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23.ユリアーデ

 四人目、つまり白羊亭へ四番目にやって来た応募者、それは、


「よろしく」


 口も態度も悪い、だが同時にかなりの美貌誇るあのエルフに他ならないのだった。


「砂時計? でもマジでそんなに時間要らないと思うけど」


 もちろん先ほどと同じく、椅子に座るなり極度の太々しい態度もそのままで。


「……ユリアーデさん、だね?」

「そうだよ。で、あんたがレトさん?」

「うん。そうだけど」


 そして俺がそんないわくつきの相手へ思わず鼻白みつつ言葉掛けると、逆に向こうからも質問が来る。むろん間違いなく、その時点で普通の面接なら超のつくマイナスポイントだ。


「何か、ちっちゃいね」


 しかも、そのすぐ後にはほとんど禁句同然の一言まで放っていたのだから。


「はは、はっきり言うね。でも今は面接だから、そういう言葉には注意した方が……」

「そうなの? まあ、でもこんな経験一度もないから、分かんないや」

「ふうん、そう――」


 もちろんそれでも俺としてはちゃんと大人の対応見せたものの、結果返ってきたのはこの答えである。


(凄いな、こりゃ……)


 ゆえにこれまで面接をしてきて初めて、ついに呆れたような心の声も洩れていたというもの。はたして、これでその目を引いてしまうレベルの美しい見た目がなかったとしたら――。


(それにしても、これがエルフなのか)


 そう、改めて確認するまでもなく、目の前に座るのは一級の貴族令嬢も裸足で逃げだすほどの麗しさ誇る、かなりの美少女なのだ。

 肩の少し上まで届く、輝くような金髪。やや眼尻の吊り上がった、サファイアブルーのアーモンド・アイ。高く雅やかな鼻、先の尖った耳。そして雪のような白い肌を、腕は剥き出しかつ身体にぴったりした白の上衣と青のロングスカートで包みこんだ。

 それはまさに、息を飲むほどの印象深さとでも言うべきで。


「……それで、君は歌と踊りの方は?」


 それゆえ一瞬相手の無礼も忘れ溜息吐きかけたものの、しかしすんでの所でとどまった俺は、ようやく本来の仕事思い出している。すなわち今はこの少女の資質見極める時、ただただ見惚れている場合などではない。

 むろんそれくらい、こっちにも白羊亭背負っているという強い意識はあったのだから。


「うーん、歌はそれなりだけど、ダンスは自信あるよ。エルフの中でもスキルは高い方なんじゃないかな? 早速見てみる?」

「……いや、それはこの後のプログラムだから。じゃあ私的なことも聞くけど、ほう、君は山の手に住んでいるのか?」

「うん、コーネリア地区にね。親が魔術の先生していて、金持ちなんだ」

「へ、へえ」


 そして次いでペース取り戻そうと俺が彼女の私生活面に話及ばせると、対してユリアーデはなんのてらいもなく答えてきた。本当にあっさりと、簡単に。


「そりゃ凄い」


 従っていまだ一文無しのこっちとしてはそう返さざるを得ない。特にそう言われると、口の悪さはともかく高貴な雰囲気も漂っているように思われたため。


「じゃあ、家でもダンスの練習をしてきたんだ?」

「家は広いから。いくらでもできるよ」

「うん、なら聞くけど」


 ――だが、だからといって必ずしもそれがアイドルにふさわしい条件とは言い難いのもまた事実だった。かなり特殊な案件とは思われるが、しかしそれよりもまずもって彼女には聞かなければいけない大きな質問が一つあった以上。


「え、何?」

「つまりは他でもない、君が本当に」


 はたしてそれはつまり、アイドルを目指すうえで最も重大過ぎる問いで、


「これから作るグループに入りたいかという――強い気持ちを持っているか、なんだが」


 そうして俺の告げる声も、おのずと真剣味帯びたものとなっていたのだが、


「ああ、そのこと」

「うん、これは決して遊びじゃないんだ」

「分かっているって、そんなこと」


 対してユリアーデは刹那不敵な笑み口許へ零すや、


「俺だって本気だよ、だからここへ来たんだし」


 そんな言葉、強気に返してきたのである。


「もちろんそれなりの覚悟だって、持っているんだから」


 ――さらに締めには、ふいにその面差しここへ入って来てから初めて、真摯なものにさえして。


 

(お、これは……)


 そしてそのためだろう、俺はまさにそこに、今までとは違う彼女の中の紛れもない本当の気持ちというやつ、一瞬ながら垣間見たような気もしており……。


「――おっと、それはそうと、早くこの面接終わりにしようよ。何か疲れちゃったし」

「え? あ、ああ……」


 だが、結局あるいはそれは単なる幻だったのか、次の一刹那にはその真剣味もあっさりと消え失せ、俺の前には再び先ほどの悪ガキエルフが舞い戻っていたのである。

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