで一瞬押し黙ってしまったのも、状況考えれば至極妥当なリアクションだったのである。


「ふふ、だから驚くなって言ったのに。……とにかく今日から丁度三週間後、初舞台をすることになったから」

「え、そんな。いくらなんでも急じゃ……」

「大丈夫、それまでに十分レッスンして、自信とスキルをつけていけば良いんだ」


 むろんそんな中、アリーシャがやっと述べた声はいかにも不安げだったが、俺としては全く構っていられない。そう、白羊亭の財政状態もあり急がなくてはならず、何よりいずれにしても目標をちゃんと設定すれば、この少女たちもより一層日々の練習に励んでいくはずで。はたしてそうなれば、当然全体のレベルも……。


「でも、どこでやるんです?」


 するとそこでキルデアが質問してきた。だがそれもまさしくズバリ、これから俺が説明したいことそのものだった。


「おお、よく聞いてくれたね。そう、場所は他でもない、ここ白羊亭だ」

「白羊亭……? で、でも、お客さんは」


 もっとも、そうして俺が得意顔となって教えてやっても、キルデアは喜ぶよりむしろ困惑の色濃くさせたのだが。そこにあったのは、すなわち訝しさの一種に間違いなく。


「……入るんですか?」


 そして彼女がそんな顔したのも、確かに無理はなかったといえるだろう。つまり常にレッスンのために貸し切り状態にすること可能な、この年中閑古鳥酒場の現状を少しでも鑑みてみれば。

 それゆえキルデアのみならずその大きすぎる懸念は、必然的に刹那五人全員が共有したと思われたものの、

 

「何、大丈夫だ。俺には必殺の策があるから。そう、必ずその日は白羊亭を満席にしてみせる!」


 ――俺はまるで構わず、そうした不安吹き飛ばすように、続けてどこまでも自信漲った大言一気に放っていたのだった。

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