27.メンバー集合(1)
こうしてあっという間にオーディションの日から早一週間が過ぎ。
「ああ、もうこの日が来ちゃった……」
朝の鐘が鳴ったそのすぐ後、入口傍でメイルが落ち着かなげに零したように、ついに俺たちはメンバー招集の時を迎えていた。
「ちょっと、メイル。そわそわし過ぎよ」
「母さんだって、さっきからそこら中うろちょろして、落ち着かないじゃない」
「あら、そう? だって、本当に来てくれるか心配で……」
むろんそれゆえ浮ついた気分だったのは、メイルのみならずファレル家全体である。すなわちジェシカは娘の言う通りあちこち食堂内行ったり来たりしていたが、一見静かに見えるスコットにおいても椅子に座ってコーヒー飲みつつ、忙しなげに時おり入口の扉確認していたのだ。
「確かに、もうそろそろ誰か来てもおかしくないな」
そんな、いかにも心配そうな声音、洩らしながら。
「皆さん、そんなに心配しないでください。何よりちゃんと手紙は出したんだから、きっと来てくれますよ」
それゆえ亭主同様座っていた俺が緊張を鎮めようとしても、
「そうだけど、でも……」
「ええ、実際あの子たちの顔見るまでは」
「何せ我が店の運命が掛かっているからな」
白羊亭の一同にはいっかな言う通りにしてくれる様子がないのだった。
(こりゃみんな集まるまで、ずっとこんな感じだな)
はたして俺はその姿見て、こっそりと静かに一つ溜息零している。もちろん俺自身も少なからず案ずるところがない訳ではなかったが、しかしあの日からやるべきことを全てやってきた以上、後はここでただひたすら待つしかないのが現実であり。
ちなみに手紙に記した今日のタイムリミットは、正午まで。言うまでもなく、その期限までに誰も来なければ。
(とにかく、一人でも。まずはそれから――)
「すいません」
「!」
「あ!」
――だが、その固い心がけゆえだろう、その時幸運の知らせのごとくようやく待望の声音が扉の方から聞こえてきても、刹那俺は一家のようにやたら大騒ぎせず、穏やかな笑み零すだけでその人迎え入れることができたのだった。
「やあ、いらっしゃい!」
◇
まず、最初に扉を潜ってくれたのは他でもない、キルデアだった。白い髪が特徴的なセイレーンは、店内へ入るなり俺のこと見つけ、力強く言い切った。
「レトさん、あなたの作るグループに入ると決めました。よろしくお願いします!」
もちろん俺としてもこれにはほっと一息吐かざるを得ない。当然ながら、返す言葉にも隠しようのない安堵が含まれていたのだから。
「ありがとう、心から感謝するよ! ……それと君は面接の時もそうだったけど、一番乗りが好きなんだね」
「はい。……あ、いや、特に今回は受かりたかったので」
「それは嬉しいな。さあ、じゃあ中で後少し待っていてくれ」
もちろんオーディションで既に確認した通り、キルデアの歌唱力には実に頼もしいものがある。芸人としての経験もあり、彼女がいの一番に駆けつけてくれたのは幸いだった。
「キルデア、良かったら何か飲み物を出すわ。リラックスしてね」
そうしてメイルが優しげに彼女へ声を掛けてくると、
「はい! じゃあ他の人が来るまで待っています!」
セイレーンもしっかりと応じ、そしてテーブルの一つに向かって行ったのである。
◇
――吉報は続き、次の合格者がやって来たのはそれからおよそ一時間後のことだった。
「あら、いらっしゃい!」
それも、一気に二人して仲良く。
「道の途中でリップルに会っちゃって。そしたら彼女も合格していたっていうから……」
「うん、だから一緒に来たんだ」
そう、それは人間族にして商人の娘アリーシャと、ワーキャットにして弟思いのリップル。割と背の高いアリーシャと、五人の中ではホーリーに次いで背の低いリップル、この二人が揃うとやや凸凹感があったが、しかしオーディション時も一緒にいたように、なかなか息の合ったコンビのようである。
「ふふ、リップルったら、またここでご飯食べられるかもなんて言うからおかしくて!」
「あ、そういうこと言わないでよ! 内緒なんだから!」
何より、両者ともに似た者同士というか、かなり明るい性格のようで。
「はは、そりゃ出してもいいが、その代わりレッスンはちゃんと受けるんだぞ!」
そのやり取りを受けて、スコットなどは豪快に呵々大笑していたくらいなのだった。
◇
そしてそれから時はまた大分経ち、キルデア到着からは約二時間後……。
「あ!」
「ユリアーデだ!」
俺たち白羊亭側よりもまず先にアリーシャとリップルが目敏く気づいたように、扉を潜ってきた一人のエルフの姿があった。
「よろしく」
そう、それは輝ける金髪に純白の肌が映える、あの悪童かつ金持ちの娘ユリアーデ。むろん彼女にも手紙は出したゆえ来たのは当然のこと、驚く必要などなかったのだが、しかし俺は素直にその登場にある種の感動示さざるを得なかった。
「来てくれたか……」
すなわちオーディション当日の様子からすると、実力はあったもののどうにもやる気や熱意の方がいまいち窺えず、これはもしや合格しても断られるかとすら思っていたのだ。
「まあ、どうせヒマだし」
「いいよ、さあ中に入って!」
それゆえもちろん俺は、そしてファレル家の面々も溢れんばかりの笑顔で彼女のことすぐさま出迎えて。
「あ、ども」
「ふふ、参加してくれる気になったんだ?」
特にメイルが実に上機嫌に声を掛けていたのは言うまでもない。
「お金も貰えるしね」
「……ふん、偉そうに。でも結局遊びのつもりで来たわけじゃない」
「! 何だと?」
――ただし、その姿見たキルデアがまたもや皮肉げに横からちょっかい出してきたのは、やや想定外といえたのだが。
まあ、いずれにしてもここまではまこと予想通りの展開で。
(そうだな、後は……)
そうしてわいわい騒いでいる少女たち見ながら、だが、俺にはまだ、どうしても心残りのことが一つだけあり――。




