【7話】妹は勘が鋭い
「ただいまー」
「お帰りなさい、お兄ちゃん!」
帰宅した俺を玄関まで出迎えにきてくれたのは、ピンク色の髪に茶色の瞳をした少女だ。
こいつは、村瀬舞。
元気で明るい、俺の妹。歳は二つ離れていて、中学二年生だ。
「お夕飯の準備はバッチリです!」
「ありがとうな」
家に上がった俺は、リビングの食卓テーブルへ座った。
その対面に、舞も腰を下ろす。
この家にいる人間は、これで全員だ。
両親は仕事の関係で、二人とも海外にいる。
いつ帰ってくるかは未定。
だから今は、舞と二人で暮らししている。
「今日はずいぶんと遅いお帰りでしたね。なにかあったのですか?」
「あぁ、うん。学校のやつと、ちょっとな」
「お兄ちゃんにも、やっとお友達ができたんですね! 心配してたけど……良かったぁ」
舞がホッと息を吐く。
表情に浮かぶのは大きな安堵だ。
どうして俺がぼっちなことを……。
というか、その母親目線はなんなんだよ。やめてくれ。
息子の成長を喜ぶようなその態度は、とても兄に対するそれとは思えない。
無性に恥ずかしくなっている。プライドがズタズタだ。
「そのお友達って、男の子ですか? それとも女の子?」
「いや、友達って訳じゃ……。ってか別に、どっちだっていいだろ」
そっけない感じでテキトーにあしらう。
好奇心旺盛な舞のことだ。
本当のことを言おうものなら、「もしかして彼女ができたんですか!」とか興味津々に食いついてくるに違いない。
それはかなり面倒なので、この話題についてはとっとと切り上げたかった――のだが。
「その反応……女の子ですね!」
なんで分かるんだよ! 怖えよ!
舞は昔から勘が鋭いところがある。
しかも、俺のこととなると特に、だ。
そのことで助けられたことは何度もあるが、同じ数だけ隠し事を見破られてきた。
そうなるたびに俺は、舞に対して恐怖心を抱くのだ。
まさにそう、今みたいに。
「今度家に連れてきてください! 舞もお話ししてみたいです!」
「いや、そんなの無理だし……」
雨宮さんを家に誘うなんて勇気が、俺にあるはずがない。
絶対に無理だ。
「だいいちお前、なにを話すつもりだよ?」
「そんなの決まってますよ。学校でのお兄ちゃんを聞くんです! 三者面談です!」
「……却下だ」
『お宅の村瀬くんは、コミュニケーション能力に大きな問題があるようですね。ぼっちの陰キャで、いつも一人なんですよ。カースト最底辺のゴミカスです』
『……そうなんですか。お兄ちゃんが迷惑かけてごめんなさい』
……うん、想像しただけでもひどい。地獄だ。
兄としてはかわいい妹の頼みをなるべく聞いてあげたいのだが、これだけは無理だ。
夕食と入浴を済ませた俺は、私室に入った。
ベッドに寝転がりながら、目的もなくスマホをいじる。
「やることもないし寝るか」
現時刻は、午後十一時。
いつもならもう少し起きている所だが、今日はダメだ。
俺は今、強烈な睡魔に襲われている。
久しぶりに陽菜に話しかけられたものだから、精神的に疲れてしまったのかもしれない。
部屋の電気を消して、ベッドに横になる。
そうして、目をつぶろうとしたとき。
ブー!
枕元に置いたスマホが震えた。
画面を見てみると、『トインに新着メッセージが届いています』という通知が表示されていた。
こんな時間に誰だ?
トインを開いてみると、
『今どこにいるの?』
そんなメッセージが来ていた。
相手は雨宮さんだ。
質問の意図は謎だったが、素直に『家にいるよ』と返す。
そうしたらすぐにまた、ブー!
十秒と経たずに返信が返ってきた。
『位置情報送って』
『なんで?』
『いいから!』
いや、理由を説明してくれよ。
そう思いつつも、俺は言う通りに位置情報を送る。
理由を聞き出そうとすれば、それだけ時間がかかってしまう。
早く眠りたいこの状況で話を長引かせるのは、どうにも面倒くさかった。




