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19.運命のオーディション

 そうして様々な準備が終わった後、忙しなくもあっという間に時は過ぎて行き。


 4月10日、ついに訪れたオーディション当日。

 その日は相変わらずよく晴れた日で。

 そしてもちろん、朝から白羊亭には緊張感色濃く漂う中。


「みんな、今日はわざわざ来てくれてありがとう!」


 酒場の一階には、一つのテーブル囲んで着席した応募者たち前に新米プロデューサーたる俺の声が爽やかに響き渡っていた。


「広告を見てくれたんだね!」


 むろん心の底からの、感謝の意もふんだんにこめて。


「おお、本当にこんな若い娘さんたちが来てくれるとは……」

「凄いわね、やっぱりレトさんはやることが違う」

「ちょっと、父さん、母さん。今は大事な所だから静かにしていて!」


 すると俺の背後、店の奥側から聞こえてきたのはスコットとジェシカのいかにも感心した声音、およびそれをすかさず叱るメイルの声。言うまでもなく店の命運が掛かっている以上、彼らとしても気になって仕方がないのだろう、すなわちしばらくそこで事の成り行き見守るつもりなのはまず間違いないと思われ。


「……とにかく、これから白羊亭を彩る歌踊グループメンバーのオーディションを行ないたいと思います。皆さん、準備はよろしいですね?」


 それゆえ俺は若干その聴衆が気になったものの、それでも次には再び声を大にして、いよいよこれから始まる一大イベントの開始告げていたのだった。


「はあい」

「はい!」

「は~い」

「は、はい」

「はい」


 もっとも途端返ってきた、五つのそれぞれ特色ある返事に、やや物足りなさ覚えながらも。年齢も種族も様々と思われる、五人の少女たちの。


(うーん、たったの五人か。まあ、グループ作るには最低限足りる感じだけど、ちょっと少なかったな)


 もちろんそれが贅沢過ぎる愚痴なのは百も承知で、むしろとりあえずオーディションができるだけでも幸運だったのは余りに当たり前。従って俺はその内心決して外に洩らさぬよう努めながら、なるべく威厳示すように次なる予定発表したのである。


「では、まず一人ずつ面接を行っていきます。二階に部屋を用意してあるので、呼ばれた方はそちらへ来てください。その他の方は、ここでしばらくお待ちください」

「ねえ、実技は?」

「え?」

「そんな面接なんかマジでどうでもいいから、早く実力で決着つけようよ」


 だが、するとたちまち聞こえて来た批判めいた声。一瞬俺がそれに目を真ん丸にしてしまったのは言うまでもない。はたして慌てつつその声の方に急ぎ目を向けてみれば、そこにいたのは何と金髪と白肌が眩しい、明らかにエルフと思しき娘で。


「ねえ、それじゃダメなの?」

「ま、まあでも、いきなり実技よりは、これからのビジョンとか、やる気とかをまず聞いた方が……」


 かえってその美貌に、なぜか俺の方が妙に気圧された感となってしまう。


「いいって、そんなのマジ面倒くせえ。そもそもやる気なんか――」

「あら、あなたはそんなにやる気がないのにここへ来たっていうの?」

「何?」


 と、そうしてそんな俺のことなど一切構わず口のやたら悪いエルフが再びいかにも気だるげな感で喋り出すと、ふいにその横、同じテーブルの別の席から掛かってきた声があった。


「だったら正直邪魔よ、どうせ冷やかし気分で来たんでしょ?」


 それは白色の長い髪が特徴的な楚々とした美少女で、エルフとは違いパッと見俺にはその種族は分からない。まあ、いずれにしても相当気の強い娘ではあるようだ。


「な、何だと?!」

「あら、やる気ないくせに、何でそんなに怒るの? もうわけ分からないわ」


 そう、エルフが俄然顔色変えてきても、肩を竦めるだけで全く動じる気配なかったのを見れば。


「あ、待って、喧嘩はやめてくれよ! これから同じグループのメンバーになるかもしれないんだから。それに面接することによって、その人の特徴や考えが少しとはいえ分かるんだ。俺は演出家だから、そういうのが大事で」

「う……」

「あ、すいません」


 むろん、いくら出鼻くじかれたとはいえ、俺としてもそのいきなり始まりかけた口喧嘩をこのまま放置しておくつもりはさらさらない。よって何とか勇気鼓舞してその二人の間にかなり強引に割って入るや、


「とにかく、まずは面接から! これは絶対やるから、みんなも従ってくれよ!」


 その勢いのまま、今はただ叫ぶように宣言するしかなかったのであった。


「じゃあ、順番に一人ずつ呼んでいくから!」


                  ◇


 そんなこんなもあって多少波乱は生じたものの、いずれにせよ皆も大人しくなりようやく始まったオーディション。そうして俺がこれからするイベントへの緊張感とともに二階の一室へ向かっていると、階段の途中でメイルが声を掛けてきた。


「ねえ、レト!」

「え?」

「面接から始めるみたいだけど、大丈夫なの?」


 むろんいまだ俺の力を計りかねているのだろう、その声音はどこか訝しげだ。


「うーん、大丈夫かと言われると、一応OKとしか」

「何それ。でもこれからあの女の子たちの適性とか見なきゃいけないんでしょ? 前にこういったことした経験はあるの?」


 何より次に放たれた言葉は、実に問題の核心を突く一撃で。


「もちろん、……一度もないよ」


 対して俺は何とかそう答えている。

 もちろん前世だって若い女の子とはほとんど関わり合いにならなかった人生だったのであり、ましてや面と向かって話し合った経験などまず一度もあるはずがない。そう、日々の忙しさにかまけてつい忘れていたが、このグラスランナーの中身はまさに女子受けしないこと甚だしかったあの中年フリーターでしかないのだ。

 いくらこれからの仕事のためとはいえ、心臓は早くもバクバクし出しているというもの。何せ、本当にアイドルとなるにふさわしい娘なのか、そんな中僅かな時間で見定めないといけないのだから。


「一度も、か……」

「うん」


 当然メイルの疑問顔が消えることは決してない。彼女にとっても不安が大いに残っていた上は。


「ちょっと心配だなあ」


 続けて分かり易くもそう呟いたのだから。いかにも気がかりそうに。


「……だとしても、やれるの?」

「それは――」


 それゆえ刹那の間の後、やがて階段の下からメイルが最後に目敏くも確認の如くそんな質問気遣わしげにしてくると、対して俺は一瞬口ごもりつつも、


「任せておいてよ、自信があるから、やるんだ」


……それでも、何とか自分鼓舞するように、そう一言宣言せざるを得なかったのである。


「……そう」

「とにかく、俺を信じてくれ」


 そう、かくて経験も何もまずはそれを終わらせない限り、一歩たりと先に進むことなどできるはずなかったのだから――。

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