20.キルデア
……ベッド等余計なものは全てどかし、机と椅子だけが置かれた殺風景かつ大した広さのない部屋の中で、そうして俺はついに最初の応募者迎え入れることとなり。
「では、一番の方」
卓の上で砂時計を裏返すや、まずは提出書類手にしたまま対面に座る相手の方見やる。紛れもない、それは面接開始の合図だった。
「はい、お願いします」
「お名前は?」
「キルデアと申します」
むろん対する、ゆったりした白い衣装に赤いベルト締めた少女は姿勢よくすぐに返答してくる。しかも礼儀正しく、かつ平静に。
(お、かなり落ち着いているな)
それゆえ俺がその対応にいきなり知らず感心してしまったとしても、至極当然のことでしかなかっただろう。すなわちまさしく今の俺は、バイトで面接官務めている人間とほぼ同じ心持ちになっており。
「なるほど、それで、ここに記されていることによれば――」
そう、何よりまずはスキルやセンスよりもその性格見極めるのが大事と、一人密かに期するものがあったのだから。
(グループだし、協調性が一番大切だからな)
ついでにそんな心の中の呟き、そっと零しつつ。
「へえ、君はセイレーンなんだ」
「はい、この辺りでは珍しいかもしれませんが」
「確かに。でもということは、歌が得意なんだね?」
そうして気合入れて本番へ入り、そんな中相手が答えてくると、俺は俄然興味深いものを感じることとなった。セイレーン――我が前世におけるファンタジー知識によれば、それは間違いなく歌の名手、それも悪魔的な、だったからだ。つまりは古代ギリシアの英雄たちですら、その妖しい歌声で簡単に眠らせてしまったという……。
「もちろんです。私はこの歌声で、以前旅の芸人一座に所属していたのですから」
「なるほど、確かに書いてある。二年ほど『バルーフ一座で歌手として活動』と」
とはいえこの世界では、そんなセイレーンも普通に歌を唄って生活しているらしい。それも多分、聴衆を眠らせることなく。
「一座では、メインの歌い手を務めていました」
白色の流れるような長い髪、水晶思わせる澄んだ水色の瞳、そして細い鼻と小さな口、やや赤銅色の肌した、しかしどこか気の強そうな娘が自信ありげに言ったように。すなわちまた彼女こそが、先ほどあのエルフと派手にやり合っていたもう一方の相手に違いなく。
「へえ、結構自信はあるようだね」
その場面思い起こし、俺はふとそんな一言洩らしている。
「子供の頃からお客さんの前で歌ってきましたから」
「もうプロみたいなものなんだ」
「……確かに、それなりの経験はあります」
そしてそのためだろう、その自らの持つ力に対するプライドにもかなりの高さがあるようだ。つまりそれは同時に、不真面目な仕事をする者へのあからさまな嫌悪が今ですら隠し切れなかったくらい。
「それに、私は本当に心の底からオーディションに受かりたいんです。誰かみたいに遊びで来たわけじゃ決してありません」
――しかもはたして次には俺の目を真正面からしかと見つめて、そんな実に真摯な思い伝えてきたのだから。
「そうか、それくらいこのグループに入りたい、と」
「はい。絶対に」
何より、どこまでもその言葉が明瞭で。
そしてむろんそこまでやられると、俺としても結局大きく頷き返すことしかできず。
「うん、分かった。君の熱意は充分伝わったよ。後は二、三色々聞かせてもらって」
かくてしばしの間の後には、そんな応答とともに気を落ち着けるように改めて手元の書類へそっと視線落とし、
「お、得意料理はアップルパイ、なるほど……」
「あら、今度お召し上がりになりますか?」
「え? それはありがとう!」
ひとまず相手和ませようと、俺は何気に他愛のない話続けていったのだった。




