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28.メンバー集合(2)

 そうして時はいたずらに過ぎ、気づけば期限の正午直前を迎えていた。厨房ではリップルのリクエストに応え、スコットが俄然食事の準備中だ。はたしてそれを受けて室内には、焼いた肉や香ばしいスープの良い匂いが所狭しと充満し始めていて。


「やった、美味しい料理にありつける!」

「スコットさんのごはん、上手なものね」

「まあ良かったが……にしてもリップル、お前相当な食いしん坊だな」

「何だよ、それは僕だけじゃなく、ユリアーデもだろ!」


 早くもテーブルの一つでは、それ囲んだ合格者たちの気楽な会話の花が咲いていたのだった。


「……あなたたち、本当能天気で良いわね」

「あ、何だと?」

「ここまで来て、まだ気づくことないの?」


 ただし、その中では唯一、キルデアのみが何か気遣わしげな顔示していたのだが。


「気づくこと?」

「ええ。だってこんな時間まで待たされたのよ、私たち」

「いや、だってそれは、期限がお昼だから……」


 そしてそんな様相のセイレーンへさすがにアリーシャが控えめに疑問呈すると、件の少女はいよいよ真剣な風で答えていたのである。


「でも、全員揃ったなら、もう閉め切りにしてもいいじゃない。それでも、まだ何かを待ち続けているってことは――」


 そう、それはまさに俺がいまだ気がかりとなっていること、そのもので。


「え、まさか?」

「そう、そのまさかよ。絶対にレトさんたち、ホーリーのこと待っているはず」


 ――その直後、まさしくズバリとキルデアは事の真相言い当てていたのだった。


「ホーリー? マジで?」

「この前、全然ダメだったじゃん」


 むろん対してユリアーデ&リップルは訝しげな顔全開となる。オーディションであの子の惨憺たる様子直に見ていたのだから、それも当然だろう。すなわち彼女たちにとって、可哀想だがホーリーのみはもう落ちたも同然だったらしく。


「それに、だとしてもまだ現れないぜ、あいつ」


 何より、当の本人がいまだ白羊亭へやって来る気配、微塵もないのを見れば。


「あの子自身、まだ迷っているのかもね」


 ゆえにそう言ったキルデアの表情にも、どうにも浮かないものが浮かび出していて。



「ねえ、レト」


 ……そんな四人の会話に入口よりそれとなく耳傾けていると、そこへメイルが背後から声をかけてきた。エプロンを着け父親の調理を手伝い中、しばし抜け出てきたのだろう。何とも心配げな声音だ。それゆえ俺がハッとそちら振り向いたのは言うまでもなかった。


「どうした、メイル?」

「ホーリーのことよ、まだ待っているんでしょ?」

「……ああ、うん」


 もちろんその表情見た瞬間、俺は彼女の懸念すぐ理解している。何よりホーリーは実にいたいけで気になる存在なのだ。よって彼女が俺と同じ内心なのは明らか過ぎるくらいだった。


「でも、もうこんな時間よ。諦めた方が……」

「うん、言いたいことは分かる。でも、後少し、ほんの数分だけ」

「……変に時間をかけると、かえって他の四人に悪いわ。それより、早く次のことを」


 ――だが、その結論としては、むしろ俺とは完全なる真逆だったようだ。すなわち、アイドルグループはもうこの四人で決まったと断言しているも同然で。


「だから、レトももう座ったら?」


 その証しに、いまだ入口近くで辛抱強く立っていた俺へ、食卓につくよう促したのだから。


「う……」


 そしてその静かな言は、にわかながら俺としてもさすがに的を射ていたと充分思われ。


「そうだな、もう諦めるしかないか……」


 ――そうして待った甲斐もなくもう潮時かと、結局深いため息とともに一旦開け放しだった入口から離れようとした、



「あ、あれ!」


 ……しかし、それはまさにその一刹那だった。


「え?」

「レトさんの後ろ!」

「え、俺?」


 突如としてリップルが異様にバカでかい声を上げ、たちまち酒場にいた全員の注意をそこ、俺の背後へといざ向かわせたのである。


「あ、あなた……」


 そして何より、目の前に立っているメイルがいつしか俺越しにそちらへ驚きの余り見開いた眼、寄越しており、


「来て、くれたんだ」


 そう、途端発された彼女の安堵とも驚愕ともつかぬ声音、耳にするまでもなく――


「はい、来ちゃいました。……私も、やっぱり歌って踊れる人になりたいんです」


 瞬間俺はすぐさまそこ、白羊亭の外に件の待ち人がついに到着したことを、背中ながらしかと理解していたのだった。


「……でも、本当に私で大丈夫なんですか?」


 ――もちろん、次いで相手がそう控えめに伺ってくると、俺は慌ててそちら振り返っており。


                  ◇


 かくてついに揃ったグループのメンバー。むろん、要はホーリー含め全員合格(よってユリアーデなどは、オーディションの意味あったのかよと不平零していた)だったわけだが、いずれにせよ俺は滅多にない達成感に包まれたまま、昼食後一旦解散することとなった少女たちへ大声で告げていた。


「では、三日後にまたここへ来てくれ! 早速その日からレッスンを始めるから!」

「先生がいらっしゃるんですか?」

「ああ、ちゃんと用意してある。ダンスと、歌、両方とも」


 すると生真面目なキルデアが常識的な質問してきたので、一つ頷いて答えてやる。もちろん彼女たちも真剣に取り組みたいと思っている以上、そういったところは実に気になるのだろう。まさにその心構えや良し、というやつだ。

 特にこれから、かなり厳しい道が待ち構えているゆえ。

 もちろん楽しいだけではない。


「では、よろしくお願いします!」


 そしてそんな中、アリーシャがメンバー代表して礼儀正しくお辞儀までしてくると。


「ああ、それまで準備をしっかりとな!」


 対する俺はどこまでも快活に、励ますようにそう答えていたのである。


                  ◇


 そうして全ての出来事がようやく終わり。

 やがて、いつしか時間は経ち……。

 その日の夜、白羊亭二階の一室には、机に置かれた紙を前にあれこれずっと考えこんでいる俺の姿があった。もちろん卓上にはランプも置かれ、辺りは昼間とは余りに異なり完全なる夜のしじまといった具合である。つまりはこんな時刻になっても、俺にはいまだやるべきことが数多残っていたのであり。


「ええと、グループ名はとりあえず決まっているから……」


 はたしてそんなこと呟きながら、あれこれ紙に何かを記し続けていた。


「後は衣装も揃えないと。くそ、やることが滅茶苦茶多いな」


 すなわち、今まさに行われているのはこれからの大まかなプラン作り。要はやるべきことを列挙したり、それらに優先順位付けていったりする。むろん言うまでもなくプロデューサーとしては必然の、余りに重大な作業に違いないだろう。特に先ほど少女たちのやる気溢れんばかりの姿見てしまったら、俺の方も俄然巨大な責任感が出てきたというもの。それは言うなればもはや後戻りもできず、後はただやり遂げるしかないレベルの。それゆえまだ結成初日ながら、すでに俺は今日徹夜でプランを固めるつもり満々で――。



「レト」

「わ!」


 そのためだろう、その時突然背後の扉をノックする音がして、次いで俺を呼ぶ声が聞こえてくると、途端ビクッと過剰反応示してしまったのだった。


「な、何?」

「その、まだ寝てないのかな、と思って」

「ああ」


 むろんその声の主は誰何するまでもなく、メイルその人である。俺は思わずドキリとしてしまった自分を一瞬恥じながら、そちら急ぎ振り返り答えていた。


「まだ考えることがあってね。待って、今開けるから」

「あ、いいの。私ももう寝るつもりだから」


 だが、メイルの反応はどこか遠慮がちのものだった。


「ただ、レトが疲れていないか心配で」


 しかもそんな一言も、付け加えてくる。扉の外から。従ってかえって俺が椅子に座ったまま恐縮してしまったのも、至極当然のことだったといえよう。


「あ、いや、でももうすぐ終わる……のかな?」

「ふうん。とにかく働き過ぎはかえって身体に毒よ。休める時に、休んでおいてね」

「う、うん」


 当然メイルの声も密かな感じで。


「じゃあ、また明日。お休み」


 ……そしてそうした俺の慌てたような応答扉越しに受け取ると、いかにも気遣うように少女は応じ、次いでその気配は静かに立ち去って行ったのである。


「……お休み」


 後には室内に、ただ一人俺をポツンと残して。

 もはやランプの炎の揺らめき以外、ほとんど音もない中。

 どこまでも薄暗く。


(そうだな……)


 朝から合格者の到着を待ちわび、加えて彼女たちにこれからのこと説明する。その時見たのは、少女たちの熱気溢れる表情……はたして瞬間、どっとそんな色々なことあった一日の疲れが出てきたのもまた動かしがたい事実であり、


(まだ残っているけど、後少しだけやったら、俺も寝るか)


 ――とりあえず羽根ペン手にしたままいきなり徹夜だけはしないようにしよう、俺は結局即座にそう宗旨替えし、そうしてその夜は緩やかに更けていこうとするのだった。

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