間章 ②
それは、35歳の頃、ある夏の日の夜だった。
「え、何だこれ……?」
自宅でいつも通りネットサーフィンしていた俺は、だがある動画を偶然見たことで瞬間身体が固まってしまっていた。
「子犬の、サーカス?」
つまりは、それくらい刹那に衝撃受けたのだ、パソコンディスプレイの中に入れられた、その五人組の姿に。
黄色を基調とした、まるで囚人服のような、横にボーダー柄入った奇抜な衣装。
時おり曲中狂ったように叫ぶ、一見耳障りだがしかし同時に耳を引く歌。
何より、それを唄う、五人の個性豊かなメンバー。
観客のボルテージも、もちろん合わせて最高のものとなっており……。
「これが、アイドル……」
しかも動画のタイトルを見れば、アイドルグループのライブ映像と記されてある。もちろん、それ見ても俺がいまいちピンとこなかったのは言うまでもない。
すなわち、俺が子犬のサーカスと出会った初めは、どことなく魅かれるものは確かにあったものの、しかしいきなりどハマりするということまでには至らず――。
(凄い子たちが、いるんだな)
感想としても、どちらかというとショックの方が大きかった程度なのだった。
だが、それから一月もしないうちに、俺は完全に彼女たちの虜となっていた。
むろんネットで見た衝撃がいつまでも脳裡に色濃く残っており、結局再び動画を見たり、さらには他の情報を集め出したりしてしまったがゆえ。そして深く入りこんだネットの世界では、件の子犬のサーカスは既になかなかの著名人となっていたようだった。
『負け犬たちで結成されたグループ』。
それも様々な掲示板などでグループ名とよく一緒に、そんな何ともまさしくアイドルらしからぬキャッチコピー掲げられて。そう、どうやら一見悪口にも見えるそれは、しかしまさに正真正銘このグループを言い表すピッタリのワードだったのであり。
(どういうことなんだ?)
むろん俺の興味を次第次第により大きなものとするには、実に十分過ぎるものだった。
そしてしばらくして、俺はそのキャッチコピーの真の由来知ることとなる。
幾つかのサイトで調べたことなのだが、子犬のサーカスはどうやら様々な挫折、失敗経たいわくつきのメンバーたちで構成されたグループのようだったのだ。しかもその挫折というのが全て半端なものではない。そう、元不良がいたり、仕事先のハラスメントで体調崩し、辞めてしまった者がいたり、そして学校でいじめに遭い、不登校になってしまった者がいたり……。
つまりは文字通り、と言っていいのかは分からないが、あえて断言すれば、まさに負け犬の集団、というやつそのもので。
(こんな人たちが、いるんだ……)
はたしてさすがにそこまでではないにせよ、パッとしない半生送って来た俺はその境遇に強いシンパシーめいたもの感じ取り、以後人生の中で初めて、一つのアイドルグループを熱狂的に追いかける生活が始まっていったのである。
――すなわち、まさしく人生の全てを賭けてもいい、そう思わせたくらい。




