25.実技試験(1)
……そうして何やかやあって、およそ15分経った後のこと。
「レト!」
いずれにせよ全面接が終わり、俺が二階の一室でようやくふうと息吐くことのできた、その時だった。
「ああ、メイル。終わったよ」
「ちゃんとみんなから話聞けたんだね、良かった」
「結構疲れた。面接ってこんなに大変なんだ」
何か飲み物の入ったグラス手にしたメイルが、賑やかに入室してきた。もちろんその表情見るに、すぐにでも色々聞きたそうだ。何よりグラスをすっと差し出すと、彼女は俺の顔まじまじと見つめたのだから。
「それで、誰が合格とか、決まったの?」
つまりはそんな一言も、視線とともに添えて。
「うーん、第一印象ではもちろんそれなりに固まっているけど、後は実技を見てからだな」
「ダンスと歌を見るのね? 五人とも、大丈夫かなあ……」
「話によると今のところ歌好きが二人、ダンス好きが二人、その他ってところだな」
対して渡されたグラスの中のレモネード飲みながら、ゆっくり答える俺。その言葉の通り今まさに面接結果を頭の中でまとめているのは言うまでもない。やはりそれなりに、実際対面すると分かってくることが多かったのだ。
「もちろん実際見てみないと、判断できないが」
むろんそれに実技試験加えることで、さらにアイドルとしての資質ははっきりしてくるはずで。
「うん。ちょうどピオトさんも来てくれたところよ」
「あのお爺さんか。さあ、じゃあここでゆっくりしているのも何だ、早速行こう。みんな、下で待ちくたびれているはずだから!」
それゆえ俺はそんな力強い声出すと、次にはすぐさま跳ねるように椅子から立ち上がっていたのである。
◇
「――さあさ、行くぞ。『小人六人』!」
白服の上から赤いベスト纏ったお洒落な老人が元気に声を発すると、途端ヴァイオリンの賑やかな旋律が流れ始めた。
「お願いします!」
するとそれを受け、ステージ真ん中に立ったキルデアが姿勢正し発声のポーズ取る。まさしく前奏の後、すぐさま歌へ入れる様相だ。すなわち今まさに、老人の演奏は冴えに冴えを見せ。
「うわあ、こんな人前で歌うのか。緊張するなあ」
「うん、ちょっと怖いね」
座席側からそれ見たリップルとアリーシャは、早くも気圧された風さえ見せている。
「ふん、あれだけ自信満々だったんだ、しっかり見せてくれよ」
一方のユリアーデは、相変わらず椅子にふんぞり返り完全に悪たれた態度だったものの。
「……」
そして一番後ろの方から見つめていたホーリーに至っては、もはやその顔色ほとんど真っ青に近く――。
「さあ、ここからだ!」
かくてそんな聴衆、他の四人の応募者と俺、メイル、スコット、ジェシカを前にして、老人ピオトがさらに声を掛けるや、いよいよ件の実技試験、まずは歌のパートが始まったのだった。
◇
聞いておくれよ そこのお嬢さん
俺が追っているのは 名うての盗賊で
やたらちっちゃな姿した 男の衆六人
何せあいつら気ままに屋敷へ忍びこめば
金も宝石も盗み出すこと好き放題
しかもどこまでも抜け目なく
奴らが捕まったなんてありがたい噂
これまでついぞ聞いたことがないもんさ……
すなわち、それは今メールジェアンで流行っている歌の一つ。昔白羊亭で働いていたピオトという名の今は引退した楽士にスコットが頼みこんで、今日だけの約束でその曲ともう一つ、演奏してもらうこととなったのだ。
「おお!」
「す、凄い……」
そして当然キルデアも、その軽快な歌知っているはずだったのだが、
でもある日、この近くのクレアスに
六人が隠れていると伝え聞いて
俺ははるばる遠くのメルノから
この剣片手に勇んでやって来た……
しかし実際その歌声を耳にすると、その出来栄えはまこと素晴らしいとしか表現できないものなのだった。もちろん音程の正確さ、歌の魅力等すべてが申し分ない。
「綺麗――」
そう、俺の背後でホーリーがほとんどうっとりと呟いていたように。そこに先程の怯えはもはや跡形もなく。
ましてやピオトのヴァイオリンが奏でるメロディの的確さもあり、キルデアの歌は先へ先へと進むほどにその麗しさ、気高さ増していって――。
そして俺は、小人の一人の居場所
ついに探し出したのさ……
それゆえキルデアが一番のパート丁度歌い終えるや、
「おお、見事!」
「やるじゃないか!」
はたして場内には、ファレル夫妻の声を皮切りに雷鳴にも似た盛大な拍手、一斉に巻き起こっていたのである。
◇
「さあ、次はダンスの方を。よろしく頼みます!」
そして間を置かずして、今度はいよいよダンスの試技が開始される。もちろんピオト老人の演奏もそのままだ。
「ほいきた、では『湖の貴婦人』!」
途端ステージ奥で椅子に腰かけていた老人は応じ、彼の手慣れた伴奏が室内に響き出す。それはまたもや今巷で大好評の曲の一つでもあり、
「さあ、キルデア。君の思うままに舞を見せてくれ。とにかく自分の感じでいいから!」
次には俺のそんな声も上がっていた。
そう、ここでまず見たかったのは、正確さよりも、とにかくその子が持つ本来のダンス適性。むろん細かいテクニックは抜きにして、動きのキレや適応力といった。そもそも俺自身完全なるダンス素人だったので、これは致し方ないところだろう。すなわち、そんな俺の、さらに他の聴衆たちから見ても、特に大きな違和感感じられるようなものでなければまずは合格ラインということで……。
「はい!」
そうして刹那、開始されたキルデアの五分間の舞。
長い手足を存分に使い。
ステップや表情にも、かなり見応えがあり。
何より、時間が立ってもスピード、躍動感ともに衰えることがない。
それはさすが芸人一座出身だけあって、もちろんさほど悪いものとはいえず。
「わあ、上手ねえ!」
盛り上げるためか本心からなのか、とにもかくにもメイルが感嘆の声発したように、十分見るに値するレベルのものなのだった。
「ハアッ、ハアッ……」
もっとも当然ながら本人は、伴奏が進むほどに息荒くしていったのだが。それは特に緊張感が為せるわざのはずで。
「ブラボー!」
「今度も良いよ!」
いずれにせよ、試技中にはまたもやスコットとジェシカの大きな声援が、彼女のこと励ましていって――。
「キルデア、ありがとう。後はゆっくり休んでいてくれ。さあ、次はアリーシャ。もちろん同じ曲で、ピオトさん、よろしくお願いします!」
そして全ての演技終えたセイレーン笑顔で迎えると、オーディション実技試験は面接の順番通り、次いでアリーシャ、リップル、ユリアーデ、ホーリーと続いていったのである。




