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16.踊り手エドラ(1)

 ……だが、そのすぐ後、結局俺たちは老婆の言に従いその踊り手の家目指す結果と相成っていた。


「レト、これは大チャンスよ。絶対逃がさないようにしないと!」


 むろんそうなったのは、全てメイルの決断によるものである。相手の怪しげな言葉に僅かばかり思案顔となると、しかしまさしく即断即決、早くも大きく頷いていたのだ。


「なら、ここに行きな。……オレガの紹介だと聞けば、受け入れてくれるはず」


 対して老婆から、何やら住所らしきもの記された小さな紙片を一枚、手渡されつつ。


「あ、行くのか……」


 もちろんメイルにそこまでやる気出されると、いくら疑わしいとはいえもはや従わざるをえない。かくして急転直下、俺たちは厚く彼女にお礼をするや、時間ももったいないとばかりに早速その足で住所の場所へと向かい始め――。


「ほ、本当にこの辺りなのか?」


 しかし、そうしてギルドホールから目当ての場所付近にやっと辿り着いたと思われたものの、そこで俺が発した第一声は、なぜか戸惑いと、そして怯えに満ちたものなのだった。


「うん、ハモンド地区って書いてあるし、間違いない」

「でも、ここっていわゆる裏町だろ?」


 そう、周囲に広がるのはアパート思わせる、陽光遮って仕方ないやたら丈の高い建物の群れと、それらに挟まれた息苦しいまでに細く薄汚い路地。何よりそうした建造物のせいで、まだ昼前だというのに視界が信じられないくらい薄暗く。


「大丈夫かな……」


 その見た目と、またメイルから伝え聞いているこの地区の様々な悪評により、はたして俺が早くもビクビクし出していたのは言うまでもなかったのである。


「まあ、裏町って言っても、まだ入口の辺りだから。レトと最初に出会った場所の方が、よっぽど奥にあったくらい。だからそんなに心配しなくても」

「ふうん」


 もちろん一方のメイルは、さすが長年ここで暮らしているだけあってさほどの怯え見せていない。すなわちそんな俺にあっさり声を掛けると、すぐさま本来の目的たる踊り手の家探しを始めていたのだから。

 いまだ半信半疑ながら、とにかく僅かな料金で教師役受けてくれるという、何とも稀有な人の住処を。ただしそれが誰なのか、名前以外何も知らされていない情況のただ中で。


「でも、本当にそんな人いるのかな」

「まあ、あのお婆さんも言っていたし、とりあえず会ってみれば」


 当然そこにどことなく不安なもの、二人とも(特に俺が)感じつつ。


「この辺りかなあ」


 いずれにせよ、そうして犯罪と悪徳はびこる場として有名な、街東部に広がるハモンド地区――通称「裏町」の中では、この紙片しか頼りになるものはない。

 俺たちはそこに記されてある文字と数字しっかりこまめに確認しながら、必死になってその住居探し続け……。


「あ、あった。レト、ここだよ!」

「え、本当だ!」


 およそ15分後、通りの一つが突き当りになった地点に、ようやくにして件の目的地探し出すことできたのだった。


                  ◇


 赤レンガで作られた、さほど見映えが良いとも言えない外観の建物。そう、はたして住人が何人いるのか見当もつかないそののっぽの住居こそが、あの老婆の教えてくれた人物の住んでいる場所に違いないのだった。


「――誰だい?」

「あ」

「え?」


 ――だが、意を決してノックしてからしばし後、扉がゆっくり開かれた途端、俺たちはなぜか驚きの表情示すこととなる。


「えっと、あなたが……」

「何?」

「いえ、舞踏家の」


 すなわち、その中、扉口いっぱいにいかついまでの巨躯立ちはだからせていたのは実に予想外の存在で、


「あたしに何か用事?」


 ましてや紛れもないそのオークの女は、訪問してきたのが見ず知らずでまだ年若い者たちと悟ると、たちまちにしてそんなやたらドスの効いた声音、掛けてきたのだから。


「え、えっと……」

「あ、私たちオレガさんからあなたのこと聞いて、来たんです」

「オレガ?」

「はい、是非踊りの先生になってもらいたくて!」


 はたしてそれは俺にとってまさか二度目の遭遇となるオーク、さらに前回のこともあり当然我知らず身体が硬直してしまっていたのは言うまでもない。かくて肝心の俺は目を点にして突っ立ったままだったものの、だがするとその横からメイルが果敢にも話を切り出していく。その様からするに、どうやらオーク自体がこの街ではさほど珍しい存在でもないようだった。そうして当たり前のように、二人が会話を始めたのを見れば。


「それで、あなたがエドラさんなんですね?」


 特にメイルの方に至っては、勢いかなり強いままに。


「そうだけど、じゃあオレガの紹介ってわけ?」

「もちろん。あの人が、踊りを教えてもらうならエドラさんしかいないって」

「――まったく、あの婆さん」


 と、少女のその言葉耳にすると、エドラは苦笑混じりに零した。確かにあの老女とはかなり近しい関係らしい、それはまさにそんなこと感じさせる様相だった。

 何より、いずれにしてもそのオレガの名前出すことで、相手の対応が大分柔らかくなったのは間違いなく。


「また勝手に話を進めて」


 文句とも諦めともつかぬ一言、次いで洩らしている。

 そしてそれでひとまず第一関門は突破したということか、オークの女エドラは仕方なしとばかりに一つ頷くと、もう一度鋭い眼光で突然やって来た二人組眺め回し、次にはようやくにして身体を少し奥の方へと引いていたのである――。


「まあいい。こんな所じゃ何だから、中で詳しい話を聞かせてもらうよ。さあ、入りな」


 そんな一言、俺たちへ向かって告げながら。

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