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11.アマランス(2)

 さて、メレアの牧人にいわく

 世界は美しき調和の時迎え

 クロディアス人の王国には光訪れ

 今や戦は遥か遠き国々の話

 げに神聖なる契約のもとに

 そしていつしか人々は分け隔てなく

 その身に神の御加護を授からんとし……



 ――はたして緞帳がするする捲りあげられていくや、楽の音とともにその刹那始まった、ある一つの雅やかな舞歌。

 そう、それはどこまでも神聖、かつ厳粛な。

 かつ現れたのは七人の、ゆったりした青衣纏った清冽で得も言われぬ美女たちで。

 途端瞳に映るその姿。その仕草。そのオーラ。

 やがてめくるめく、美しい演舞は舞台上次々展開していき。


(うわ……)


 特に肩上まで届く銀髪の、冷ややかとさえ見える絶世の美少女を中心にして。

 一部の隙もない、決して目を離すことのできない、たとえば俺の元いた世界では神楽と呼ばれていたものにもよく似た、ひとつの舞が。

 

 俺でもたちどころに分かる、そのどこまでも計算し尽くされたしなやかな動き。何一つ無駄のない躍動。想像力をはてしなく刺激する歌声。

 かくして真ん中にいる不動の一人を中心に、ある時は綺麗な横一列になり、またある時は激しく輪になって踊り……。

 すなわち全てが予想外、いや予想を超えていたといえようか。

 それくらい、月並みだが完璧だったとしか表現しようがない。

 しかも重厚なオルガン中心とした演奏に乗って謡われる曲調・歌詞はともにやたら荘厳で壮大なもの。俺のかつての経験に照らし合わせてみれば、それは古い西洋の教会音楽、賛美歌などに価するというべき。

 加えて何より目を奪われたのは、歌に舞にステージ上から俺たちを魅了してやまない、七人の歌姫が持つ、その美しさ。特に常に中心を占めているいわばセンターが、ずっと俺の視線を奪い取って仕方なく――。



「……あれって、もしかして全員エルフなのか?」

「そう、それも特に美しさ誇る。そしてそれこそがアマランス最大の特徴なの」

「いや、それにしても、あの真ん中にいる娘は……」


 それゆえ当然ながら俺は、完全にぼうっとした状態のまま、知らず隣席へと声を掛けている。要はあっさり腑抜けにされたのだ。こうなると先ほど現れたディックのことなどもはや頭からまっさら消えていたのはわざわざ言うまでもない。それほどまでに、青い水が流れるような不思議な衣纏った娘たちの艶姿は眼を引いて余りあったのだから。しかもそうして見つめている前で、アマランスは次々と早くなったりゆっくりになったり、舞の感じを鮮やかなまでに変えていって。


「中心にいるエルフのこと? あれはゼノビア、紛れもないアマランスで最も名の知れた、つまりはメールジェアン最高の歌姫よ」

「ゼノビア……」


 さらには特にメイルの説明したその凛とした銀髪のエルフの動き、歌声が、まるで今まで経験したことのないレベルの感動、俺に呼び覚ましてしまっており。

 そう、まるで初めて子犬のサーカス、その中にいるにむる見た時のような。


「何て、綺麗なんだ……」


 かくていつしか我知らず、感極まった声さえ心から洩れ出しているというもの……。



 栄あれ、栄あれ

 おお、ここにセバスのラアム王を讃えよう

 彼の君はその剣によってタニスの向こうまで雄々しく国を広げ

 異国より美しき姫緑眼のロクサーニ

 妃にせんと連れて参られたがゆえ……


 そうしておよそ半刻(1時間半)もの長き間、


 祈るがごとき唄声と、余りに幻想的な七人一体の舞による完璧な調和。


 その歌、ディック言うところの新曲『祝祭歌』はその場にいる者全てをどこまでも魅了しながら、しかし同時に決して微塵も飽きさせることなく、厳かに、そして華やかに続き、


(ああ……俺も、こんな)


 ――もちろん今まさしくそこに、必死になって零れようとする涙抑えている異なる世界からやって来た一人の男がいたことなど露知らず、完璧な流れで滔々と終わりへいざなっていくのだった。

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